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第155回 襲来

 城へと突っ込んだ飛行艇内。

 残されたミーファ・ルナ・ウール・セフィーの四人。ルナはミーファとセフィーの軽い傷を触診し、軽く力を使い傷を癒す。その二人の傷が僅かながらルナの体へと刻まれる。癒天族の癒しの力の対価。癒した傷の一割を自らの体で請け負いながらも、全く顔色一つ変えずルナは椅子に腰掛けていた。

 力を使いやや疲れた様に息を吐くと、ミーファは心配そうな表情を向ける。幼い時からそうだった。ルナは辛くてもそれを自分一人で背負う。誰にも言わず、何もかもを。だから、自分の運命の事もずっと一人で抱え込んでいた。今はフォンのおかげで少しだけ抱え込んでいたモノが軽くはなったと思うが、それでも、どこかルナの表情には影が見えていた。


「ねぇ、ルナ。ルナの聞いた予知って――」


 ミーファがそう口を開いた時だった。突然、飛行艇が衝撃を受け軋み、窓ガラスが砕け破片が散乱する。


「きゃっ!」


 ミーファとウールが悲鳴を上げる中、ルナは静かな面持ちでその光景を見据え、セフィーは拳を構えた。この中で唯一戦闘経験のあるセフィー。もし敵ならば、身を犠牲にしてでも、三人を守るつもりだった。それが、今の自分に出来る事だと。

 だが、その覚悟も一瞬で崩れる。おびただしい殺気と圧倒的な威圧感を放つ男は、砕けたガラスを踏み締めそこに現れると、静かに船内を見回す。漆黒の髪が揺れ、僅かに混じる白髪が見え隠れする。穏やかな顔をしながらも、その目は恐ろしく見る者に恐怖を与えていた。

 息をする事すら忘れ、その場から動く事が出来なかった。誰一人として。体が震え、自然と視線はその男へと向けられ、瞳孔が開く。


「……まだ、誰も戻ってないか」


 静かな低音の声に、セフィーが我に返り、キッと睨みを利かせた。だが、その男はそんな視線など気にも留めず、ミーファ、ルナ、ウール、セフィーと順に顔を見据えると、スッとルナを指差した。


「ルナ=クライアン。死の予言はもうすぐだ。別れの言葉は告げたか?」

「ふざけるな!」


 一瞬だった。足の裏へと集めた風を爆発させ、その男の背後へと回ったセフィーがそう叫び、右足で蹴りを見舞ったのは。しかし、その蹴りはいとも容易く右腕で防がれ、男の穏やかな顔の横でピタリと止まった。


「くっ!」

「セフィー=カージェス。ウィンス=カージェスの姉か。勇ましいな。風牙族の女は」

「これなら、どうだ!」


 突如、猛々しく部屋に響く別の男の声。それと同時に部屋の扉が裂け、漆黒の刃が空を切り裂く。その声に振り返ったウールは、そこにたたずむ男に叫ぶ。


「あなた!」

「待たせた……」


 振り抜いた黒刀・カラスを床へと突き刺し、体を支えるワノールは表情を引きつらせ目の前の敵へと視線を向けた。

 向かってくる漆黒の刃を見据え、男は小さく息を吐き右手でセフィーを床へと叩きつけ、左手でその刃を払った。まるで虫を払うかの様に軽く。

 払われた刃は壁をぶち破り爆音を轟かせると、機体が大きく揺れる。その衝撃でふら付くワノールの視線が僅かにその男から外れ、


「残念だ。ここまで消耗してるとは」

「――!」


 刹那に真横で聞こえたその男の声に、ワノールは反射的に体を反転させ、床に刺さった黒刀・烏を引き抜き一気に振り抜く。だが、その刃は金属音を響かせ動きを止めた。


「ぐっ! 貴様……」


 腕を硬化させ刃を受け止めた男は、ワノールへと顔を近づけると小声で告げる。


「ワノール=アリーガ。烈鬼族の力を使い、もう肉体は衰えたか」


 と。ワノール自身分かっていた。もう自分に今までの様な戦い方が出来ない事を。

 烈鬼族の力。鍛え上げた肉体のリミットを外す事により、体をを活性化し、異常な再生力と常人を超えた身体能力を与える。先のガゼルとの戦いで、その力を使用したワノールは、代償として今まで鍛えた筋力が失われ、本当ならば立っているのもやっとの状態だった。

 それでも、奥歯を噛み締め腕を震わせながらその刃に力を込め、左目でその男を睨むと、口元に薄ら笑みを浮かべた。


「うおりゃあああああっ!」


 雄たけびが響き、開かれた扉からウィンスが飛び出す。その瞬間、男はワノールの体を蹴りその場を離れると、ウィンスの方へと目を向けた。素早い身のこなしで、迫るウィンスに眉間にシワを寄せた。


