第3回 合流
草原を二つに裂く茶色の一本道の先にある小さな村。
木の柵が村の周りを囲い、綺麗な家が建ち並ぶ。疎らに並ぶ木々は風で揺れ、複数の葉を舞い上がらせた。畑や井戸、花壇などが沢山あり、木の陰に隠れた所に小さな病院も見え隠れしている。
その病院のベッドには、呼吸の荒いルナが寝かされていた。静まり返った廊下は、小ぢんまりとしていて少し薄暗い。その廊下を落ち着かない様子で歩き回るフォンは、ギシギシと床を軋ませながら同じところを行ったり来たりしていた。窓からは子供達が無邪気に遊びまわる声が微かに聞こえる。
落ち着かない様子のフォンに対し、イスに腰を下ろし落ち着いた様子を見せるティルは、腕組みをしたまま目を閉じていた。まるで寝ている様にも見えるティルだが、その右足は苛立っているのか、小刻みに動いていた。やはり、ルナの事が心配なのだ。
「う〜っ。大丈夫かな? 何かあったらどうしよう……」
「落ち着け。俺達が慌ててどうにか成る訳じゃない」
「まぁ、そうだけどさ。う〜っ。心配だよ……」
フォンはそう言いまた廊下を行ったり来たりする。そんなフォンを見て、「全く」と小さく呟いたティルだが、右足は更に大きく動いていた。かなり心配らしい。そんな二人に看護婦が笑顔で優しく声を掛けた。
「あの、心配なさらなくても、彼女はただの疲労から来る発熱ですよ。それに、彼女はこの部屋じゃなくて、隣の部屋ですよ」
「へッ!」
看護婦の言葉に二人は目を丸くする。そんな二人の顔を見て、看護婦は口を押さえてクスクス笑いながら去っていく。恥かしそうに赤面するティルに対し、大笑いするフォンは明るい声で言う。
「何だ。隣の部屋だったのか。ハハハハハッ」
「お前な! 何で部屋間違えてんだ!」
「な〜に、人には間違いはあるものだろ?」
「ふざけるな!」
ティルが大きな声で叫ぶ。その声は廊下中を響き渡り、先ほどの看護婦が廊下の先から大声で怒鳴る。
「静かにしてください! ここは病院ですよ!」
「君も、静かにね」
怒鳴った看護婦も、病室から出てきた白衣を着た若い医者にそういわれ、「あっ、すいません」と、申し訳なさそうに謝っていた。その隙にフォンとティルはルナの眠る病室へと進入していた。
「いや〜っ。危うく、怒られる所だったな」
「全くだ。全て、お前の責任だな」
「何で、オイラのせいなんだ!」
「五月蝿いぞ。ルナはゆっくり寝かせてやろう」
フォンの言葉を完全にシャットアウトし、ティルは病室を後にする。ムスッとした表情のフォンは、ベッドで静かに眠るルナの顔を一度見てから、ティルの後を追う様に病室から出た。と、同時に先ほどの看護婦と鉢合わせになり、こっ酷くお叱りを受けた。もちろん、この時ティルは既に病院の外に出ていた為、フォンはティルの分もきっちり叱られたのだった。
その頃、ティルは村の中を歩き回っていた。こんな小さな村に宿がある訳も無く、ブラブラと歩きほうけるティルは、ふとある事を思い出しガックリと肩を落とし暗い雰囲気を漂わせる。ゆっくりと、木陰に腰を下ろしため息を吐きぼやく。
「診察料どうしたものか……。今の持ち金だと、絶対に足りないだろうし……」
この先の事を考えると、更に不安になるティルは、複雑そうな表情を浮かべた。やはり、あの大会の賞金がもらえなかったのが原因だと思うが、それ以上にフォンがよく食うため、食費だけでも結構金が掛かる。そう思うと、フォンと旅をしたのは失敗だと感じるティルだった。
「この先考えると、どっかでお金を稼がないといけないな。それに、フォンの食費を削らないと」
腕組みをし眉間にシワを寄せながら考え込むティルは、ふと何処かで聞き覚えのある声にティルは立ち上がり村の入り口の方に目をやる。だが、入り口の方は家に隠れてよく見えない。その為、ティルは少し丘になっている場所に移動し、入り口の方を窺う。
そこには、少し長めの黒髪の男と小柄で金髪の少年と短髪で金髪の少年よりも更に小柄な幼顔の男の子が居た。何処と無く見た感じのある三人組は、なにやらもめているようで、少し長めの黒髪の男が怒鳴っている様に見えた。
「あれって、もしかすると……」
小さな声でそんな事を呟き、半ば呆れた表情を浮かべながらティルはため息を吐いた。それは、あのもめているのが、多分知り合いであると思ったからだ。『あいつ等、何をやってるんだ』と心の中で呟き、重い足取りで入り口の方に向った。
