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第21回 国王 カーブン

 玉座の前に佇む老人。顔付きは少々シワが目立ち。目は優しく暖かい。頭は既に白髪だらけで、顎から伸びる髭も既に白くなっている。体はまだ丈夫そうで堂々と立ち尽くし階段の下に控えるフレイスト達を見下ろす。顔を伏せる四人の姿を見据える老人は、優しい声で笑うと大らかな笑みを浮かべ、玉座に座る。何故か嬉しそうな表情を見せる老人の顔を、顔を伏せながらチラリと窺うワノール、カイン、ウィンスの三人は、微かに首を傾げる。そんな三人の行動に気付いた老人は優しく言う。


「顔を上げてもよいぞ。ワシはただの老い耄れじゃ。そう畏まらんでもよいわ」


 そう言う老人に、フレイストが顔を上げ立ち上がり力強い言葉遣いで言う。


「何を仰るのですか! カーブン様!」

「フレイスト。今は、国王としてここに居る訳じゃない。ワシは一人の老い耄れとしてここに居るのじゃ。まぁ、皆も硬くならんで良い」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう」

「そうですね。僕もあんまり緊迫したのっていやなんで」


 ワノールとカインは顔を上げてそう言う。のんびりと伸びをするカインは、頭を伏せたままのウィンスを見て、不思議に思う。いつもなら、一番先に顔を上げそうだったからだ。暫くたっても全く動こうとしない、ウィンスの事を見据えていたワノールはあることに築き、唖然とした表情を浮かべる。そして、ウィンスの体を軽く蹴飛ばすと、力なくウィンスの体が横転する。


「のわーっ! うぃ、うぃ、ウィンス君! だ、だだ」

「あんまり緊張して気を失ったんだろ。暫くしたら意識を取り戻すさ」

「ど、どどど、どうしよう、どうしよう!」


 まるっきしワノールの言葉を訊かず、大慌てで駆けずりまわるカイン。ガックリとうな垂れるワノールは、『国王の前で何をしてるんだ』と、思いながらため息を吐いた。フレイストも、そんな光景に呆れ言葉を失う。こんな無礼な連中、すぐに追い出したいと思ったが、そこは堪えた。国王であるカーブンは、のん気に笑い何か楽しそうだ。ワノールもフレイストもそんなカーブンの様子に気付く訳も無くただ呆れるだけだった。

 それから、暫くしてウィンスが目を覚まし体がズキズキと痛むのに気付く。「イッ」と、小さく呟き表情を引き攣らせるウィンスに、カインが飛びつき「よかった〜」と、言う。そんなカインに丁度痛む所を強くつかまれ、痛みに歯を食い縛るが、更に強く握られ痛みに耐えられず、思わず声を出す。


「――はぐっ!」

「良かったよ。本当。怪我したかと思ったよ」

「い、いた、いた」

「ンッ? 板がどうかした?」

「いったーい! ちょ、ちょ、ちょ、手を放せ! 痛いだろ!」


 素早くカインの手を払い除けたウィンスは、カインから間合いを取り息を荒げる。よっぽど痛かったのか、少し表情が怖い。そんなウィンスの表情を見て、少し悲しげな表情を浮かべるカインは、「ごめん」と、呟き顔を俯ける。ショックだったのだろう。心配しただけなのに、あんな風に手を払い除けられたから。そんなカインの気持ちを悟ったのか、ウィンスが言う。


「ごめん。何か、体が痛くて……」

「それは、俺が蹴ったからだ」

「なっ! てめぇ! ふざけんなよ!」

「そうだ! 元はと言えば、ワノールさんが悪いんですよ!」

「フッ、あんな所で気を失うお前が悪いんだろ」

「何だと! 緊張したんだよ! しょうがないだろ!」


 何故かもめ始めるワノールとウィンスとカインに、更に呆れるフレイスト。何で、こんな奴等をここに連れて着てしまったんだろうと、後悔してしまうが、一方のカーブンは楽しげにその光景を見つめていた。まるで、昔の仲間を見ているようだったのだ。カーブンの方に歩み寄るフレイストは、楽しそうに微笑むカーブンに問う。