「ウィンス=カージェス」


 男は静かに呟き、体勢を整える。

 体を蹴られ力なく床を転がったワノールを飛び越えるウィンスは、視線を一瞬ワノールの方へと向けると、


「後は任せろ!」


 と、幼さ残る顔に僅かに笑みを浮かべ叫んだ。だが、そんなウィンスに、床を転がりながらも、ワノールは怒鳴った。


「バカか! 叫びながら出てくる奴があるか!」

「あのバカ……」


 ワノールの声に床に叩きつけられたセフィーが体を起しながら、小さくそうぼやいた。ウィンスが目立ちたがりだとは知っていたが、ここまでだったとは、とセフィーも呆れていた。

 そんな二人の冷たい視線など気にせず、ウィンスは短い黒髪を逆立てながら男の方と向かって駆ける。いつもの様に足の裏に風を集め、それを起爆剤にして加速しながら。


「行くぞ! 牙狼丸」


 ウィンスが牙狼丸に呼び掛けると、その声に鼓動する様にその刃を風が包む。


「くらえぇぇぇっ!」


 右足で床を蹴り飛び上がると、頭上に牙狼丸を振り上げ、その男に向かって一気に刃を振り下ろす。だが、刃は豪快に空を斬り、切っ先を床へと叩き付け疾風が床を二つに割った。体勢を整え振り返るが、何処にもその男の姿は無い。


「何処だ!」

「ウィンス! 右!」


 セフィーの声に体を右方向へと向けると、その男の黄色の瞳と視線が交わった。だが、刃を振るうよりも先にその男の右足がウィンスの即頭部へと入った。首の骨が軋む様な音が響き、ウィンスの目が見開かれる。


「ぐぅ!」


 体重を乗せた一撃にウィンスの体が傾く。そして、その足に吸い付けられた様にそのまま床へと叩き伏せられた。痛々しい鈍い音が機内に響き、床が砕け破片が僅かに散る。頭から思いっきり床に叩きつけられたウィンスの手から牙狼丸が転がった。


「ウィンス!」


 セフィーが叫び立ち上がろうとするが、先程床に叩きつけられたダメージで、膝に力が入らずその場に倒れこんだ。ワノールも同じだった。立ち上がろうと力を込めるが、もう体に力が入らなかった。

 ゆっくりと男は右足を上げると、そのままウィンスの体を踏みつけ、周囲を見回し最後にルナへと視線を向ける。


「さて。これで終わりか? それとも、まだ、隠れてるつもりか?」


 開かれた扉の向こうへとそう投げかけた男に、落ち着いた声が返答する。


「隠れてたわけじゃないさ。様子を窺っていたんだよ」


 静かな足音と共に壊れた扉の向こうから灰色の短髪を僅かに揺らし、ブラストが姿を見せた。手に握られた黒いボックスを瞬時に剣へと変え、それを右手に構える。左手には小さな筒を取り出し、その筒に付いたボタンを押すと、筒の両端が伸び、片側から三叉に分かれた刃が飛び出す。


「悪いが、最初から全力で行かせてもらう」

「全力……か」


 意味深に呟くと、横たわるウィンスの体をブラストの方へと蹴り上げる。だが、ブラストはそんなウィンスを目にも止めず、走り出す。それに遅れて、扉の向こうからひび割れたゴーグルを額に付けたカシオが蒼い髪をなびかせ飛び出すと、宙に浮くウィンスを受け止め、ニカッと笑う。


「タイミングバッチリ!」

「カシオ!」

「おう!」


 ブラストの静かな声に、カシオはその手に淡い青と深い青の混ざった小さな筒を取り出し、その筒に付いたボタンを押してからブラストの方にそれを投げる。

 間合いを詰めたブラストは、左足を踏み込みその勢いを保ったまま腰を回転させ、左手に握った槍を突き出す。ブラストの一撃を後方に半歩体を動かしかわした男は、その槍の柄を掴むと、そのまま自分の方へと引っ張った。その瞬間にブラストの手が柄から放された為、男は思わぬ手応えの無さに僅かに後方に体が流れる。

 バランスが僅かに崩れた男に、右足を踏み込んだブラストは、捻った腰を更に回転させ右手に握った剣を外から内へと横一線に振り抜いた。だが、その刃は金属音を奏でると、僅かな火花を散らせ動きを止めた。ブラストの一撃を、奪い取った槍で受け止めたのだ。

 両者の刃が交わったままギシギシと軋む。


「これで、全力か? 笑わせるな」

「さぁ、どうだろうな」


 男の言葉に、不適な笑みを浮かべたブラストは、左腕を伸ばすとその手に槍を掴んだ。カシオの投げた筒、渦浪尖だった。ボタンを押された筒は、投げられると同時にその姿を槍へと変え、ブラストの元へと一直線に向かっていたのだ。

 左手に握った渦浪尖を一気に突き出す。無防備に開いた男の右脇腹へと。

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