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第19回 予測

 のどかな畑が連なる一本道を真っ直ぐに進む一行。まだ遠くの方に見える建物を目指し進んでいく。所々で、畑で働く農家の人々に声を掛けられ、収穫した作物をフレイストに見せながら楽しげに微笑む。フレイストも、作物の出来を見ながら笑顔で受け答えをしており、そんなやり取りにこの国の豊かさを感じる。

 そんなのどかな畑道を過ぎ、ようやく一行は都会らしい建物の並ぶ街道へと入る。盛んに人々の声が飛び交い、多くの人々が足を止める。子供達も楽しげに笑いあい、主婦のおば様方も楽しげに世間話に華を咲かせる。そんな町並みをキョロキョロと見回すウィンスは、何処か落ち着きが無く目を輝かせている。やはり、自分の住む村に無い建物ばかりで珍しいのだろう。


「すげぇー。ここ、本当にさっきまでの道かよ」


 興奮しながらそう言うウィンスは、無数に建ち並ぶ店を見ながら皆より少し後ろを歩む。そんなウィンスに落ち着いた様子の声で「迷子になるなよ」と、ワノールが言う。その言葉に、不愉快な表情を浮かべるウィンスは、「子供扱いするな」と、言って腕組みをして皆に追い付く。だが、すぐに目の色を変え、色んな店へと目を移す。あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、歩くウィンスにワノールは振り返り呆れながらため息を吐く。

 確かに少し珍しい露店が並ぶため、目を奪われるのも分からないでもない。『福福』と書かれた看板や、『魚魚』と書かれた看板。看板だけでは分からないモノばかりだ。『福福』は衣服店らしく、『魚魚』とは料理店らしい。殆ど、店の中に入らないと分からないものばかりだった。

 先頭を歩くフレイストの後ろを歩むカインは、ルナと並んで歩いていた。久し振りにルナに会え、嬉しくてカインは、何故か自然と笑みがこぼれる。一方のルナはいつもと変わらず、無表情で少し俯きながら歩いている。物静かなルナの横顔をチラチラと窺うカインは、ふと思い出す。


「そう言えば、さっき聞けなかったけど、フォンはどこに? 一緒じゃなかったの?」

「フォンさんは――」

「その話に関して、ミーファさんから多少ながら耳にいたしました。宜しければ、私の方からお話しますが?」

「いえ。私の方から、話します」

「そ、そうですか……」


 少し緊張気味のフレイストは、後ろを気にしながらそう言う。いつもよりも覇気の無いルナの声に、何と無くカインは嫌な予感がしていた。そして、あの時感じた嫌な感じは、多分フォンに何か関係しているんじゃないかと。不安そうな表情を浮かべるカインに、静かにルナは口を開く。


「カインさんが、魔獣に連れて行かれた日。フォンさんはカインさんを探すと、ワノールさんと争いになりました。何処か、いつもと違う雰囲気を漂わすフォンさんは、ワノールさんを圧倒し止めを刺そうとした所をウィンスさんに止められ気を失ったんです。この時から、既にフォンさんの体には異変が起きてたのかも知れません」

「その時までは、フォンは居たんだ。それじゃあ、その後フォンに何かあったの?」

「はい。次の日の朝、あの森に濃い霧が出てました」

「――濃い霧? ま、まさか、あの時聞えた遠吠えって!」


 思い出した。ノーリンと出会ったあの村の朝、濃い霧が出ていた事を。そして、聞えた背筋も凍るかのあの遠吠えを。驚き戸惑うカインがルナを見ると、少々首を縦に振り頷く。信じられたいといった表情を浮かべるカインは、「それじゃあ」と小さく呟き、それに対し、首を横に振るルナ。それが、何を意味するのか分かったカインは、俯き黙り込んだ。二人の話しを窺うフレイストは、急に話が聞えなくなり不思議そうに首を傾げる。


「それから、先の話しはしないのですか?」

「それから先何てない。私達がフォンさんの姿を最後に見たのはあの霧の中の黒い影でしたから」


 暗く塞ぎこんだ声のルナに、聊か不思議そうな表情を見せるフレイストは、ミーファの話を思い出し言葉を続ける。


「でも、私がミーファさんからお聞きした話しには続きがありましたよ」

「――! そうか! ミーファさんは時見族だ! きっと、未来を見たんですよ!」


 突如、ミーファの思い出したカインが叫び、隣に居るルナの両手を握る。突然の事に少し驚くルナに対し、物凄く嬉しそうに笑顔を見せるカインは、力一杯手を上下に振った。そんなカインの姿を目にしたワノールは、眼帯から薄らと見える深い傷痕を右手の人差し指でなぞり、目付きを鋭くする。


