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第135回 飛行艇に残された女達

『ザーッ……こっちは、魔獣人との戦闘は終わり、今から戻る』


 アルバー王国、旧都市ディバスターより程よく離れた位置に停泊する飛行艇の操縦室にブラストからの通信が入った。


「分かりました。今、ゲートを開きます」


 その通信を受けたのはミーファ。そして、機械を操作するのは、ワノールの妻ウール。ブラストに教えてもらった通りにボタンを押し、この飛行艇とブラストのいるフォースト王国首都ブルドライとの転移ゲートを開く。


「ミーファちゃん。ゲート開いたわ」

「はい。ブラストさん。ゲート開きました!」

『ザーッ……分かった。とりあえず、カシオと一緒に今から向う』

「はい。それから、フレイストさんが先ほど戻って来たんですが、また急に魔獣達の数が増え始めて……グラスターの方へと戻られました」


 ミーファが報告すると、通信機の向うから『そうか』と短い返答が返って来た。

 ブラストもフレイストと同じ立場に立っていたからだ。

 魔獣人との戦いは終わったが、魔獣と人では圧倒的に魔獣の方に分があった。同じ数の兵力でも、その戦力は互角とは行かず、フォースト王国の攻防も徐々に魔獣達に押され始めていた。優秀な部下達が、今は何とか抑えているが、それでも突破されるのは時間の問題だろう。

 通信機からブラストの声が途絶え、数分が過ぎた。ミーファも分かっていた。ブラストが今どう言う立場にいるのかを。本来、ミーファも自分の国で、民たちを導かなければいけない立場の為、ブラストの気持ちが痛いほど分かる。


『今、そっちに――』

「ブラストさんは、そちらに残って指揮を執ってください」


 ミーファはブラストの言葉を遮り、そう告げた。それは、何も出来ない自分の願いでもあった。

 その言葉にブラストも黙り込み、その沈黙を破ったのは、今しがた操縦室へと入ってきたセフィーだった。


「話は聞いてたわ。一国の王なら、まず自国を守る事に専念した方がいいわ」

「わ、私も、そう思います! こっちは、大丈夫ですから!」


 力強いミーファの言葉に、ブラストは『すまない』と、小さく謝罪し、


『こっちも、出来るだけ早く片付けてそっちに向う』

「そう。頑張りなさいよ。って、それより、ルナがいないみたいだけど?」

「エッ! ルナが!」


 ミーファがセフィーの方へと振り返ると、まだ繋がったままの通信機の向うからブラストの声が聞こえた。


『大丈夫なのか?』

「だ、大丈夫だと……」

(もしかして……ルナ……)


 ミーファの脳裏に嫌な予感が過る。そして、セフィーの方へと歩き出すと、


「す、すいません。後お願いします!」

「えっ? 後って? あんた、何処行くつもりよ?」

「る、ルナを――」

『城へ向うなら、飛行艇で向った方が早い。それに、外は危険だ』


 ブラストの言葉に、ウールが首を傾げると、


「でも、操縦できる人が……」

『大丈夫だ。自動操縦で城までいける。それに、飛行艇も修理してあるから、城まで持つはずだ』

「はずじゃ、困るんだけど……」


 セフィーが苦笑すると、ミーファは真剣な眼差しをモニターに向け、


「分かりました! 起動方法を教えてください!」

「おいおい。本気なの? ミーファ。また、墜落するかもしれないのよ?」

『俺は、そんなに信用されて無いのか?』


 通信機の向うで苦笑するブラスト。

 ウールは困った表情をミーファに向け、


「ミーファちゃん。気持ちは分かるけど、ルナちゃんがお城の方に行ったって言う根拠は無いんだから、焦らなくてもいいんじゃない?」

「いいえ! ルナは、間違いなくフォンの所に――」

「何で、そう言えるの? それも、時見族の時見の力?」


 訝しげにそう問うセフィーに対し、静かに首を振ると、


「違います」

「即答ね。それで、どうして、そんな事言えるのよ?」


 当然のセフィーの問いに、ミーファは体をセフィーの方に向け、


「私の直感です!」

「……直感って」

「そこまで言うなら、信じましょうよ」

「分かったわよ。それじゃあ……」

『起動方法を教えるぞ?』


 通信機からブラストが飛行船の起動方法を説明する。その手順に沿って、スイッチを入れた。やがて、飛行艇が轟音を広げ、揺れ始める。


『最後に、手元にあるレバーをゆっくりあげれば、浮上する。後は、自動操縦で城までいける。それじゃあ、俺もそろそろ行く。なるべく早く、そっちに行く様にする。気をつけてな』

