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第162回 すべき事

“グガァァァァッ”


 突如轟く咆哮に船体は大きく揺れる。


「な、何だ?」


 突然の揺れにティルが声を上げ、その僅かな衝撃にリリアの歌が止む。体中に刻まれた傷がリリアの小さな肉体に声を出せぬ程の激痛を走らせた。背中に生えた光の翼が薄れ、ルナの体を包む光も微弱なモノになっていた。


「お、おい! 大丈夫かよ!」


 ウィンスが駆け寄ろうとしたが、それをセフィーが右手を出し制した。


「な、何すんだ!」

「やめなさい。今、あんたが彼女に駆け寄って何が出来るって言うの」

「けど!」

「セフィーの言う通りだ」


 後ろからウィンスの肩を掴んだワノールが静かにそう述べた。ウィンスの肩に掴まり何とか立っている状態のワノールは、僅かに表情を歪めると、ウィンスの首に腕を回した。


「な、何だよ?」

「今の声、間違いなくフォンだ」

「あ、ああ。そうだろうけど……それが、何だよ?」


 意味が分からないと言わんばかりにそう返答するウィンスに、ワノールは呆れた様に小さく吐息を漏らした。その行動にウィンスは表情を引きつらせ、


「おい! バカにしてんのか!」


 怒鳴り散らすウィンスに、ワノールは「落ち着け」と、弱々しく頭をぶつけた。


「イテッ!」

「よく考えろ。今の声は獣化したフォンの声」

「だからなんだよ」

「まだ分からないのか? 俺らがするべき事は――」

「フォンと一緒にゼロと戦う事」


 ウィンスとワノールの前にフレイストが歩み寄りそう言い放つ。緑色の瞳を輝かせ、折れた鱗龍をその手に握り締め、ワノールとウィンスに強い眼差しを向ける。そのフレイストの目を真っ直ぐに見据えるワノールは静かに頷く。


「ああ。そうだ」

「だが、それは無謀じゃないか?」


 カシオに肩を借り脇腹を押さえながらブラストが静かにそう告げる。傷は塞がっているが、まだ体に痛みが残っていた。何とか、カシオに肩を借り歩けるが、激しく動くのは無理だ。


「正直、次元が違い過ぎる。ここに居る皆、殆ど一撃だったじゃねぇか。束になってどうにかなる相手じゃないって」


 カシオが追い討ちを掛ける様にそう言うと、皆言葉を呑む。分かっていた。ゼロの強さを、身を持って感じたから。例え束になっても勝てる可能性なんて、本の僅かだと言う事も。

 そんな中、ティルだけは強い眼差しを崩さず静かに輪の中へと入る。


「俺は行く」

「ティル。気持ちは分かるが、お前が行っても」

「分かってる。けど、何か出来る事があるはずだ」


 拳を握り力強い声を上げ、皆の顔を見回す。ブラストは小さく息を吐き、床に刺さった剣を指差す。


「行くなら、アレを持っていけ。天翔姫のオリジナルだ。きっと役に立つ」

「ああ。ありがとう」


 軽く頭を下げると、カシオは肩に回ったブラストの腕を退け、


「仕方ない。俺も行くぜ。体力も回復したし、ティルだけじゃ心配だからな」

「……」


 カシオの声にティルはジト目を向けた。その視線にカシオは「えぇーっ」と声を上げ、涙目を向ける。そんなカシオを無視し、フレイストが一歩前へと出た。


「それなら、私も行きます」

「けど、その剣じゃ……」


 フレイストの手に握られた折れた鱗龍を見据え、ティルがそう言うと、フレイストは静かに口元に笑みを浮かべる。


「大丈夫です。剣以外にも武器はありますから」

「そうなのか?」

「えぇ」


 爽やかな笑みを浮かべるフレイストに、ティルは小さく頷いた。ワノールに首に腕を回されたウィンスは、深く息を吐き、ティル・カシオ・フレイストの順に顔を見据えると、小さく肩を落とした。


