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第15回 凸凹コンビの旅路

 深い森の中に足音が響く。草を踏みしめる重々しい足音が。静けさ漂う森の中に。

 木々の隙間から射し込む日の光が、茂みを歩く人物の顔を照らす。右頬に薄ら煌く三ツ星の刺青。体格は大きく、鬱蒼と生い茂る草が、膝ほどまでしかない。普通の人ならば歩くのも難なこの草の中を、悠々と歩めるのはこの男の体が大きいからだと思われる。名をノーリンと言う男は、右肩に小柄な少年を担いでいる。わけ合って森の奥地の村から追い出されたのだ。

 荷物と金髪の少年カインを担ぎ、悠々とした様子で歩くノーリンには、未だ疲れの様なモノは見えず、ただ眠気だけが漂っていた。遅くまで起きていたため寝不足なのだ。大きな欠伸をしながら前へ進むノーリンは、時折止まっては軽く深呼吸を繰り返す。肩に担いだカインは未だ意識を失ったままで、少し頬が赤く腫れている。頬が腫れているのにも色々と訳があるのだ。


「くっそぉ! こんな事なら、殴って気絶なんてさせんじゃなかった」


 独り言をぼやくノーリンは、眠そうに大きな欠伸をする。怪我をしているカインが一人旅に行こうとするのを、止めるため一発殴って気絶させたのだ。ついでに、カインの頬が腫れているのは、ノーリンが思いっきり殴ったから。だが、気絶したカインを小屋に連れ込もうとしたその時、村人達に囲まれ、「もう、お前など必要ない! 村を出てけ」と、告げられた。人の事を利用するだけ利用して、危険だと思ったらすぐに切り捨てる。全く気に食わん。そう思いながらノーリンは歩き続ける。

 暫くくらむらを歩いた後、ようやく道へと出た。茶色く真っ直ぐ伸びた一本の坂道。少々露出した岩肌が所々鋭くなっており、足場も悪そうだった。足元には都合よく焚き火の跡が残っており、誰かがここで休んだ形跡がある。


「焚き火の跡か……。カインの仲間がここで休んだのか?」

「んんっ? ――ッ!」


 目を覚ましたカインは、腫れ上がった頬の痛みに表情を歪めた。そして、自分がノーリンの肩に担がれているのに気付き、慌てて地に下りる。深々頭を下げ、「すいません!」と、謝るカインはふと思い出す。意識を失う直前の事を。


「アアーッ! イッ……」

「大声出すと、頬の腫れが痛むぞ」

「これって、ノーリンさんが……」

「ワシかて、やりたくてやったわけじゃねぇ。お前があんまり言う事聞かんから、悪いんじゃ!」

「だからって、殴る事無いじゃないですか! こんなに腫れて……」


 頬を擦りながらそう言うカインは涙目になりながら、ノーリンを見つめる。カインを見下ろすノーリンは、呆れた様にため息を吐き、鞄から水の入った筒を取り出す。そして、カインの腫れた頬に零す。冷たい水が腫れた頬に触れ、ズキッと痛む。表情を引き攣らせ、奥歯を噛み締めるカインは、暫し痛みに耐えた。それから、暫く腫れが取れるまで休憩を取る。濡れたタオルで頬を押さえるカインは、珍しく怒っている様で、ノーリンの事を睨んでいた。


「そろそろ機嫌直せって。そう怒る事でもないんじゃからよ」

「……」

「オイ、聞いてんのか?」

「……」


 子供の様にすねるカインは一言も話さず、ジッとノーリンを睨み続ける。流石に、ノーリンもこれにはお手上げといった感じで、ため息を漏らす。険悪なムード漂う中、ノーリンはふところから葉に包まれた握り飯を二つ取り出し、一つをカインに渡す。


「ほれ、腹減ってるんだろ? まぁ、これはただでくれてやる」

「要りません……。こんなに、頬が腫れてたんじゃ食べられませんから」

「お前な……」


 ガックリとうな垂れるノーリンは、静かに握り飯を食らう。静かに時は過ぎ、道の真ん中で昼寝をするノーリンのいびきだけがこだまする。迷惑そうな表情を浮かべるカインは、耳を塞ぎながらノーリンを見据える。相当熟睡している様で、カインが小石を当てても目を覚まさなかった。


「こんな所で、熟睡できるなんて……」


 軽く首を傾げ感心するカインは、一つ残された握り飯に目をやる。先程からずっとお腹が音を起てており、腹ペコのカインはゆっくりと手を伸ばす。だが、握り飯を握る手前で手をとめる。また、150ギガ払えと言われるんじゃないかと、ノーリンの方に目をやるが、起きては無い様だ。

