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第6回 フォンと看護婦

「何だってぇぇぇぇぇっ!」


 病院内にフォンの声が響き渡った。すぐにカインとウィンスがフォンの口を遮ったが、その声はすでに廊下を通りあの看護婦の耳に届いている。廊下の奥の方からパタパタと、スリッパが床を叩く音が響きフォンの表情が引き攣る。呆れた様子のワノールは、目を閉じ眉間にシワをよせ、怒りのオーラが体から滲み出ていた。

 病室のドアが勢いよく開かれる。仁王立ちする看護婦は、鬼の様な形相で病室を見回す。ベッドには無表情のルナが座っていて、そのすぐ脇にカインがイスに座っている。入り口横の壁にもたれているウィンスは看護婦と目が合い一歩後退り「アハハハハッ」と小さく笑い声を上げる。カインのすぐ後ろでは眉間にシワを寄せ、怒りを滲ませているワノールの姿。何度も病室を見回すが、一人だけ見当たらない。


「先程の声の主が見当たりませんが、何処に言ったんですか?」

「フォンなら逃げた。そこの窓を越えてな」

「ま、また、窓を越えたんですか! もう、許しません!」


 そう言うと、看護婦は窓の淵に右足をかけ、そのまま窓を越えて走っていってしまった。さっきの言葉はなんだったんだと思う四人だった。

 ともあれ、ようやく静かになり、ワノールは話の続きを話そうとした。ドドドドドッと、足音が窓の向うから聞こえ、茶色の髪を揺らしながらフォンが窓を越え進入してきた。息を切らしながら壁に隠れるフォンは、四人の方を見て小さな声で言う。


「今すぐ、ここを出るぞ! このままだと、オイラの命に関る!」

「ですが、私の医療費が……」

「まさか、踏み倒す気か?」

「ワノールさん! なんて事言うんですか! 踏み倒すだなんて、ちゃんと後でお金は払いますって書置きして出てくだけじゃないですか!」

「そう言うのを踏み倒すって言うんじゃないのかな? 世間じゃ」


 軽いツッコミを入れるウィンスだが、カイン本人は物凄く本気だったらしく、何だかツッコミを入れられ落ち込んでいた。話をしようとしていたワノールも、この状況では話も進まんと、病室を抜け出す準備をする。警戒するように窓の外を仕切りに気にするフォンは、荷物を背負い息を呑む。


「皆、準備良いか? オイラの合図で飛び出すぞ」


 壁に背を合わせ窓から外を窺うフォン。まだ、微かに足音が聞こえる。きっと、あの看護婦が探し回っているのだ。薄らと額から汗を流すフォンは、ふと視線を病室内に戻す。その時、フォンの目に映ったのは、病室を当然の様に正面から出て行くワノール達の姿だった。少し残念そうな表情のカインは、名残惜しそうにベッドに座るルナを見据えていた。

 正面から出て行くワノール達三人に、驚きを隠せない様子のフォンは当然、大声で叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待て! ど、何処に行くつもりだ!」

「何処って、決まってるだろ? 病院を出て村を出て行く」

「病院出るって、正面から出て行ったら捕まるに決まってるだろ!」

「いや。ルナはお前が連れて出てくんだ。何の問題も無いだろ?」


 当然の様に言い放つワノールは、「後は頼んだぞ」と、告げて病室を出て行った。急に静まり返る病室内。残されたフォンとルナはただ沈黙を守っている。表情の引き攣るフォンは、暫し動く事が出来なかった。

 落ち着いた様子のルナは固まったまんまのフォンを見据え、小さくため息を吐く。もちろん、フォンに聞えないほど小さなため息を。そんな事も知らず、我に返ったフォンは頭を抱えて蹲る。


「う〜っ! どうすりゃいいんだ……。ここから、どうやってルナを……」


 ブツブツとそんな事を何度も言うフォンは、頭の中で何度も何度もシュミレーションするが、全て上手く行く気がしなかった。と、言うかそれよりもあの看護婦が何者なのか気になる。

 色々悩んだ。その末、フォンが考え出した策は――。


「行くぞォォォォッ!」

「ちょ、ちょっと! フォンさん!」


 フォンに抱き抱えられ、ルナは恥かしそうにそう叫ぶ。そんな言葉など聞いていないフォンは、窓枠に右足を掛けると外をキョロキョロと見回す。あの看護婦の姿は見当たらない。これは好機と言わんばかりに、フォンは窓枠を蹴り外へ飛び出す。二・三歩足を進めた所で、フォンは背後に殺気を感じ取った。


「こ……この殺気は……」


 ぎこちない動きで、恐る恐るフォンは体を捻り、後ろを振り返る。丁度、病室の扉を開けたばかりのあの看護婦が、夥しい程の殺気を漂わせながら立ち尽くしている。表情は俯いているため、分からないがこの殺気でおおよそ予測はつく。ゆっくりと鬼の様な形相の顔を上げた看護婦は、怒りで震えた声で言い放つ。


