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第57回 沈黙

 医務室のベッドにルナが寝かされていた。

 その脇には、心配そうな表情をするフォンとミーファの姿があった。両手を組むミーファは、目を閉じ祈る様にする。フォンは落ち着かない様子で、右足を揺すってた。それに気付いたミーファは、目を開き迷惑そうな表情を浮かべる。


「チョット、それ止めて」

「へっ?」


 ミーファに言われて、フォンは右足を止めた。自分では意識していなかったが、相当揺れていたらしい。申し訳なさそうな表情をするフォンは、軽く頭を下げる。そして、静かに立ち上がった。ここにいると、落ち着かないと思ったのだ。


「何処行くの?」


 立ち上がり出て行こうとするフォンに、声を掛けるミーファ。それに不安そうな表情を浮かべるフォンは、微かに笑みを浮かべて答える。


「ここにいると、落ち着かないからさ、少し汗を流してくるよ」

「それじゃあ、私も一緒に行く。色々と話したい事があるから」

「話したい事?」


 不思議そうな顔をするフォンに、微かに頷いたミーファは立ち上がりフォンの方へと足を進めた。二人は静かに医務室を後にし、バルコニーに出ていた。バルコニーから見える景色は絶景で、遠くに見える山の色合いが美しい。街並みもその奥に見える畑や牧場も全てが、とても綺麗に映る。

 そんなバルコニーには、フォンのミーファの二人の姿があった。他に誰かの姿は無く、完全に二人っきりだ。少々風が強い。その為、ミーファはスカートが捲れない様に、両手で押さえていた。冷たい風に身を縮こませるフォンは、猫背になっていた。


「う〜っ……。寒い……」


 茶色の髪が風に煽られ、激しく乱れる。もちろん、ミーファの長い空色の髪も、風に乱されていた。この状況では、話も出来ないと、結局二人はミーファの部屋へと移動する事に。

 ミーファの部屋は、広々としていて、色々な家具が並んでいた。フォンの部屋とはまるで扱いが違う。まぁ、ミーファは姫なのだから、これ位の扱いは普通なのだ。そんなミーファの部屋に、いつもなら大はしゃぎするはずのフォンだが、今日は妙に黙っていた。それだけ、ルナの事が心配なのだろう。

 赤いソファーに腰掛けたミーファは、立ち尽くすフォンを見据え、落ち着いた口調で問う。


「ルナの事、どれ位知ってる?」


 その質問に、フォンは戸惑う。実際、フォンはルナの事を何も知らない。知っている事は、名前と年齢……位のものだ。ただ、何か人には言えない秘密があるらしいが、それが何かは、分からない。

 その為、腕組みをして唸り声を上げる。こうして考えてみると、フォンはルナの事を何も分かっていないと感じた。フォンの顔を見て、ミーファは大体の事を把握し、静かに口を開く。


「結局、ルナの事は何にも分かんないわけね……」


 その言葉に困った様な表情を見せるフォンは、少々俯き加減になる。こうなる事は予測していたミーファは、軽くため息を吐き、右手で額を押さえ首を左右に振った。ミーファの行動を目にしたフォンは、更に落ち込む。そんなフォンに焦り笑みを見せるミーファは、両手を振りながら言う。


「べ、別に、フォンを責めてるわけじゃないよ。ただ、何処までルナがフォン達に自分の事を話したのか、気になっただけだから」

「オイラも、色々聞いたけどさ、教えてくれないんだよ」

「そうだと思った。大体、ルナは自分の事を隠しすぎるのよ」


 呆れた様子のミーファに、腕組みをするフォンが軽く頷く。小さく息を吐くミーファは、とりあえず何処から話すかを考える。その間に、フォンはミーファの向かいのソファーに腰を下ろす。そんなフォンにミーファが静かに聞く。


「私の事は何か話してた?」

「いや……。特に聞いてないけど」

「それじゃあ、私が時見族って事は?」

「それは、聞いてる。ティルからだけど」

「ティルから? それじゃあ、ルナは何も言って無いの?」


 ミーファの言葉に長考し、軽く頷き答える。


「うん。何も言って無いぞ」

「じゃあ、ルナが癒天族の巫女だって事は……知らないよね」


 ため息混じりにそう呟いたミーファの言葉は、フォンの耳には届かなかった。その為、「へっ? なに」と、フォンは聞き返すが、ミーファは「気にしないで」と右手をフォンの方に向けた。複雑そうな表情を見せるフォンは、右手で頭を掻く。そんなフォンに、眉間にシワを寄せながら口を開く。


「私と違って、ルナには重大な使命があるの」

「重大な使命?」

「うん。その使命は、この世界の今後を左右する大きな使命。そして、変える事の出来ない運命……」

「……?」


 不思議そうな表情をするフォンは、軽く首を傾げる。そして、以前ルナの言っていた言葉を思い出し、静かに呟く。


「運命は変えられない……」

「へっ?」


 小さなフォンの声が、ミーファの耳に届いた。驚いた表情を見せるミーファは、フォンに向って聞き返す。


「今、何て?」


 眉間にシワを寄せ、渋い表情を見せるフォンは、何度か首を傾げる。曖昧な記憶を手繰り、フォンはゆっくりと口を開く。


「いや……。以前、ルナが言ってたんだ……。運命は既に決まっている。どう足掻いてもそれを変える事は出来ないって」

「嘘……。ルナがそんな事を口にしたの?」

「うん……。確か、そうだったと思う。最近、色々あったから少し曖昧だけど、多分そう言ってた」


 軽く微笑むフォンに、ミーファは「そう」と、小さな声で呟き、視線を足元に向けた。組んだ両手の上に額を乗せ、ミーファは黙り込む。ソファーの背凭れに凭れるフォンは、天井を見上げたまま、ルナの言っていた事の意味を考える。

 部屋には沈黙が漂う。時計の針が時を刻む音。それだけが、部屋に響く。

 静かに息を吐き出したフォンは、結局ルナの言っていた事の意味を理解する事を諦め、体を起し真っ直ぐにミーファの方を見据える。黙り込んだまま一言も話さないミーファに、フォンは申し訳なさそうな表情をしながら声を掛ける。


「なぁ、ミーファ?」

「ンッ?」


 フォンの声に気付いたミーファは、視線を上げフォンの目を真っ直ぐに見据える。そんなミーファの空色の瞳を真っ直ぐに見据えるフォンは、言い難そうに口を開く。


「結局、話はどうなったんだ?」


 一瞬間が空き、「あっ! 忘れてた」と、ミーファが思い出した様に言った。呆れるフォンは、右肩を落とし失笑する。「ごめん、ごめん」と謝るミーファは、照れ笑いを浮かべた。背中を丸めるフォンは、「いいよ。気にしてないから」と、言いつつも目を細めて疲れた様な顔でミーファを見据える。


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