「じゃあ、俺だけ行かないって言うわけにも行かないよな」

「当たり前だ! まだまだ戦えるだろ!」


 ウィンスの頭を軽く小突いたセフィーがそう怒鳴ると、ウィンスは頭を擦り小さくため息を吐く。


「分かってるよ」

「いや。ウィンス。お前はダメだ」

「はぁ! 何でだよ!」


 突然のブラストの言葉にウィンスが身を乗り出すが、それをブラストは右手を前に出し制する。


「落ち着け。お前には他にやってもらう事がある」

「他に? 何だよ」

「ノーリンとバルド、カインの三人を見つけてここに連れて来る事だ」

「そう言えば、あの三人の姿は見てないな」


 辺りをキョロキョロするウィンスに、ティルは腕を組み唸り声を上げる。ヴォルガとの戦いで手一杯だった為、カイン達三人の事を気にする余裕が無かった。確かに大きな爆音や火柱、咆哮など凄まじい戦闘が繰り広げられていた様だったのは覚えていた。

 複雑そうな表情を浮かべるティルに、フレイストは苦笑し、ウィンスとカシオは呆れた様にジト目を向ける。


「町が半壊する程の戦いやってんのに、気付かないもんかね?」

「他人に関心が無いんだよ。ティルの場合」


 カシオの言葉にウィンスが更に付け加える。その言葉にティルの額に青筋が浮かび、冷ややかな視線が二人へと向けられる。


「周りを気にする程余裕があると思うか? 相手に集中してないと、死ぬかもしれないって戦いの中で」

「ま、まぁまぁ」


 苦笑しながらフレイストはティルをなだめ、ウィンスとカシオは「はぁ」と合わせた様に深くため息を吐いた。その行動に拳を震わせるティルはなだめるフレイストに視線を向け、


「一発ぶん殴っていいか?」

「まぁまぁ。落ち着いて」

「あの顔を見ろ! ムカつくだろ!」


 ティルの指差す先に居るウィンスとカシオの呆れた様な顔に、フレイストは「あはは」と乾いた笑いを吐くと、頬を右手で掻いた。何て答えていいのか思いつかなかったのだ。

 僅かに和んだ空気の中で、ブラストは真剣な表情を浮かべると、ウィンスの右肩を強く掴んだ。


「イッ」


 あまりの強さにウィンスは反射的にそんな声を上げ、ジッとブラストの瞳を見据える。


「あんまり時間が無いんだ。真剣に話を聞け」


 ブラストのあまりの迫力に、空気は一気に緊張感に包まれる。僅かに焦りの見えるブラストに、ティルも自らを落ち着ける様に二度深呼吸をした。各々、ブラストの声で現状を思い出し、真剣な表情を浮かべ息を呑む。

 静まり返るその部屋で、静かにまた歌声が聞こえ出す。リリアの優しく暖かな歌声が。弱々しく、時折吐血を繰り返すが、それでもリリアは歌う事をやめなかった。

 そんなリリアの姿に、ブラストは目を伏せる。


「彼女がルナの為に頑張っている。だから、俺達は俺達でやるべき事をする」

「ああ。分かってる。俺とフレイスト、カシオでフォンの援護」

「んで、俺がカイン、ノーリン、バルドを見つけてここに連れて来るんだろ?」

「それじゃあ、ブラストさんは何を?」


 フレイストの言葉に皆がブラストの方に視線を向けると、ブラストは壊れた機材へと視線を向けた。


「アレの修理だ」

「修理って、今更修理してもこの飛行艇もう空は飛べないだろ?」


 呆れた様に声を上げたカシオに、ブラストは軽く首を振り、


「直すのは飛行艇じゃない。転送装置だ」

「転送装置?」

「俺達が使ったアレか?」


 不思議そうな顔をするティルに対し、さも当然と言わんばかりに話を進めるワノール。ティル以外のメンバーは皆その装置でこの飛行艇から各大陸に赴き戦い、その装置を使いここに戻ってきた為、その装置の凄さも重要性も理解していた。

 一人キョトンとするティルに、ブラストは静かに笑う。


「安心しろ。安全性は確かだ。それに、ここから脱出する為には必要なモノだ」

「あ、ああ。分かった。じゃあ、ワノールやミーファ達を頼むぞ」

「ああ。お前も気をつけろよ」


 ブラストの言葉に深く頷き、「行くぞ」と掛け声を上げティルはフレイスト、カシオと一緒に部屋を出た。それに少し遅れ「じゃあ、行ってくるよ」とウィンスはセフィーに告げ壁に開いた穴から外へと飛び出していった。

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