表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/181

第151回 ロイバーンの最期

 上昇は続く。

 重力に引かれうな垂れる触手。もがくロイバーン。

 だが、一本の太い触手が、確りとノーリンと繋がっていた。

 ふら付きながらゆっくりと上昇を続けるノーリンは、ふと視線を落とす。もう地上のすれたディバスターの町並みも小さく見える。他の者達も戦いを終え、静まり返ったその町並み。上空から見れば分かる。皆がどれ程まで激しい戦いをしてきたのかと言う事が。どの様な勝敗が下ったのか分からないが、ノーリンは静かに笑う。この静けさで分かったのだ。自分の戦いが一番長引いたのだと。そして、それもこの一撃で終わると言う事も。

 上昇が止まり、ノーリンは静かに月を見た。この闇を照らす美しい月に、静かに息を吐く。


「今宵の月は美しきかな。我が人生を飾る良き月……」


 静かに呟くと、右拳を握った。自らの人生に終止符を打つ。そのつもりで、握り締めた拳をジッと見据える。様々な思い、記憶がよみがえる。楽しかった事よりも、辛かった思い出ばかりがよみがえってくるが、ここ最近の事は鮮明に思い返される。カインを助けた結果、こんな戦いの渦へ。今までお金の為だけに色々依頼を受けていたの自分が、今こうして誰かの為に戦っている事が妙に笑えた。

 一人月を見据え笑みを浮かべ、ノーリンは「ふぅ」と息を吐くと、視線をゆっくりと下ろす。視界に映るのは町並みと、暴れるロイバーンの姿。


「放せ! わ、私は、こんな所で死ぬべき存在ではない! 私は、世界を――」

「終わりだ。全てな」


 ノーリンは触手を引くと体を反転させ、ロイバーンへ向かって急降下する。右拳を突き出して。その拳がロイバーンの腹部へ減り込む。ノーリンによって引かれた勢いと、急降下にの勢いでその拳の威力は数十倍の威力になっていた。だが、ノーリンの急降下は止まらない。


「ぐおおっ! き、貴様……まさか……」


 風が二人の髪を激しくはためかす。触手は勢いに次々に裂け空中へと散る。


「悪いが、貴様にはこのまま、地上まで付き合ってもらう」


 ノーリンの鋭い目がロイバーンを睨み、更に加速。皮膚が裂け、血がほとばしる。すでに意識は朦朧としていた。本当は、もっと加速したい所だったが、もうその力すらなく、ただ重力に引かれ落ち行くだけだった。

 やがて、高熱が二人を包む。ロイバーンの体が燃え始め、ノーリンの拳にもその熱が伝わる。だが、それも一瞬だった。熱い、そう感じた瞬間、凄まじい衝撃が体を襲いノーリンの意識は飛んだ。

 衝撃は周囲一キロ圏内にわたって広がり、地面には大きな亀裂が走り、二人の落ちた場所を中心に大きくくぼんだ。崩れかけていた建物も、そうでない建物も、衝撃で全て吹き飛び瓦礫と化した。そこにはもう瓦礫以外の何も存在せず、まるで隕石が落ちた。そんな痕が残された。

 ただ巻き上がる大量の土煙。音たて崩れる瓦礫。吹き抜ける風。それが、両者の戦いに幕を下ろす様に一気に静まり返った。

 くぼんだ地面の中心に、放射線状に血が広がり、黒焦げ触手が数本落ちていた。ノーリンの姿はそこから少し離れた所に倒れていた。地面に突っ込んだ衝撃とともに体が上空へと跳ね上がったのだろう。瓦礫の上に横たわり、弱々しく胸が上下する。


「我は……生きて、いるのか……」


 ノーリンの問いに答えてくれる者は居ない。ただ、分かる。体に感じる痛みを。生かされたのだろう。あの町の人たちに、あの少女に。まだ、死ぬべきではないと。自然と涙がこぼれた。失われた意識の中で見た、少女の笑顔に、もう罪は償われたんだよと、言われた気がして。何も背負う必要は無いのだと言われた気がして。ただただ、ノーリンはその場で静かに涙を流した。



 ノーリンの倒れていた場所から大分離れた所にそれは転がっていた。白髪の髪が揺れ、皮膚はボロボロに裂けた頭だけ。だが、それは突如目を見開いた。


「くっくっくっ……」


 静かな笑い声をあげ、首から触手がニュルニュルと飛び出す。体を失っても尚、動き続けるロイバーンは、触手を使い地面を這う。


「くっ、くっくっ……バカ、な奴……です。か、らだが……朽ちて、も……脳が、生きて、いれば……わ、たしは……何度でも、よみ……がえれ――」

「そんな事させないからな」


 ロイバーンの言葉を遮る様に別の声が聞こえた。背後に感じる人の気配に、ロイバーンの額から汗が一筋零れた。全く気付いていなかった。自分がすでに囲まれていると言う事に。そして、ジリッジリッと土を踏みしめる音と、喉を鳴らす獣のうめき声。

 静けさがその場を支配した。ロイバーンの呼吸が乱れ、触手を動かしながらゆっくりと振り返る。そこに仁王立ちする少年は、ゆっくりと右手を顔の高さまで上げると、その黄色い瞳をロイバーンに向けた。悲しげで、哀れみのこもったその視線に、ロイバーンは叫ぶ。


「わ、たしは、し、なない! こ、こんな――」

「いや……お前は死ぬ。自分が犯した罪によって……罰するのは“オレ”じゃない」


 静かに右腕を振り下ろすと、風を切る様に無数の獣が駆け出す。狼だった。体に様々な実験の痕が残った狼が、一斉にロイバーンへと襲い掛かる。


「や、やめ――がっ!」


 一体の狼がその頭に噛み付き、他の狼もそれに続く様に牙を向ける。爪が皮膚を裂き、別の一体が触手を噛み切る。骨が砕ける音が周囲に響き、少年はその光景から目をそむける事無くその場に佇む。その隣りに静かな足音と共に一体の狼が背後から歩み寄った。他の狼とは違う美しい銀色の毛を揺らし、翡翠ひすい色に輝く瞳をゆっくりと上げる。


“がるるるっ”


 軽く喉を鳴らすと、少年はその狼の頭を右手で撫でた。手首に着いたブレスレットを揺らしながら。


「気にするなよ。お前達は被害者なんだから。悪いのは、お前達を利用しようとした連中だ」


 少年が微笑むと、その笑みに狼は何度か頭を上下に振った後、遠吠えを上げた。他の狼達も、その遠吠えに動きを止め、次々に遠吠えを上げ出す。重なりあう遠吠えに、少年は小さく吐息を漏らすと、


「お礼はいいって。“オレ”は、お前等にお礼を言われる程の役に立ってないからさ。まぁ、気持ちは嬉しいけどな」


 笑いながら、もう一度狼の頭を撫でると、ゆっくりとその手を離す。


「さぁ、もう行けよ。お前達だって生きていく権利があるんだ。この世界に生きる誰にだって、平等に……」


 静かに目を伏せると、狼は静かにもう一度頭を下げると、群れの中心へと歩みを進め、“がうっ”と小さく鳴くと、森へ向かって駆け出す。それに続く様に、別の狼が次々と駆け出し、少年と無残なロイバーンの肉片だけがその場に残された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