表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/181

第33回 静まる風

 その場に轟く龍の呻き声。

 風は更に強まり、フレイストを砂塵が包み込む。飛び交う微粒子のごみに、視界を遮られてゆくジャガラは、右腕で顔を隠す様にしながら呻き声の聞こえる方に目をやる。

 風の音が一層強まり、ジャガラの長い黒髪が風を受けて激しく舞う。前髪に隠れていた鋭い目が、はっきりと伺う事が出来る。そんなジャガラの表情は険しく、必死に奥歯をかみ締め風に耐えていた。

 砂塵の渦の中心には、フレイストの姿があった。裂けた服から覗く亀裂の走る体。亀裂からは光が溢れ出し、今にもその身が砕け様としている。声にもならないほどの激痛に、片膝を着く。右手で固く胸倉を握り締め、ゆっくり瞼を閉じる。ピキッピキッと、体が音をたて、更に龍の勇ましい声が大きくなってゆく。もうじき自分の命が尽きると、フレイストは確信した。その瞬間、風の音を切り裂く音と、龍の声を掻き消すかの如く雄雄しい声がフレイストの耳に届く。


「ぐおおおおおおっ!」


 その声に瞼と開くと同時に、視界に巨大な槍を二本、手に持った男の姿が映る。暴風吹き荒れるその中を諸共しない男は、身を屈めると二本の槍を交差させ、そのままフレイストに突っ込む。交差された二本の槍は、交わる柄の間にフレイストの首を挟み、そのままの勢いで押し倒した。

 柄に首を押さえつけられ、フレイストは一瞬意識の飛んだ。それと同時に、亀裂からもれる光が薄れてゆき、亀裂も徐々に消えて行く。開きかけていた背中の痛々しい傷痕から聞こえてくるけたたましい声は、苦しむかの様な声を上げ聞こえなくなった。


「ぐがっ!」

「悪いが、今お前に死なれては困る」

「だ、誰だ……」


 槍の刃が地面に刺さり、その交差した柄に押さえつけられるフレイストが弱々しくつぶやく。その柄の先には、黒髪を揺らすヴォルガの姿があった。何事も無かったかの様に清々しく、落ち着き払うヴォルガは柄を握ったまま、フレイストのグリーンの瞳を見据えて言葉を告げる。


「お前の体内に居る龍には、暫く眠ってもらった」

「な…んだ……と……」


 朦朧とする意識の中、何とかヴォルガに言い返す事の出来たフレイストだったが、もう限界だった。体も精神も。瞼が重く、自然と塞がり始める。意識を保とうとするが、無常にも瞼は落ちて行く。そんな中、ヴォルガの言った一言が頭に残った。


『これからは、お前がこの国を収めなければならない』


 何を言っているのか、この時はわからなかった。と、言うより朦朧とする意識の中で考える事など出来なかったのだ。



 フレイストが完全に意識を失った。交差したまま地面に突き刺さる槍を、引き抜いたヴォルガは静かにそれを背中に背負う。そのヴォルガに対し、ジャガラが声をかけた。


「助かった。しかし、お前が来たと言う事は、作戦は成功したと考えていいのか?」

「成功したかは、わからん。リオルドからの連絡はまだ来ていないからな。だが、時間的にこれ以上は俺達が不利だ」

「そうか。まぁ、あいつの事だ。自分勝手に暴れているのだろう」


 抉れた地面をヴォルガの方に向って歩き出す。瓦礫も転がり足場は悪いが、軽快な足取りでヴォルガの隣に移動した。槍を担いだヴォルガはレイストビルの中央に見える城に目をやる。


「それで、他の奴らはどうなった?」

「皆、悪戦苦闘といった所だ」

「俺だけではないと言う事か」

「ああ。そう言う事だ」


 落ち着いた口調のヴォルガは、静かにフレイストの顔を見下ろし、ジャガラに問う。


「強かったか?」

「意外とな。だが、まだまだだ」

「そうか……」


 そう呟き二人はその場を後にした。



 振り抜かれた牙狼丸。鋭く美しく光を反射する刃の先に、薄い紅色の血が付着しており、それが点々と地面に滴れる。

 ウィンスの胸元に輝く風魔の玉は、更に風を集め力を強める。だが、徐々にウィンスの体にも異変が起きる。集まった風に体が耐え切れず、体を風が切り裂いて行く。真っ赤な線が幾つも引かれ、血が風によって飛ばされ地面に降り注ぐ。

