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第24回 牙狼丸

 レイストビルの中心に位置するグラスター城の最上階にある庭園。レイストビル全体を見渡す事が出来、聊か風も強いその場所に、綺麗に咲き誇る花々が大きく揺れながら、良い香りを漂わす。そんな花々の植えられた花壇に挟まれた道を、フレイストは一人で歩く。ここに居ると、母の事を思い出すのだ。

 ここに咲き誇る花は、『白龍香はくりゅうこう)』と言う名称の花で、もうこのグラスター城の最上階でしか見る事の出来ない花だ。元々は、グラスター王国に沢山咲き誇っており、このグラスターのシンボルにするつもりだった。だが、その当時の大戦で白龍香は全て失われた。それが、何故この最上階にあるのか。それは、大戦が終わり数週間が過ぎた時に起きた。現国王が屋上に出ると、その当時は花壇も無くただの石段だったこの最上階に、この白龍香の花が一輪だけ咲き誇っていたという。力強く強風に吹かれながらも。その瞬間、現国王はここに花壇を作ったという。

 そんな、白龍香の咲き誇るこの庭園を母も好きで、フレイストは赤子の時に何度もここへつれて来られていた。その為、この白龍香の香りはまるで母の香りの様だったのだ。そして、ここは……。


「フレイスト様! 国王がお呼びです!」


 階段を上がってきた兵士が、フレイストの方に体をむけそう叫ぶ。思い出に浸り白龍香の前に屈みこんでいたフレイストは、吹き荒れる風に美しいオレンジブラウンの髪を揺らしながら、振り返り答える。


「あぁ。わかった。すぐに行く」


 その声に、兵士は一礼して足早に階段を下りてゆく。その足音だけが風の音に混ざり聞えてきて、フレイストは微かに笑みを浮かべる。そして、揺れる白龍香の白い花びら達に、


「母さん。また、来るよ」


と、告げて階段の方に向って足を進めた。


 王座に腰を据える国王カーブン。小さな階段があり、その前に跪くワノール・カイン・ウィンス・ミーファ・ルナの五人。話があると五人は集められたのだ。その為、その部屋には兵士達はおらず、静まり返っている。窓から吹き流れ込む風が、微かに音をたてるが、それが大きく聞えるほど静かだった。

 何の話をするのか分からず、複雑そうな表情を見せる五人は、顔を伏せたままジッと動かない。と、そこに、扉が開かれ一人の兵士が入ってきて、「フレイスト様を呼んでまいりました」と、一声。そして、一礼して部屋をでる。それと、入れ替わりフレイストが部屋に入ってきて、扉を綺麗に閉めて一礼してから、歩みを進める。


「これで、全員かのぅ?」


 皆の事を見下ろしながらカーブンがそう言う。まだ、歩むフレイストは、跪く五人を不可解に思いながらも、前列に跪く。すると、カーブンが「その体勢はつらいであろう」と、言い皆を立たせる。暫し不満そうなフレイストは立ち上がり、カーブンの顔を見据える。いつに無く、真剣な面持ちのカーブンの顔に、フレイストは目の色を変えた。前列に並ぶ、フレイスト、ワノール、カイン、ウィンスの四人。そして、後列にルナとミーファ。そんな六人の顔を一通り見回したカーブンは話を始める。


「フム。烈鬼族と炎血族と風牙族。それから、癒天族に、時見族……。やはり、運命は繰り返されるか……」


 何の事を言っているのか分からない六人は、何も言わずに立ち尽くす。こんな事を話すために、わざわざ集めたのかと、言いたそうな目をするワノールは、ふと壁に飾られた肖像画に目が移る。そこには、名前の他に種族が書かれていた。見た感じ、皆種族が違う。まるで、今の自分達の様に。そして、その中の肖像画に見た事のある様な顔付き少年が居た。それを、見た瞬間、ワノールは我が目を疑う。そんなワノールに、カーブンは言う。


「どうかしたかね? ワノール殿」

「い、いや」


 カーブンの方に顔を向けそう言うワノールは、もう一度チラリと肖像画を見る。その視線の先に映る肖像画は、まさしくフォンそのもので、髪の色が少し黒くなっただけだ。それ以外は全くの瓜二つだった。頭の中が混乱するワノールだが、すぐに冷静さを取り戻す。アレは、きっとフォンの先祖か何かだと考える。そう考える方のが普通だからだ。