「カーブン様。私にはわかりません。どうして、彼等を?」

「お前は、まるで昔のワシの様じゃ」

「まぁ、親子ですから」

「そうかもしれんな」


 穏やかに笑みを浮かべるカーブンは、長く伸ばした白髭を撫でながらフレイストを見据えた。若き頃の自分の様なフレイストの顔を。グリーンの瞳でワノール達を見るフレイストは、不満そうな顔をしてまたため息を零す。小柄なウィンスの体は、ワノールに頭をつかまれ、動く事が出来ず、その場で、拳を振るい空を切るだけ。動きを制御するワノールに、ウィンスと一緒になって文句を言うカインだが、完全にワノールは無視していた。大騒ぎするカインとウィンスを見据える周りの兵士達も、暫し呆れて呆然と立ち尽くしていた。

 それから、暫く揉め事が続いた。その間カーブンは笑みを絶やさず、そんな父の姿にフレイストも笑みを零す。嬉しかったのだろう。父であるカーブンが、こうして笑みを絶やさずに居る事が。母が亡くなってから、こんな風にカーブンが笑ったのは初めてだろう。元々、フレイストの母は、龍臨族ではなかった。その為、そんなにフレイストに母との記憶は無い。ただ、覚えているのは、母の温もりと優しい香りだけだった。

 あの後、結局話をする事は出来なかった。ついでに、あの揉めあいは、結果ワノールがカインとウィンスに止めを刺す形で終了した。そんな三人に、カーブンは「暫くこの城で休めばよい」と、優しく言い幾つかの部屋を用意させる。もちろん、暫くこの町に止まる事にしていたワノール達は、カーブンの申し出を断る理由も無く快く厄介になる事する。多少、フレイストは不服そうだったが、国王の言う事に歯向かう事は出来ず、三人をそれぞれの部屋へと案内した。

 長く続く廊下を歩む、フレイストの後にワノール、カイン、ウィンスの順で続く。床を靴の踵が叩き、その音が廊下に響く。暫し顔の傷を触るワノールは、


「一人一部屋とは、気前が良いな」


と、何か探るかの様に言葉を投げかける。それに対し、フレイストは愛想無く答える。


「客人をもてなすのは国の仕来り。当然のことです」

「俺には何か裏がある様な気がするがな」


 棘のある口調のワノールに、フレイストは先程と変わらぬ口調で答える。


「少々、考え過ぎなのではないでしょうか?」

「そうか? 大体、見知らぬ俺等をどうして城に泊め様などと思う」

「ミーファさんのお知り合いだからじゃないですか?」


 冷静にそう答えるフレイストに、鼻から息を吐きながらワノールは腕組みをする。全くワノールが何を考えているか分からないため、フレイストは少々表情を顰めた。険悪な雰囲気を漂わせるワノールとフレイストに対し、のん気に明るい雰囲気を漂わせるウィンスとカインは、何故かはしゃいでいた。


「こんな所に泊まれるなんて、嬉しいな」

「そうですね。大きな湯船とかあるかな? 久し振りにのんびり湯船に浸かりたいな〜」


 その言葉にウィンスが敏感に反応する。


「何言ってんだよ。こんなに大きな城なんだ。温泉くらいあるに決まってるだろ!」

「お、温泉! そっか。温泉か〜。楽しみだな〜」


 勝手な想像を膨らませる二人の声に、流石のワノールとフレイストも、戦意喪失した。その後は、何事も無い様に歩み進み、フレイストは三人を部屋まで届けた。一人一人広々とした部屋が用意されていて、一人で寝るには勿体無いほど大きなベッド。テーブルには様々な果物が盛り付けられた皿が置かれ、何処も彼処も埃一つ無く輝いて見えた。

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