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第4回 平和な村

 この小さな村を見渡す事の出来る丘の上に立つティルとワノール。

 穏やかに流れる風に、二人の黒髪が大きく揺れる。木々も揺れ擦れ合い、ザワメキあう。曽音に混ざり、時折村の子供達の声も聞こえ、本当にこの村が豊なのだと感じられる。

 少し大きな岩に腰を下ろすティルは、笑みを浮かべ静かに目を閉じる。すると、蘇ってくる。昔、住んでいた村の美しい光景が。エリスと一緒に色んな所を探検した。こんな風に高い丘に登って村を見下ろした事も、草笛を吹いたり村に向って叫んだり、いろんな事を思い出す。


「何をしてるんだ」


 目を閉じているティルの横に立つ、ワノールが不思議そうに問う。結構、刺々しい口調のワノールに、静かに息を吐きティルが目を開く。腕を組んだままティルの事を左目でしっかりと見据えるワノールは、鼻から静かに息を吐いた。まるで、ティルを馬鹿にする様に。

 落ち着き払うティルは、微かに笑う。訝しげにティルの事を見るワノールは、眉間にシワを寄せた。そんなワノールの顔をチラッと見たティルは、また微かに笑い答えた。


「そんな複雑そうな表情するなよ」

「別に。お前がそんな風に笑うとはあんまり思っても無かったからな」

「俺だって人だ。面白かったら笑うし、嬉しい時は喜ぶし、悲しい時は泣くさ」

「まぁ、普通はそうだな。それで、何か話しがあるんじゃないのか?」


 ワノールのその言葉に、俯くティル。表情はいつに無く真剣で、その目は少し深刻そうだった。そんなティルを、ワノールは鼻で笑い馬鹿にする様に訊く。


「お前が何を考えているか、俺には分からんが、どうせ下らん事だろう?」

「確かに、くだらない事かもな」


 いつもと、反応が違う。いつもなら、もっと噛み付いてくるのに。やはり、何か迷いがあるのか、それとも――。何と無く嫌な予感のするワノールは、静かに腰を下ろしティルの話しを聞く事にした。


 一方、村の小さな病院の前にあるベンチに座り話をするフォンとウィンスの姿があった。肩を落とし落ち込んだ様子の二人は、目の前の広場で遊ぶ子供達を真っ直ぐに見据えている。無邪気に笑う子供達を見ていると、この村がどれだけ平和なのかって言うのがよく分かる。この村と言うより、この国がどれだけ平和なのかと、よく分かる。

 ボーッと空を見上げたフォンは、オレンジ色に染まりつつある空に心奪われ、急に小さな声で、「空が綺麗だ〜」と、呟いた。何だか、自分の暮らしていた村で見た空と違い、優しく包み込んでくれるような空に、フォンは笑みを浮かべた。

 ウィンスも、感じた事のない穏やかな風を体に感じる。ソワソワっと生い茂る草の間を抜ける風は、静かにフォンとウィンスの間も抜けてゆく。短髪のウィンスの髪が微かに靡き、結構伸びたフォンの髪は、大きく風になびかされる。


「ここの風はとっても優しい。アルバー大陸にはない風だ」


 そう呟いたウィンスの方に、フォンが顔を向け笑いながら言う。


「そうだな。オイラ、この風好きだ」

「俺もだ。何だかさ、優しく包み込まれるって感じがするんだ」

「そうなんだよ。何か、心が休まるんだよな」

「全ての町がこんな感じだと良いのにな」


 さっきまでの怒りが何処かへ行ってしまい、二人は穏やかな気持ちで笑い合った。


 ルナの病室では一人深刻そうな表情のカインがいた。ベッドでとっても心地よさそうに眠るルナは、普段の表情とは違い、何だか楽しそうに笑みを浮かべているように見える。本当はこんな風に楽しく旅がしたいのだろう。皆と笑いあいながら楽しく。それでも、表情を表に出さないというのは、それだけの理由があると言う事なのだ。

 暗い病室のドアが開かれ、廊下の光が部屋の中に射し込む。金髪のカインの髪がその光に照らされ軽く輝く。部屋に入った看護婦は、そんなカインの姿に少し驚いた。


「な、何してるんですか! 電気も点けないで」

「あっ、看護婦さん。すいません。寝てるの起こしちゃ悪いと思ったんで」

「どちらかと言えば、コッチの方が怖いですよ」


 看護婦は半笑いしながら電気をつける。綺麗な黒髪の看護婦は、その髪を風に靡かせながら窓際に向って足を進める。そして、開かれた窓を静かに閉め、カーテンを閉じた。心配そうなカインの表情が窓ガラスに映り、看護婦が含み笑いをする。