入り口では、少し長めの黒髪の男が三人の中で一番小柄な妙な民族衣装に身をつつんだ男の子と口論を繰り広げていた。その間に挟まれる金髪の少年は戸惑いを隠せず、両者に「まぁまぁ」と言い聞かせていた。
少し長めの黒髪の男は、右目に眼帯をしているがその左目はするどく威圧感がある。それに負けじと民族衣装に身を包んだ男の子は、睨み返しているがその瞳は少し怯えていた。金髪の少年はそれに気付き、眼帯をした男に言う。
「ほら、ワノールさん。大人気ないですよ。ウィンス君が怯えてるじゃないですか!」
「お、怯えてなんかない! 誰が、こんなオッサンに!」
「カイン。どいてろ。少しばかり、痛い目に遭わんとコイツは分からん様だ!」
「な、何言ってるんですか! ほら、ウィンス君、謝って!」
金髪の少年カインは、すぐさまウィンスの方に笑顔を向けそう言うが、民族衣装に身を包んだウィンスは、プイッとそっぽを向き訊く耳を持たない。もちろん、そんな態度のウィンスに眼帯をした男ワノールは目の色を替え、遂に腰にぶら下げた剣の柄を握った。すると、ウィンスも腰の刀の柄を握る。その手は微かに震え、目は泳ぐ。
その時、ドタドタと足音が響きフォンの声が遠くの方から徐々に大きくなってくる。
「かーいーん! うぃーんす! 久し振り〜!」
明るい声のフォンがカインとウィンスに抱きつく。呆気に取られるワノールは、抱きつくフォンを睨みながら剣の柄から手を放す。カインとウィンスはそのまま、後ろに倒れフォンの体に押しつぶされた。
「お、重いよ! フォン!」
「ど、どいてくれ〜」
フォンの体に押しつぶされながら、カインとウィンスは叫んだ。笑いながら立ち上がるフォンは、頭を右手でかきながら「ごめんごめん」と、言った。そんなフォンの背後から刺々しい声が聞こえる。
「お前がなぜ、俺達より先にこの村に着いたんだ?」
「なっ! ワノール! い、居たのか!」
振り返ったフォンは、鋭い眼光で睨むワノールに、表情を引き攣らせながら一歩後ずさる。カインは苦笑いを浮かべながら、「まぁまぁ」と言ってワノールを宥めると、笑顔でフォンに問う。
「ティルとルナはどうしたの?」
「俺なら、ここにいる」
ワノールの背後から低いティルの声が響いた。落ち着いた様子で半ば呆れている感じの窺えるティルは、ゆっくりとした足取りで近付いてくると、迷惑そうな表情を見せる。ティルの顔を見るなり、フォンは不満そうな表情を見せ、口を開こうとしたが、その前にワノールが口を開いた。
「どうして、俺達より早い」
「一応、この国の出身だ。近道くらい知ってるさ」
「待て! 何が近道じゃ!」
「何? 何かあったの?」
急に叫んだフォンに、カインが驚いた様に訊く。迷惑そうにフォンの方を睨むワノールは、カインの方に軽く耳打ちをする。すると、カインは「わかりました」と、笑顔で言いフォンの方に体を向けた。一方、ワノールはティルと一緒にその場を離れていく。そんな事とは知らず、フォンはカインに向って不満を漏らした。
「ティルの奴、変な森の中で道に迷うし、大変だったんだぞ!」
「へ〜っ。それで、ルナはどうしたの?」
「それがさ、ルナは疲労から来る発熱で倒れてさ、今病院にいるんだ。その病院でもさ――」
そこまで言った時、ウィンスが声を掛けた。
「不満を漏らしている所、悪いと思うけど、カイン行っちゃったぞ」
「はう〜っ! カインまで、オイラを無視するのかよ!」
「俺でよければ聞くよ。俺も、不満を聞いて欲しいし」
フォンの右肩を軽く叩き、ウィンスはそう言った。その後、二人は互いの不満を漏らしながら病院へと向った。
やってきました! 第二回 キャラクター紹介! 今回はもう一人の主人公 ティルの紹介です! では、早速行ってみよう!
名 前 ; ティル=ウォース
種 族 : 人間
年 齢 : 17歳
身 長 ; 176cm
体 重 ; 62kg
性 格 ; 冷静で結構人に冷たい
好きなモノ: 妹・フカフカのベッド・晴れの日
嫌いなモノ: 雨の日・硬いベッド・獣人・馬鹿・幽霊
作者コメント:
フォンとは正反対の性格の主人公です。冷静でいつも落ち着いている彼ですが、妹が絡むと無茶苦茶キレます。かなりの妹想いなんです。
昔は一匹狼だった彼も、フォンと出会い仲間の大切さを知り、今では結構フォンの事を信頼しています。なぜ、獣人を嫌うのかは後々彼の過去から分かってくると思います。
これからも、フォンと一緒に活躍してくれると思います。
以上、第二回キャラクター紹介を終ります!
次回は、ヒロイン?の『ミーファ』を紹介するぞ! 最近、全く出番が無いから、皆忘れてないかな?