「あまり期待はしない方が良い。全てが全て良い方に行くとは限らんからな」

「な、なんて事言うんですか! ワノールさん! 僕だって怒りますよ」


 素早く振り返ったカインがワノールを真っ直ぐ見据える。そのカインの目を真っ直ぐに睨むワノールは、少々棘のある声を飛ばす。


「カイン。お前は考え方が少し甘い。常に悪い状況へと考えておいて、最善の答えを見出せ。いつか、その考え方が命取りになるぞ」

「ワノールさんは、マイナス思考過ぎます! 常に悪い状況に考えて、楽しいですか? 少し位明るく考えましょうよ!」


 妙にワノールに食って掛かるカイン。多分、これほどまでにカインがワノールに言い返したのは初めてだ。そのせいか、少しワノールは圧倒された。だが、少し嬉しかった。今までは、自分に歯向かおうともしなかったカインが、このように反抗してきた事が。

 不貞腐れたような表情を浮かべるカインは、ルナの手を放し、腕組みをしてブツブツと何かを小さな声でぼやいていた。そんな二人の会話を聞いていたフレイストは「ハハハハッ」と笑い声を上げる。


「仲が宜しい様で。流石は、元・黒き十字架の隊長と副隊長ですね」

「フッ。思い出したくも無い記憶だな」

「向うの国王に色々と顎で使われていた様ですね」

「黙れ。俺は、王族は嫌いだ。あまり話しかけるな」

「そうですか。でも、全ての王が皆アルバー王国と同じだと思わないでください。正直、腹が立ちます。父や東のフォースト王国の王も素晴らしいお方です」


 その言葉をワノールは鼻で笑り黙り込む。複雑そうな表情を浮かべるフレイストは、小さくため息を零す。暫し間が空き、露店を開く人々の声が響く。時折、フレイストに声を掛ける民なんかも居るが、それをフレイストは優しく断り城へと向ってゆく。長い間続く沈黙。その沈黙をルナが破った。


「先程の話しの続きを聞かせて欲しいのですが?」

「あぁ、フォン殿の事ですか。いいですよ。私がミーファさんからお聞きした全てを話しましょう」


 歩みながらそう言うフレイストは、後ろを歩くカインとルナを気にしつつ話し始めた。食い入る様にその話に耳を傾けるカイン。それに対し、全く興味の無さそうな表情を浮かべるワノール。相変わらずキョロキョロするウィンスは問題外として、ルナは複雑そうな表情だった。もしかすると、最悪な未来を見たかもしれないと、不安が過ぎる。


「フォン殿は、三人の前から姿を消した後、崖から落ちたそうです。ここからは、ミーファさんも少々曖昧らしいのですが、崖の下で何者かに出会い話をした様です。そして、二人で森の中で消えた様です」

「二人で森に消えた? それじゃあ、フォンはその何者かに自分から着いて行ったんですか?」

「今の話を訊く限りでは、そう考えるのが妥当だろ?」

「えっ、でも、でも、その何者かって?」

「そこまでは私も……。ただ、ミーファさんの言う事では、『私はあくまで未来を予知しただけ』との事です」


 複雑そうに腕を組むワノールは、ミーファが言ったと言う『あくまで未来を予知しただけ』と、言う所に何か違和感を感じる。まるで、この予測は正しくないと、言っている様に聞えた。考え込むワノールに対し、安心したような表情を浮かべるカインは、ルナの方を見て明るく言い放つ。


「よかった。フォンは無事みたいだね。なんだか安心した」

「でも、何処にいるのか……」

「大丈夫! きっとフォンはここに来るよ。僕達がここに居るって分かってるんだから」

「そうだと、いいがな」


 相変わらずの口振りで、ワノールがそう言うと、カインが鋭く睨み付ける。だが、ワノールはそれを無視した。ムッとするカインだが、ワノールの言う事も少し分かった。あくまで、ミーファが予測した未来。本当に、未来がこの様に進んでいるのかなど、誰にも分からない。そう考えると、心配になった。今、フォンが何処にいて、ちゃんと無事なんだろうかと。

 更新が遅れ、申し訳ありません。暫し頭が働かず、考えも纏まらなかったので、ゆっくり休んでたんですが、ようやくボチボチ頭が働き始めた所です。

 いつもと変わらぬ表現といつもと変わらぬ文章力ですが、もっといい作品になるよう努力したいです。

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