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第45回 ブラストの頼み

 慌ただしく部屋へと入って来た一人の兵士。

 その兵士の息は荒れ、表情は強張っている。何があったか分からないが、その慌てぶりから、この国で何かが起こったと、言う事だけはティルやバルドにも分かった。目付きを変えるブラストは、兵士の方に目を向け静かに口を開く。


「どうした?」

「そ、それが……、ギファー山脈にて、火の手が!」

「――何!」


 その言葉にいち早く反応したのはバルドだった。勢い良く立ち上がり、その反動で椅子が音をたて倒れる。驚きを隠せないバルドの表情に、ティルは何を驚いているのだと、思う。そんなバルドは、怒りをむき出しにし、ブラストの方へと視線を向ける。表情から怒りが滲み出ていたが、それ以前に殺気がヒシヒシと伝わっていた。


「どう言う事だ! 何故、火を消しにいかない! この国を守るのが、お前の仕事だろ!」


 怒声を響かせるバルドに、一呼吸置くブラストは、一度目を伏せ静かに開く。その眼光は鋭くどこか力が入っていた。睨み合う二人を落ち着いた様子で確認するティルは、腕を組んだまま黙り込んでいる。

 沈黙の続き、バルドの怒りが爆発し、この沈黙を突き破る。


「何とか言え! ブラスト!」


 奥歯を噛み締め拳を震わせるバルドに、ブラストは落ち着いた様子で口を開く。


「落ち着けバルド」

「うるさい! 答えろ! 何故、火を消しに――」

「黙れ!」


 バルドの声を一喝するブラストの声が、部屋中に響きピリピリとした空気が流れる。ブラストを睨んだままのバルドは、そのまま背を向け扉の方に向って歩き出す。何も言わず黙ったまま。

 そんなバルドの背中を真っ直ぐ見据えるブラストは、威厳のある声で問いかける。


「何処へ行くつもりだ」


 バルドはゆっくりと足を止め、軽く顔を横に向け答える。


「お前には関係ない」

「そうか。なら、言っておくが、ギファー山脈を燃やす炎は消す事は出来ないぞ」

「うるさい! 何もしないお前らよりはましだ!」

「誰も、何もしないとは言っていない」


 穏やかにそう答えたブラストは、ゆっくりと椅子から立ち上がりティルとカシオの顔を見る。チキンを銜えたままのカシオは、「ふぁに?」と、問い掛け、ティルは何と無くだか察しがついていた。その為、渋い表情を浮かべたまま俯いている。

 真剣な眼差しを向けるブラストは、バルドの方へと足を進めた。それを目で追うカシオは相変わらず口にチキンを銜えている。だが、状況を悟り静かにチキンを皿に戻し、真剣な表情を見せブラストを目で追う。

 ブラストとバルドの距離が五メートルまで近付き、ようやくブラストが口を開く。


「炎を消す唯一の方法。それは、リバール山脈の清めの泉に存在する蒼き石が必要だ。俺はここを離れられない。だから、その石をお前達三人に採って来てもらいたい」

「ふざけるな……。お前らなど信用できるか」

「なら、お前は自分の故郷がどうなっても良いのか?」


 その言葉に「クッ」と、奥歯を噛み締め呟くバルドは、怒りをかみ殺す様に拳を小刻みに震わせる。渋い表情を見せるティルは、ここでようやく口を挟む。


「話は大体分かったが、どうしてその炎が消せないと分かるんだ?」


 視線をブラストの方へと向ける。振り返るブラストは、ティルの目を真っ直ぐに見据えて、残念そうな表情を見せた。その表情に、ムッとするティルは、目付きを更に鋭くし、「何だ」と、呟く。すると、バカにした様な口ぶりで答える。


「ふ〜っ。勘が鈍ったか? ティル」

「何だと!」

「消せない炎といえば、炎血族の炎しかありえないだろ? お前なら、すぐにわかると思ったんだがな」

「待て……。それは、分かっている。俺が聞いたのは、どうしてその炎が消せないと分かったかってことだ」

「町の人が見かけてるんだ。赤い髪の男がギファー山脈に向っているのを」


 その言葉にティルの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。赤い髪に、鋭い目付き、そして、真っ赤で禍々しい炎。頭の中には不気味な笑いが聞こえてくる。その声に背筋が凍りつきそうだった。だが、ティルは目の色を変え椅子から立ち上がり、静かに息を吐き歩みを進める。

 脂ぎった手と口を綺麗に拭くカシオは、慌てて立ち上がり椅子を倒してしまった。緊迫した空気が、一瞬にして崩壊した。呆れた表情を見せるティルとブラストはため息を吐いた。


「お前な……」

「だ、だって……」


 ティルはバカにする様な目付きでカシオを見据え、カシオはオドオドと慌てていた。右手で頭を掻き毟るブラストは、バルド、ティル、カシオの順で顔を見ると、兵士の方に視線を向ける。


「君、悪いが研究所に行って、開発中の三つの武器を取ってきてくれ」

「で、ですが、あれはまだ……」

「良いから持って来るんだ」


 ブラストの迫力に負けたのか、兵士は一目散に部屋を飛び出す。何を言おうとしたのかは不明だが、ティルは何か嫌な予感がしていた。ブラストの造るものは、大抵危ないものばかりだからだ。不安を隠せないティルは、ふとカシオとバルドの表情が目に入る。その表情はやはり不安そうだった。二人も何らかのトラウマがあるらしい。


「ンッ? どうした? そんな不安そうな顔して」


 のん気な口ぶりのブラスト。自分の開発したものが、この三人の不安だとは、全く気付いていない様子。それが、一番恐ろしい事だ。身を軽く震わせる三人は、脳裏に過去のブラストの発明を思い描いていた。


「う〜っ……。何だか、こえぇよ」

「お前もか、カシオ」

「お前もかと、言う事はティルも……」


 三人の考えが一つにまとまった。何故、そうなったのか分からないブラストは、不思議そうに首を傾げる。

 そして、ここで兵士が戻ってくる。その手の中には、白い表面に赤の妙な模様の入ったボックス。青の表面に深い蒼色が複雑に絡み合っている筒。鋭く奇妙な彫りこみのある刃の長いナイフと刃の短いナイフ。どれも、前まで三人が持っていた物と違う印象が漂う。

 それが、逆に怖かった。だから、三人とも手を出すのに躊躇する。


「ンッ? どうした? 何で手に取らないんだ?」


 相変わらずのん気な口ぶりのブラストに、怒りを滲ませる三人は、渋々と自分の武器を手に取る。奇妙な模様の入ったボックスを見据えるティルは、疑いの眼差しをブラストに向ける。それに気付いたブラストは、腕を組み不満そうな表情を浮かべた。


「何だ? その疑いの眼差しは」

「大丈夫なんだろうな? 今回は」

「今回はって、どう言う事だ。今までだって、ちゃんとしてただろ?」

「それじゃあ聞くが、さっきあの兵士が言おうとした事は何だ?」


 ティルの鋭い尋問にブラストは瞬時に目を逸らす。その素振りがすでに怪しい。絶対に何かを隠している様だ。更に疑いが強まる所だが、これ以上問いただしてもブラストが口を割るとも思えない。その為、不安が残りながらも、ティル達三人は部屋を後にした。

 城を出ると、ブラストが用意していたのか、スカイボードを持った兵士が三人立っていた。その三人に乗り方をレクチャーしてもらい、ティル、カシオ、バルドの三人はリバール山脈へと向った。

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