 それを確認し、安心して握り飯を取りかぶりつく。意外と美味しい握り飯を素早く食べ終え、何事も無かった様に休憩するカインは、頬の腫れを聊か気にしつつ木々の葉の合間から薄らと見える空を見上げる。

 『今、フォン達はどこら辺を歩いてるんだろう? 早く合流したいな』と、思っていたカインは、ふと眠っているノーリンに目をやる。そして、『あれ? 何で僕ノーリンさんを待ってるんだろう?』と、疑問に思う。腕を組み首を傾げて、考え込むカイン。


「ふぁ〜っ。よう寝た……。んっ? どうかしたんかぁ?」


 寝起きのノーリンが、考え込むカインに問う。すると、カインは驚いた様に「ウワッ!」と、声を上げ危うく坂道を転げ落ちそうになる。訝しげにカインを見据えるノーリンは、立ち上がり大きく伸びをすると、「行くか」と、言い荷物を持ち歩き出す。ノーリンが何処へ向うかなど、カインには分からないが取り合えず、自分の荷物を持ちノーリンの後に続いた。


「それで、お前のお仲間は、一体何処へ向ってるんだ?」


 突然、ノーリンがカインに問いかける。足元を見ながら歩み進めるカインは、静かに質問に答えた。


「僕達は、グラスター王国の大都市レイストビルに向ってるんです。ここの国王に何か情報が無いか教えてもらおうと思いまして」

「ふ〜ん。レイストビルか……。久し振りじゃねぇか」

「ノーリンさんも一緒に来るんですか?」


 少し不満そうにそう言うカインは、前を歩くノーリンの背中を真っ直ぐ見据える。大笑いするノーリンは、軽い口調で「当たり前だろ」と、言い、カインは少し迷惑そうな口調で「そうですか……」と、元気なく答える。何と無くだが、カインはノーリンが苦手だった。雰囲気と言うか、今まで関ってきた事の無い感じの性格だから。

 そんなカインの事など気にせずノーリンは足を進める。黙り込むカインを気にしてか、ノーリンが場を盛り上げようと、質問をする。


「そういえば、お前の仲間は確か、皆種族がちげぇーんだろ? 一体どういう間柄なんだ?」

「う〜ん。そうですね。烈鬼族のワノールさんって方がいるんですが、僕は幼い頃にその人に拾われたそうです」

「そうですって、曖昧だがお前おぼえてねぇのか?」

「はい。幼い頃の記憶が無くて、取り合えず、気付いた時には黒き十字架と言う軍に所属してました。そこの上司がワノールさんだったって事もあるんですけど」


 笑顔でそう言うカインに対し、複雑そうな表情をするノーリン。カインにノーリンの表情は分からず、「凄く責任感の強い人なんです」と、明るく言うと、ノーリンは怒った様に言う。


「幼い子供を軍なんかに所属させる様な奴に責任感などあるか! 人の命を何だと思ってるんだ!」

「違うんですよ。ワノールさんは軍に入団するのは反対だったんです。僕も当時8歳でしたし、そんな幼い子供に魔獣と戦えなんてワノールさんは言いませんよ。ただ、黒き十字架と言う軍は、元々アルバー王国、国王を守るための軍だったらしく、国王の命令で仕方なくといった感じらしいんです」


 笑顔を見せるカインだが、何処か寂しそうな瞳をしていた。黒き十字架のメンバーは今元気だろうかと、思うカインに、ノーリンが思い出した様に言う。


「お前達はあの事件の生き残りか?」

「あの事件? もしかして、都市崩壊の事ですか?」

「都市崩壊だぁ? 何だ、知らないのか? 国王殺害及び都市壊滅の事」

「国王殺害! そんな、それじゃあ、お城を守る皆は……」

「生き残った奴など居なかったと俺は訊く。何でも城の壁には鋭い刃物で切った様な後が沢山残ってたらしい」


 その言葉にカインは俯く。嘗ての仲間は皆何者かに殺された。そんな事信じたくなかった。急に黙り込んだカインに、ノーリンも少し暗い声で言う。


「全く、許せねぇ話だ。人の命を何だと思ってやがるんだ」

「僕も……許せません。沢山の人の命を奪うなんて……」


 カインは静かにそう言い、怒りを瞳の奥に飲み込むかの様に目を閉じた。

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