第23回 ぶつかる思い 親友か捨て駒
薄暗い寝室で睨み合うフォルトとゼロ。右手に包みを持つフォルトは、それを隠す様に後ろに回し、ジッとゼロを見据える。物音もたてず、聞えてくるフォンの笑い声。その声に、ゼロはフォンが目を覚ました事に気付く。そして、暗いなかで、ゼロの鋭い眼光が動く。久し振りに見せるその目は、殺気を漂わせその部屋の中を圧迫する。
フォルトでさえ、その殺気に息を荒げ、意識を失いそうになり、床に右膝を着く。その瞬間、ガタッと音が立つがそれは小さく一階に居るフォンとリリアには聞えていない。額から流れる汗が、頬を伝い顎からテンテンと滴れて、床にぶつかり弾き飛ぶ。苦しそうに左手で胸を押さえるフォルトは、視線だけはゼロの方に向けジッとその姿を見据える。
「何をしていた」
「ゼロには……関係ない……」
「まさか、アレを奴に渡す気じゃないだろうな?」
ゼロのその言葉に一瞬フォルトの顔が青ざめる。全て見通されている。そう思うフォルトに、音を立てず歩み寄るゼロは、フォルトの前で足を止めて、ゆっくりと右手を差し出す。歯を食い縛るフォルトは、ゼロの差し出された右手が何を意味するのか、すぐ理解し右手に持った包みをゆっくりとその手の上に置く。
俯き歯を食い縛ったままのフォルトは、目を伏せて体を震わせた。そんなフォルトを見下ろすゼロは、背を向けニ・三歩歩いて静かに口を開く。
「これを彼に渡すのは、全てが終った時俺が渡す。今の彼が使えば、彼の身を滅ぼす事になる。分かってくれ……」
そのゼロの声に、今にも泣きそうな掠れた声でフォルトは答える。
「分からないよ……。ゼロが…何を考えてるのか……。僕等は、親友だろ……。少し位、僕に頼ってもいいだろ……」
胸を締め付けられる様なフォルトの思いに、ゼロは静かに振り返り「ごめん」と、小さな声で言う。その言葉を訊いたフォルトは、意を決した様に俯いたまま静かに立ち上がると、鋭い視線でゼロを見据える。その目を真っ直ぐに見つめ返すゼロは、その目からフォルトの意思を感じ取り、目を伏せるとゆっくり背を向ける。その背中を見据えるフォルトは、力強く言い放つ。
「親友だと、思っていたのは、僕だけだったみたいだね。君にとって、僕は、ただの捨て駒に過ぎないんだろ! リリアだって、君にとっては役に立つ道具にしか見てなかったんだろ!」
その言葉に静かに笑うゼロ。その不適な笑い声に、表情を引き攣らせるフォルトは、静かに拳を構える。窓の方に歩み寄るゼロは、日差しを遮るカーテンを開く。外の日差しが薄暗かった部屋に入り込み、フォルトの視界は一瞬にして眩い光に包まれる。窓から射し込む日差しの向うに見えるゼロの黒い影。それは、窓の淵に右足を掛けていた。
「ゼロ! 逃げるのか!」
「フフフフッ。長い間ご苦労様。フォルト。君はとても役に立ったよ。最後に君に取って置きの情報を教えてあげる。一週間後、グラスター首都 レイストビルを複数の魔獣達が襲撃する。その中には十二魔獣の連中も何人かも一緒だ。彼にもこの事を教えておいた方が良い。今、彼の仲間はレイストビルに居るんだからね」
そこまで言って、ゼロは窓から飛び降りた。ようやく、目が慣れてきたフォルトは、すぐにゼロを追いかけ様と、窓際に近付くが、既にゼロの姿は無い。今までのゼロのと思い出などが蘇ってくるフォルトは、それが全部芝居だったと思うと悔しくて、涙が止まらなかった。噛み締める唇からは、血が出て涙と混ざって床に落ちた。
一階でフォルトの事を待つフォンとリリア。その間、リリアはフォンの髪をハサミで整えており、艶のある茶色の髪が床に散らばっている。こうやって、髪を切られていると、幼い頃を思い出すフォンは、自然と笑みを零す。
実は、幼い頃フォンは髪を切られるのが、嫌いだった。その元凶となったのが、フォンの親父だ。親父は、不器用なくせに細かい事をやりたがる。その為、フォンの髪を母親が切っていると、体がウズウズしたのだろう、何故か途中で母親からハサミを取り髪を滅茶苦茶にするのだ。それが、あった為幼い頃は髪を切られたくなくて、随分髪を長く伸ばし逃げ回っていたのを覚えていた。
そんな思い出に浸っていると、後ろで「終りました」と、小さな声が聞えた。あんまり自信の無い様なその声に、多少不安になるフォンだが、鏡を見てその出来に驚きの声を上げる。
「うおっ! 凄く良い感じだぞ。オイラのボサボサだった髪が、なんだか自然に見えるぞ」
「気に入っていただけて、よかったです……」