「あっ! は、はい。ブラストさんもお気をつけて!」


 ミーファがモニター越しに頭を下げる。通信は切れ、もうブラストの声は聞こえない。揺れる飛行艇が暫くすると安定し、ゆっくりと動きだした。ホッと息を吐いたウールは、ミーファを見つめニコッと笑い。セフィーは小さくため息を吐いた。

 本当に大丈夫なのか、と不安はあったが、ミーファは窓の外を見据え、


「今、行くからね! ルナ」

「……何処に行くんですか?」

「そりゃ、ルナを――」


 不意に聞こえた声に、そこまで返答して言葉が止まる。


「エッ?」

「えっ!」

「えぇぇぇぇぇっ!」


 ウール、セフィー、ミーファと声を上げ、その声のした方へと顔を向けると、開かれたドアの向うにルナの姿があった。丁度、今、ここに辿り着いたのだろう。状況がつかめないと言う表情で、三人の顔を見回し、「どうかしましたか?」と、首を傾げた。

 声にならない言葉を発するミーファは、震えた手でルナを指差す。ウールも何が何だか変わらないと言う驚いた表情を向け、セフィーですら驚き言葉を失っていた。三人の様子を訝しげに思いながらも、ルナは部屋へと足を踏み入れると、


「先ほどから、激しい揺れと騒音が聞こえますが、飛行艇が動いてるみたいですね? 一体、何処へ向ってるんですか?」


 と、問いかける。奇声の様な声を上げ、ミーファがルナの肩を掴み体を前後に揺らす。


「み、みみ、ミーファさん! ど、ど――」


 大きな胸が激しく揺れ、長い髪が乱れ動く。流石のルナも両手でミーファを頬をパチンと叩き真っ直ぐに目を見つめ、


「な、なんですか? いきなり? しっかりしてください」


 と、落ち着いた声で言った。その言葉にようやく少し落ち着いたのか、声を僅かに震わせながら、


「る、ルナが、い、いなくなったって、聞いたから……て、てっきり、フォンの所に行ったんだと……」

「はい? 誰ですか? そんな事言ったのは?」


 やや怒りのこもった声に、セフィーは慌てて口を開く。


「い、いや、だって、部屋を覗いた時、いなかったじゃないか? それに、トイレも探したけど……」


 セフィーの言葉に「あなたですか……」と、少々呆れた様なため息を漏らすと、


「私は、甲板で空を見てたんです。それに、色々あったので、心を静めたかったんです。私が部屋にいなかったからって、何でフォンさんの所に行ったって事になるんですか?」

「い、いや、それは、ミーファが」


 セフィーとウールがジッとミーファの方へ視線を向けると、ルナも呆れ気味で視線を向ける。周囲の視線にミーファはその身を小さくさせ、「はうぅー」と、声をあげた。小さく吐息を漏らしたルナは、口元に僅かに笑みを浮かべ、


「あなたらしいですね。昔と変わらず、少し羨ましいですよ」

「……ルナって、笑うんだね?」

「そうですね。私も、笑った所は初めてみました」


 セフィーとウールがマジマジとルナの顔を見つめる。すると、ルナはいつもの無表情の顔に表情を戻し、少しだけ頬を赤く染め、


「わ、私だって、に、人間ですから」

「あはは。アレが本来のルナだよねー。ここ数年は色々あって、感情殺してたけど……良かった。昔みたいに戻って」

「……でも、まだ私の死の運命は――」


 ルナが表情を曇らせると、セフィーが笑みを浮かべ、


「大丈夫大丈夫。あんたの彼氏が、守ってくれるって」

「か、彼氏って! な、何言ってるんですか!」


 顔を真っ赤にするルナがセフィーの方へと顔を向け、


「だ、第一、フォンさんとはまだ――」


 そこまで言って、ハッと口を塞ぐ。ニヤニヤと笑みを浮かべるセフィーに、クスクスとミーファとウールの二人が笑う。

 自分の失態に更に顔を真っ赤にするルナに、セフィーはゆっくりと歩み寄り、


「私は、誰も、フォンがとは言ってないわよ? ルナって、意外と分かりやすいのね」

「せ、セフィーさん! こ、こんな誘導尋問!」


 珍しくうろたえるルナの姿に、セフィーもウールも、ルナが何処にでもいる女の子なのだと、感じ安心した。

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