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第29回 崩れ行く思い 蘇る記憶

 多くの魔獣の亡骸が地面に転がる。

 凝血した暗紅色の血。腐敗し悪臭を漂わせる魔獣達の亡骸。

 その中心にカインの姿があった。真っ赤な髪からは白煙が上り、血を浴びた顔は血が凝血し始め、暗紅色に染まっている。そのカインの顔に、いつもの笑みは無い。鋭く尖った目は怒りを纏い、その表情は険しい。

 辺りに横たわる兵士達の無残な亡骸を見据えたカインは、その悲しみに目を伏せ力強く青空天の柄を握り締めた。そんなカインの背後から憎たらしい声が響く。


「ブラボ〜ッ。流石ですね。私の開発した兵器共を全て一人で」


 振り返ると、そこに白衣の男、ロイバーンが立っていた。ずれた眼鏡を掛け直し、白髪のボサボサの頭を掻き毟る。猫背でホッソリした体格のロイバーンは、右足で魔獣の亡骸を踏みつけ、死んでいる事を確認してから、その体を足の裏で足蹴にする。そして、ゆっくりと大手を広げるロイバーンは、カインに向って叫ぶ。


「その剣裁き、何処で覚えたのか分かりませんが、その一太刀一太刀が、鋭かったですよ」

「あなたは、誰ですか?」


 そのカインの言葉に「フ〜ム」と、声を上げ腕組みをする。そして、ズレ落ちる眼鏡を掛け直し不適に笑みを浮かべながら答える。


「忘れてしまった様ですね。全てを。残念ですね」

「忘れた? 何の事です? 僕は何も忘れてなんか……」

「忘れているんですよ。自分の犯した罪を――」

「僕の犯した罪……」


 その瞬間、頭の中に何かが流れ込んでくる。

 燃える街。逃げ惑い、嘆き叫ぶ人々。燃える炎に身を包み苦しみ悶える者。そして、横に立つのは、白衣を着込むロイバーンの姿。

 頭に流れ込むこれは、カインの昔の記憶。ワノールと出会う前の。完全に忘れられていた。

 人々の苦しむ声が、頭の中に響き、その声にカインの頭は割れる様に痛む。


「グアアアアアアッ!」


 頭を押さえ苦痛に叫ぶ。蘇る過去の自分の犯した罪。それは、悲惨なものだった。豊な街を焼き尽くし、罪の無い人々を手にかける。そして、幼い子供まで……。

 薄らと涙を流すカインは、力なく青空天を地面に落す。澄み冴える音が微かに響くが、カインの耳にはそんな音など入って来ない。人々の苦しみの声が頭に響いているから。

 蹲り苦しむカインを見据えるロイバーンは、一歩一歩と歩み寄りカインの前で立ち止まる。そして、更に追い討ちを掛けるかの様に言葉を告げる。


「お前は人じゃない。私の作り出した兵器だ」

「うああああっ! 止めろおおおおおっ!」


 頭の中に入り込んでくる過去の記憶に、カインは叫ぶ。そのカインの脳裏に鮮明に蘇るあのティルの故郷。花々が燃え、中央にそびえる大きな木が炎を身に纏う。散り行く木の葉は火に包まれ、ユラユラと灰になり消滅する。そして、その木の傍に自分がいる事を。


「ああああああっ! ぼ、ぼくはああああああっ!」

「更に言えば、お前は十二魔獣の第二席を手に入れる筈だった存在だ」


 頭の中に響いてくる人々の叫びの中に聞えるロイバーンの声。それが、更にカインを苦しめた。そして、ワノールと出会ってからのカインと言う存在が壊れ始める。今まで自分を慕ってくれた皆の記憶。フォンやティル、ミーファにルナ、ウィンスこの旅で出会った人々との記憶。全てが薄れてゆく。そして、パズルの様に砕け一つ一つのピースへとバラバラに散ってゆく。暗い闇の中へと。

 その瞬間、カインの頭の中は真っ暗になった。そして、鮮やかな蒼の刃の青空天は刃が淀む。まるでカインの心を映し出す様に。

 苦しんでいたカインは、その痛みから解き放たれ、ゆっくりと手を下ろす。右手は青空天の柄を握り締め、俯いた顔の奥から不適に笑う口元が浮ぶ。肩を微かに震わせるカインは、「フフフフフッ」と、不気味な笑い声を静かに響かせる。そして、顔を上げ空を見上げたカインは、大声で笑い出す。


「フハハハハハッ! 響かせろ! 苦痛の叫びを! 人々の嘆きの声を!」


 大手を広げ大声でそう言い放つカインを見据えるロイバーンは、微かに笑みを浮かべながら小さな声で呟く。


「どうやら。蘇った様ですね。私の作り上げた史上最強の殺人兵器の記憶が……」


 背を向け歩き出すロイバーンは、「事は成した」と、呟きその場を去った。

 残されたカインは、周りに転がる屍を見据えると、青空天で自分の手首を軽く切りつけ、辺りに自分の血を撒き散らす。その血は地面に溜る多くの血と混ざり合い、何処までも広がる。そして、カインを包み込む様に血が炎上し、地面に転がる亡骸を黒く焼き尽くす。


「フハハハハハッ! 懐かしき臭い。我をもっともっともてなせ!」


 火の海の中心で、一人叫びをあげるカイン。完全に昔の記憶が蘇っていた。村を焼き払う快感。人々の肉片が焼ける臭い。全てが体中に蘇る。懐かしいその快感に浸るカインに、優しいあの面影は無かった。

 そんな火の中を複数の兵士が駆け抜け、中央にいるカインの方へと姿を現す。まだ中心は火の手は回っておらず、その複数の兵士達とカインが対峙する。

 槍を構えた者。剣を構えた者。各々様々な武器を構える兵士達を見据えるカインは、不適に笑みを浮かべ、淀んだ青色の青空天を翳し叫ぶ。


「貴様等が、我の初めの生贄だ! 光栄に思え!」

「カイン殿! 何を仰っているのですか! この炎を消してくだされ!」


 手前で槍を持つ兵士がそう言う。すると、鋭い目付きで兵士を睨み、


「我に指図をするな!」


と、カインが翳した青空天を振り下ろす。その刃は速すぎ目で追う事は出来ず、風が生暖かな空気を兵士達にぶつけた。兵士達が気付いた時には刃の切っ先が地面スレスレで止まっており、その先から滴れるのは真っ赤な血だった。兵士達がそれに気付いた時、手前にいた兵士の体が血を吹きながら崩れ落ちる。


「隊長!」


 すぐ右隣にいた兵士が叫ぶ。そして、カインを睨み持っていた槍を突き出す。槍の刃がカインの左肩を掠め、血が迸る。その瞬間にカインの口元に笑みが毀れ、その意味を兵士は理解する間も無く焼けた。肩から飛び散った血が兵士の体に付着したのだ。


「うああああっ!」

「フハハハハハッ! 燃えろ! 燃えろ!」


 燃え行く兵士。黒く焦げた肉片と悪臭だけが残る。漂う悪臭に顔色を変える兵士達は、逃げる事も戦う事も出来ぬまま青空天に切り裂かれた。血飛沫が飛び、体は炎に焼かれ。跡形も残らなかった。


 久し振りの更新です。

 読者の皆様に楽しんでもらえれば嬉しいです。

 中々更新できなくて本当に、申し訳ないと思っております。

 こうやって、毎回後書きに書くのもなんですが、出来る限り早く更新できるよう努力したいと思っています。

 気長に待ってもらえると嬉しいです。

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