 ようやく落ち着いたワノールは、カーブンの話しに耳を傾ける。なにやら昔の話をしている。


「五百年前の大戦の事は知っておるな。東西南北の四大陸に国家が誕生したあの大戦を」

「確か、爺ちゃんにそんな話を訊いた気がするな。でも、あん時は眠かったから詳しく覚えてないな」

「全ての種族が対立する様になった大戦……。全ては、あの大戦が始まり」


 静かに暗い声のルナの言葉。カインとウィンスは振り返りルナの方を見る。突然の声に少しビックリしたのだ。金髪の長い髪を微かに揺らすルナと目が合う二人は、苦笑いを浮かべて前に向き直る。少々首を傾げるルナは、ミーファの方を見るが、ミーファも苦笑いを浮かべていた。


「それで、話はなんだ? まさか、昔話をするわけじゃあるまい?」


 鋭く厳しい意見を口にするワノールは、腕組みをしたまま左目でカーブンを軽く睨み付ける。そのワノールに力強く意見したのは、やはりフレイストだった。


「オイ! お前、国王に向って何て口の利き方を!」

「いいんじゃ。気にするなフレイスト。堅苦しい口の利き方など、聞き飽きてしまってるからな」

「しかし!」


 そう言うフレイストだが、その声を遮ってワノールは問う。


「それで、本題を聞かせてもらおう。五百年前の大戦の話をした理由を」

「フム……。やはり、鋭いのぅ。流石、烈鬼族と、言った所かのぅ」

「無駄話はいい。早く本題に入ってくれ!」

「ちょ、ワノールさん!」

「貴様!」


 流石にワノールの言葉に怒りを滲ませるフレイスト。そのフレイストをカインは必死に宥めた。右手は背中に背負った大剣の柄を握っていたフレイストは、カインに宥められ必死に怒りを堪えて手を震わせながら下ろす。その間、グリーンの瞳が激しくワノールを睨み付けていた。だが、ワノールは、全くフレイストを相手にしておらず、ジッとカーブンを睨んでいる。落ち着いた様子のカーブンは、白い髭を右手で撫でながら答えた。


「そうじゃな。早速本題に入ろう。ウィンスとか、言ったかのぅ。その刀を見せてくれんか?」

「俺の刀? 別にいいけど、本題に入るんじゃないのか?」


 怪訝そうにそう呟き、ウィンスはカーブンの下まで足を進め、腰の刀を鞘に収めたまま手渡す。ウィンスにとっては、意外と重かった刀だがカーブンはそれを軽々と持ち上げ、柄を握り刀を抜く。美しい刃が薄らと光を放つその刀を真っ直ぐに見据えるカーブンは、呟く。


「懐かしいのぅ。牙狼丸」

「へッ! ま、待ってくれよ! その刀は、牙狼丸なんかじゃないぞ! それは、家に代々伝わる――」


 焦るウィンスの顔をチラリと見るカーブンは、微かに笑みを浮かべて呟く。


「そうか。おぬしは知らんかったのか。じゃが、これは、正真正銘、牙狼丸じゃ。まぁ、無理も無い。これは危険な代物じゃからのぅ。お主も気をつけるんじゃぞ。これは、持ち主の命をも平気で喰らう呪いの刀じゃ。無理に力を引き出そうなどとするんじゃないぞ」


 その言葉にウィンスは驚く。以前、その言葉を族長から聞かされたからだ。この事は、ウィンスの家の者しか知らない。他言してはいけないといわれているから。それに、ウィンスも一度経験があった。この刀の恐ろしさを。それを思い出し胸が苦しくなる。


「ハァ…ハァ……。ガッ……」

「ど、どうしたの? なんだか、苦しそうだよ!」


 ミーファが後列からそう叫ぶと、カインが足早に階段を上がりウィンスに駆け寄る。服の胸の位置を右手で握り締め、息を荒げるウィンスは、膝を着き今にも吐きそうな表情をみせた。そのウィンスの顔色を見たカーブンは、ウィンスが牙狼丸の力を無理に引き出そうとした事を悟った。

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