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第173回 封魔の玉と三種の武器

 背骨が軋み、顔が歪む。

 ノーリンの拳が銀狼の顔面を跳ね上げ、ウィンスによって打ち出された渦浪尖はその背骨を砕き体を貫く。切っ先がその腹を突き破る瞬間に、ノーリンは跳躍し突き抜けた渦浪尖はノーリンの足の下を通過し徐々に高度を下げ床を僅かに抉りその柄を揺らしながら勢いを止めた。

 顔を殴られ後方へと傾く銀狼の上半身。一方で腰から下は骨を砕かれた衝撃で前方へと倒れ行く。曲がってはいけない方へと折りたたまれる様に崩れる銀狼の肉体。傷口から飛び散った血が床へと放射線状に広がり、膝が床へと落ちるとその飛び散った血を消す様に大量の血が一気に床へと流れ出た。

 跳躍したノーリンは突っ込んだ勢いもあり、崩れ行く銀狼の体を上を通過し、その向こうに居たカシオとウィンスへとその身を預ける様に背中から衝突した。

 巨体のノーリンの体を、体力的に限界のカシオとウィンスで支えられるわけもなく、三人は激しく床を横転し土煙を巻き上げた。


「ぐへっ!」

「うぐっ……」


 巨体のノーリンの体に下敷きにされ、カシオとウィンスが声を上げると、ノーリンは「ふむっ」と小さく息を吐いた。


「ふむっ、じゃねぇー。早く退けよ!」

「悪い。動けん」


 カシオの言葉にそう返答したノーリンは小さく肩を揺らしおおらかに笑う。そんなノーリンの肩を下から激しく叩くウィンスは、苦しそうに「もがもがっ」と言葉にならない声を発していた。

 和む三人に対し、ゆっくりと立ち上がったティルは怒声を響かせる。


「ま、まだだ! まだ終わってないぞ!」

「――っ!」


 ティルの言葉で、三人は息を呑む。目の前で起こる光景に。腰を砕かれ折れ曲がっていた銀狼の体が、不気味な音をたてながらゆっくりと起き上がる。


「おいおい……幾らなんでもやりすぎだろ……」

「ああ……まさか、奴の持つ再生力がここまでとは……」


 カシオの声にノーリンが静かに答えた。不気味な動きをしながらその傷口を再生して行く銀狼の姿に、その場に居た皆が表情を歪めた。渾身の一撃を与えたと言うのに、それすら再生しようとする銀狼の細胞。これが、癒天族の再生力と烈鬼族の活性化された細胞の力なのだろう。


「くっ……くくくっ……やってくれたな……」


 まだ再生の終わらぬ体を揺らしながら銀狼が呟くと、ティルとカインは同時に武器を構え、ノーリンも苦痛に表情を歪ませながらウィンスとカシオの手を借りゆっくりと体を起こした。

 再生されていく銀狼の姿を見据え、息を呑む一同。どんな攻撃をしても再生するその肉体に、皆渋い表情を浮かべる。そんな折、ゼロの静かな声がティルの耳に届いた。


「奴を倒すには……風魔の玉が必要だ……」

「風魔の玉か……」

「ちょ、ティルさん。あんな奴の声に耳を貸す事ないですよ!」


 ティルの呟きにカインが横目で視線を向けながらそう怒鳴ると、顔をカインの方へ向け、


「倒せる方法があるなら聞くべきだ。俺達だって、いつまでも戦えるわけじゃない……」

「でも、アイツは敵です! それに……」


 カインが口ごもる。言いたい事は大よそ分かった。だが、それでもティルは強い口調を変えずに言い放つ。


「アレはもうフォンじゃない!」

「でも、まだ助ける事が――」

「その方法を探しながら戦い続けるなんて無理だ。俺達全員、もうそう長く戦えないだろ」


 ティルの言葉にカインは唇を噛み締める。ティルだってフォンを助けたいと思っていた。だが、これは約束だった。あの日、飛行艇で交わしたフォンとの――。


『オイラが暴走して自我を失ったら、お前の手でオイラを殺してくれ』


 と。そう告げられたのだ。右腕の暴走を隠しながら一人その力に葛藤するフォンに、ティルはただ頷き「分かった」と返答したが、いざこうなると胸がズキッと痛んだ。

 奥歯を噛み締め、天翔姫の柄を強く握り締める。そんなティルの真剣の眼差しに、カインは渋い表情を浮かべ唇を噛み締めた。ティルの言っている事は正しいと、カイン自身も分かっているのだ。それでも、助けたい。ルナが悲しむ顔を見たくなかったのだ。