「大声出したと思ったら、今度は患者さんを何処へ連れてくつもりですか?」

「い、いや。ちょっと、散歩させようかと……」

「散歩ですか? それじゃあ、その背中に背負った荷物は何ですか?」


 背中に背負った荷物を指差し、鬼の様な形相が少し笑顔に変わる。だが、その目は笑っていない。引き攣った笑顔を看護婦に向けるフォンは、看護婦に聞えない程度の小さな声でボソッと呟く。


「グウッ……。やっぱり、散歩は無理があったか……」

「まぁ、この荷物で散歩と言うのは流石に……」

「――だよね」


 呆れた様なルナの言葉にフォンも苦笑いを浮かべそう答えた。流石に無理だと思っていたが、一応何か言っておかなければならないと思ったのだ。そんなフォンに笑みを見せる看護婦は、額に青筋を立てて今にも血管が切れそうだ。


「まさか、医療費を踏み倒そうとか考えてませんよね?」

「そ、そそんなわけあるはず無いでしょ。ただ、お金が無いんで少しの間待ってもらえたらなぁ〜って……。無理ですよね」

「そうですね。無理ですね。お金を払いに来ると言う保証もありませんから」

「――ですよね〜。それじゃあ、この辺で!」


 身を翻しすぐさまフォンは走り出す。と、同時に背後から足音が聞えてくる。看護婦が追ってきているのだ。重たい荷物を背負い、ルナを抱えるフォンは上手く走る事が出来ない。その為、看護婦に少しずつ差を詰められていた。


「フォンさん。もう追い付かれますよ」

「んな事言われても、コッチは色々とハンデを背負ってるんだぞ」

「事情話せば分かってくれるんじゃないですか?」

「そう思う? あの顔見て」


 フォンに言われルナは後ろから追いかけて来る看護婦の顔をみる。目はつり上がり、怒りが体中から滲み出ていた。そんな看護婦の姿を見たルナは、フォンの言った事を理解した。

 ひたすら逃げ続けたフォンは、ようやく看護婦を撒いた。撒いたと言うより走りながら交渉したと言う方が正しいのかも知れない。逃げながらもルナに言われた通りフォンは事情を看護婦に説明した。初めは疑っている様だったが、何故かルナが詳しく説明すると納得し、そのまま逃がしてくれた。

 村を出たフォンは、少し真っ直ぐ伸びた道を歩み木陰にへたり込んだ。疲労から膝がガクガクになっていて、息も大分荒かった。フォンのすぐ横に座るルナは、そんなフォンを心配そうに見つめていた。その時、村の方からワノール・カイン・ウィンスの三人が歩いてきた。


「あっ! フォン! 逃げ切ったみたいだね!」


 嬉しそうに駆け寄るカインだが、フォンが鋭い目付きで睨み付けた。一瞬怯むカインは足を止めフォンの方を見て苦笑いを浮かべる。そんな事とは知らず、笑いながらカインの方にやってきたウィンスは、フォンの目を見て表情を引き攣らせた。落ち着いた様子のワノールは固まる二人に声を掛ける。


「どうした? ぼんやりしている暇は無いぞ」

「それよりさ、あいつ相当怒ってるぞ」


 ウィンスのその言葉にフォンが一気に怒りを爆発させる。


「当たり前だ! オイラとルナを置き去りにして、危うく――」

「その元気があれば十分だな。さぁ、行くぞ」

「オイ! オイラの話しを無視するな!」


 ワノールはフォンの声など聞かず歩き続けた。カインもウィンスもそんなワノールの後に続き、まるでフォンを避ける様にしてその場を立ち去った。そんな三人にフォンは「薄情者め!」と、叫んだがその声が響くだけで三人は全く反応を示さなかった。

 第五回キャラクター紹介! キャラクター紹介も本日で五回目! これって、やってて意味あるかな? って不安です。それでは、今日は『カイン』の紹介を!


 名 前 : カイン=シュライフ

 種 族 : 炎血族

 年 齢 ; 16歳

 身 長 ; 160cm

 体 重 ; 43kg

 性 格 ; 優しくて喜怒哀楽がはっきりしてる。戦いは好まない。

好きなモノ: 蒼く澄んだ空・青空天(カイン愛用の剣)・トマトサラダ

嫌いなモノ; 戦い・魚料理・人を傷つける者


作者コメント:

 体内を流れる血が灼熱の炎の様に熱く、その血を自由に燃やす事が出来る炎血族の少年。とても滑らかな金髪の髪をしているが、本気になるとその髪は真っ赤に変色。炎血族特有のものだ。

 元・黒き十字架の副隊長を勤め、剣術の方はワノールに劣らないが、小柄な体格なため力で劣っている。


 以上、第五回キャラクター紹介でした。次は『ワノール』の紹介をしたいと思います。何か感想などあれば聞かせてください。

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