 そのウィンスから間合いをとったレイバーストは、服が胸の位置から裂け、血が微かに流れていた。


「くっ。かわしきれなかった。しかし、風魔の玉を持っていたとは、驚いた」

「かわしたか……。次は、かわさせん」

「――!」


 レイバーストの方に体を向けたと思ったその刹那、ウィンスの姿が消える。そして、次の瞬間レイバーストの目の前に、ウィンスの姿が見える。鋭くきらめく牙狼丸がすぐさま振り下ろされた。レイバーストは、素早く後方へと飛び退く。

 空を斬り牙狼丸は地面を砕いた。砕石が飛び散りウィンスの体を囲む風によって、木っ端微塵に粉砕する。切っ先が地面に埋まる牙狼丸を、そのまま強引に切り上げる。更に地面が砕け、風により粉砕され、煙の様に宙に舞う。切り上げられた牙狼丸の切っ先が、レイバーストの右頬を掠める。


「チッ!」

「まだまだ行く」


 そう呟くと、切り上げた牙狼丸の刃を返し、もう一度振り下ろす。


「クッ! 何度も同じ手を!」


 振り下ろされた牙狼丸を左へとかわす。その刹那、牙狼丸の刃の向きがレイバーストの方へと向き、素早く横に振り抜かれる。かわす事など出来ず、牙狼丸の刃がレイバーストの右腹を捉えた。


「――くっ! なめるな!」


 レイバーストが叫んだ。すると、レイバーストの右腹に直撃した牙狼丸に重く硬い手応えを感じた。それは、体を斬ったと言うより、鉄を叩いたと言った様な手応えで、澄んだ音が辺りに響いた。

 牙狼丸を引き、後方へ素早く退く。右手に軽く持った牙狼丸の刃が微かに震える。それは、持っているウィンスにしか感じない程微かなもの。その振動を止める為、刃の平に左手を添えたウィンスは、刃の平に左手を添えたまま牙狼丸を中段に構える。


「何をしたか知らないが、次は確実に斬る」

「残念だが、もう私に刃は効かん」


 レイバーストがゆっくり顔を上げた。額の真っ赤な目を挟む様に大きな鹿の角の様なものが抜き出てきている。そして、いつの間にか、肌の色も灰色に変わり、体に魚の鱗の様なモノが沢山浮き上がっていた。これが、レイバーストの獣化した姿だった。

 ただでさえ、太かった腕や脚は更に一回り太くなり、頬からは二本の鋭く長い刃の様なものが突き出ていた。


「これが、私の獣化。体を包む鱗は鉄より固く、力は今までの十倍だ」

「なら、もっと風を集めるだけだ」


 牙狼丸を中段に構えたまま、更に風を集める。ただでさえ、切り裂かれているウィンスの体は、風が集まるに連れて勢いよく傷口から血を噴出させる。だが、その風が急に弱まった。いや、もうウィンスの体が風に耐えられず、地面に崩れ落ちたのだった。両膝を地に落とし、前方へと力なく倒れる。

 完全に動かなくなる。だが、死んだわけじゃない。気を失っているだけだ。右手に握っていた牙狼丸は、静かに手の平から落ちる。傷口から流れ出る血は、ウィンスの周りを湖と化す。

 そんなウィンスの姿に、レイバーストは獣化を解き静かに息を整える。苦しそうに右膝を地に着くレイバーストは、口を開いた。


「はぁ…はぁ……そんな、所から……高みの見物か?」

「別に〜。見物してたわけじゃないし〜」


 体をくねらせる長身のクローゼルが、長い腕を組んで笑う。馬鹿にした様な喋り方のクローゼルに、レイバーストは鋭い眼差しを向ける。静かに崩れた壁から飛び降り、ゆっくりと横たわるウィンスの方に歩み寄るクローゼルに、レイバーストが叫ぶ。


「寄るな!」

「何だよ〜っ。止めんなよ」

「あんまり奴に近づくと、切り裂かれる」

「はぁん? どう言う事だ? もう、意識ないんじゃないのか〜?」

「風魔の玉と牙狼丸。この二つは自我を持つ。下手に近づけば食われるぞ」


 真剣なレイバーストの眼差しに、クローゼルは唾を呑み静かに後退する。

 あけましておめでとうございます。

 とりあえず、年明けと言う事で、挨拶をさせていただきます。

 いまだ、更新が難航してますが、今年も『クロスワールド』と私、崎浜 秀をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