「ティルさん……どうにもならないんですか?」

「ああ……言っただろ。その方法を探す時間はないって」

「俺の言った方法だったら、助けられる……かも、しれないぞ……」


 掠れたゼロの声に、二人の動きが僅かに静止する。助けられる可能性があると言うその言葉に。


「ふ、ふざけるな! そ、そんな言葉を信じろって言うのか!」

「落ち着け、カイン」


 興奮するカインを制止する様に右手を出すと、「でも……」と、カインは眉間にシワを寄せる。カインが言わんとしてる事は分かったが、それでもフォンが助かる道があるならばと、ティルはゼロの方へと体を向けた。


「詳しく話を聞かせろ」

「ふふっ……流石、話が分かる……」


 ゼロは弱々しく体を揺すると、ゆっくりと上半身を起き上がらせ、血に染まった顔をティル方へと向けた。ゼロもすでに肉体的に限界で、その場からあまり動く事が出来そうになかった。それでも、カインは青天暁を構え、警戒を強めていた。それ程、ゼロも危険だと言う事なのだ。

 呼吸を整える様に、大きく息を吸ったゼロは、静かに息を吐く。


「風魔の玉……その、別の呼び名は……封魔の玉。魔を、封じる玉と言われてる……」

「魔を封じる玉?」

「それで、封魔の玉か」


 聞き返したカインが首を傾げ、その隣でティルは納得した様に僅かに頷く。だが、そこで一つの疑問が浮かんだ。風魔の玉がゼロの言う通り魔を封じる玉だとして、何故あの巨大な化け物の体内にあった時それを抑える事ができていなかったかと言う事だった。

 フォンの話では、風魔の玉はあの巨大な狼の様な化け物の体内に存在し、その力で巨大化していたと言う事だった。もし魔を封じるなら、そこはあの化け物の力を抑える働きをしなければおかしいのだ。

 その考えをティルが口にしようとした瞬間、ゼロは口元に僅かな笑みを浮かべる。言おうとしてる事は分かっていると、言う様に。


「もちろん……それ単体では、封じる力は発揮しない……三種の武器が鍵となる……」

「三種の武器……」


 ティルはその言葉を呟き、思わず天翔姫を見た。その瞬間、ゼロが「ふふふっ」と肩を揺らし笑った。


「察しがいいな。……そうだ。三種の武器とは、天翔姫、双牙、渦浪尖の三つだ……アレは、元々、魔を封じる儀式を行う為に、作られた武器……」

「それで、ブラストは双牙を持たせたのか……」

「でも、この三つの武器でどうやって風魔の玉の封じる力を引き出すって言うんですか?」


 先ほどまでゼロの言葉を信じないと言う顔をしていたカインが、ティルにそう尋ねた。すっかり、ゼロの考えだと言う事を忘れて。

 カインの言葉に、ティルは小さく息を吐くと首を振った。正直、この三種の武器と風魔の玉をどう使っていいのか分からなかった。その為、真っ直ぐにゼロの方へと視線を向けた。


「俺に頼るな……。キミは知っているはずだ。その方法を。この三種の武器の最終形態を。そして、ボックスの意味を」


 ゼロはそう静かに告げ、瞼を閉じた。死んだわけではなく、傷が酷く意識を失っただけ。そんなゼロの言葉に、ティルは「そうか……」と小さく呟く。思い出したのだ。天翔姫、双牙、渦浪尖の使い方を。そして、風魔の玉の使い方を。

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