やはり、何処か自信が無いその声に、フォンは少々首を傾げ、鏡越しにリリアの顔を見据える。鏡に映るリリアは、顔を俯けてなにやら恥かしそうにしており、そんな顔を隠すかの様な長い前髪がチラつく。微かにしか見えないリリアの表情に、「ムムムッ」と、唸り声を上げるフォンは、リリアの方に顔を向けた。すると、リリアは少し怯えた様に後退し、フォンの顔を前髪に隠れた目で見据える。
「な、なんですか?」
「う〜ん。邪魔じゃない? その前髪」
「そ、そ、そんな事ないです。邪魔なんかじゃ――」
「本当か?」
疑う様な声で聞き返すフォンは、ジッとリリアの目を見据える。フォンの視線に怯える様にキョロキョロとし始めるリリアは、顔を真っ赤にするが、俯いていてなおかつな前髪が邪魔してフォンには分からない。その為、フォンはずっとリリアの顔を見据える。
頭の中が朦朧とし始めるリリアは、次第に視界が揺らぎ平衡感覚を失いそのまま、倒れてしまった。当然、フォンは驚く。そりゃ、突然人が倒れれば誰だって驚くだろう。飛び上がり、すぐにリリアに駆け寄るフォンは、目を回すリリアの顔を見て声を掛ける。
「お〜い。大丈夫か? リリア〜ッ!」
「うるるる〜っ」
と、変な声で返事をするリリア。これは、重症だとフォンは右手で頭を掻きながら思う。何が原因でこうなったのか知らないフォンは、非常に困った表情をしたまま腕組みをして考え込む。これから、どうするか。どうしたら良いのかと。悩みに悩むフォンだが、そこに激しく床を軋ませながらフォルトが階段を下りてきた。その顔はあのトーナメントの時に見た怖い表情をしており、何かあったのだとフォンはすぐに気付くが、フォンは話を聞く前にフォルトに言う。
「リリアが大変なんだ」
「リリアが? ――ッ! リリア! だ、だだ大丈夫か!」
驚いた様子ですぐにリリアを抱え起こすフォルトに、苦笑いを浮かべるフォンは、頭を掻きながら答える。
「何か、急に倒れちゃってさ……」
「急にって――! そうだ、それより、大変だよ! 一週間後、レイストビルに魔獣達が!」
「レイストビル?」
暫し考えるフォン。そして、パッと頭の中に浮ぶカインやルナの顔。その瞬間、フォンは右手で拳を作り左手をポンと叩き笑顔で言う。
「そうだ。レイストビルって、オイラ達の目指してた所だ。ンッ? あれ? 今、レイストビルに魔獣達がって?」
「そうだよ! レイストビルを滅ぼすために魔獣達が動いているんだって!」
「なに! それって、大変だ! えっと、えっと、どうすれば……」
慌てふためくフォンは頭を抱え込む。もし、ルナやミーファ、ワノール、カイン、ウィンスがレイストビルにいたら、大変な事になると、考えるだけで頭の中は更にパニックになり、考えが纏まらない。その為、オドオドとその場を走り回り心を落ち着けようとする。それでも、落ち着かないフォンは、「どうしよう、どうしよう」と、走り回り大慌てで旅の支度をする。そんなフォンを見据えるフォルトは、ため息を漏らし声を掛ける。
「フォンが慌ててもしょうがないよ。ほら、深呼吸して」
「し、深呼吸か、スー……ハァー……スー……ハァー……」
深呼吸を繰り返すフォンは、次第に落ち着きを取り戻し、頭の中もすっきりとする。そして、今の頭なら考えも纏まる。別に焦る事はない。あそこに、ワノールもウィンスもカインも居る。焦らなくても、あの三人が何とかしてくれる。そんな思いが、フォンの心を和ませ落ち着かせた。そんなフォンに、フォルトは少し怖い顔をしながら言い放つ。
「フォンは、すぐにレイストビルに向って。急がないと、フォンの仲間は――」
「大丈夫。確かに心配だけど、あいつ等は強い。きっと、オイラが行くまでに全て終らせてくれる」
ニコッと笑みを浮かべたフォンは、真っ直ぐな瞳でフォルトを見つめる。その瞳を見ていると、何故かフォルトは大丈夫だと思えた。それだけ、フォンの目には力が篭っていたのだ。背を向け、玄関の方に向うフォンを、フォルトは呼び止めた。振り返ったフォンは、何か黒い物が飛んで来たので、とっさに右手でそれをキャッチする。それは、黒いフード付きの厚手のコートだった。
「前に僕が暴走した時、リリアを助けてくれたろ。そのお礼にって、リリアが作ったんだ。大事にしてくれよ」
「あぁ。ありがとう。大事にするよ」
もう一度ニコッと微笑むと、背を向けてそのまま戸を開き外へと出て行った。そんなフォンの後ろ姿を見据えたままのフォルトは、小声で呟く「ゼロのウソツキ」と。
暫くぶりです。更新が遅れて申し訳ないです。
チット、パソコンに触れる機会が無くて、まぁ、それで、更新できなかったってわけなんです。
まぁ、更新できなかったって言っても、ニ・三日なんで、別に大した事じゃないですよね(笑)
また、今日から頑張ります。