「何が可笑しいんですか?」

「フフフフッ……。あなたも、この娘の事が心配なのね。でも、そんなに深刻な表情しなくても、彼女はただの発熱よ。ゆっくり休めば明日にはよくなるわ」

「そ、そうですか……」

「あなたも、あの茶色の髪の子も、少し心配しすぎよ」


 看護婦にそう言われ、カインは少し恥かしそうに顔を俯けた。そんなカインに、看護婦は優しく言葉をかける。


「フフフッ。あなた、この娘の事が好きなんでしょ?」

「そ、そそそそそんなことは!」


 看護婦の不意の言葉に、カインは慌てる。その慌てぶりを見るなり、看護婦は悪戯っぽく笑う。慌てて何を言っていいのか分からなくなったカインは、遂に頭の中がショートした。頭の中は真っ白になり、思考回路が完全に停止状態になり、顔が真っ赤に染まった。口を押さえ「フフフフッ……」と笑う看護婦は、「正直ね」と小さな声で言った。その瞬間、カインの思考回路が復活した。


「ち、ちちちち違いますよ! じょ、冗談はよ、よしてください!」


 隠し切れない動揺。本人は隠しているつもりだが、誰が見ても動揺しているのは一目瞭然だ。あまりにも、カインが自信満々と言った感じだったため、看護婦はクスクスと静かに笑って、「それじゃあ、後はお願いね」とカインにつげ病室を出て行った。

 看護婦が病室から出るとすぐ、フォンとウィンスと鉢合わせた。看護婦と目が合ったフォンは、すぐさまウィンスの後ろに隠れ身を縮こませる。ムスッとした表情を見せる看護婦に、ウィンスは軽く引き攣った笑みを見せ、後ろに隠れるフォンに小さな声で訊く。


「な、何隠れてんだ」

「オイラ、この看護婦苦手なんだよ」

「何でだよ」

「凄く怖いんだよ」


 確かに小さな声でそう言ったフォンだったが、その声が聞こえていたのか看護婦が、怒りの篭った笑顔をこちらに向けながら、声を震わせながら言う。


「あら〜? 何か言ったかしら〜?」

「い、いえ……。何も……」


 ウィンスは激しく首を左右に振りながらそう答えると、看護婦が穏やかな表情を見せながら言う。


「そう。それじゃあ、大人しくするのよ」

「は、はい……」


 ウィンスは小さく首を縦に振りそう答えた。一見穏やかな表情に見えるが、その笑顔の奥から漂うその力強い威圧感に、流石のウィンスも少しビビッた。遠ざかる看護婦の背中を見据えるフォンとウィンスは、ホッと胸を撫で下ろし病室へと入っていった。


「あの看護婦。すげぇ〜な。あの威圧感は俺もマジでビビッた」

「オイラの時はあんなもんじゃなかったぞ」

「本当に看護婦か?」

「さぁ? オイラに聞かれても」


 二人がそんな事を話しながら部屋に入ってくると、カインは慌ただしく声をあげる。


「あ、えっ、な、ぼ」

「ンッ? カインどうしたんだ?」


 声に気付き、フォンがカインに話しかけるが、カインは上手く口が回らず「あわ、あわ!」と言うだけだった。軽く首を傾げるフォンは、すぐ隣のウィンスと顔を見合わせた。もちろん、ウィンスも不思議そうな表情で首をかしげ、二人はまたカインの方に目をやった。

 それから暫くして、カインも落ち着きを取り戻し、三人は病室で話をする。フォンが窓際の壁にもたれ、カインがルナの傍のイスに座り、ウィンスが入り口横の壁にもたれて。


「そう言えば、フォン達はどうやってここに着いたんだ? しかも、俺等より早く」

「まぁ、色々あってね。ティルが近道だって森の中を突っ切ってたら、道に迷い、そこでルナが倒れて、必死で森の中を走り回ってここに着いたみたいなね」

「ん〜っ。あんまり想像したくない状態だな。でも、この村に着いてよかったな」

「そうだな。オイラもビックリだ。アハハハハッ!」


 小さな声で笑うフォンだが、その声は部屋中に響いた。カインとウィンスはほぼ同時に「シーッ」と、言いフォンは自分の口を両手で塞いだ。幸い、ルナは全く起きる気配もなく、フォンはゆっくり口から手を放した。少し怒ったような表情を見せるカインとウィンスに、フォンは笑顔で頭を下げ両手を合わせ「ごめん」と、小さな声で言った。


 第三回キャラクター紹介! と、言うか随分と更新が遅れてすいませんでした。

 それでは、今回はミーファの紹介をしたいと思います!


 名 前 : ミーファ=クロスト

 種 族 ; 時見族

 年 齢 ; 17歳

 身 長 ; 157cm

 体 重 : 45kg

 性 格 : 明るくて慌て者、結構お金に厳しい所あり

好きなモノ: トマト・ショッピング・旅行

嫌いなモノ: イカ・荷物持ち・ウジウジといじける奴


作者コメント:

 フォンとティルを結び合わせた張本人。既に途絶えたと伝えられた時見族の姫との事。なぜ、途絶えたと伝えられたのかは、物語内で明らかにしたいと。

 未来が見えるという事で、彼女も彼女なりに苦しんでいるんです。


 以上! 第三回キャラクター紹介でした! 次はミーファの親友『ルナ』の紹介でも。実はヒロインの座を狙ってたりするんです。

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