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第126回 連携

 南の大陸ニルフラント王国大都市ウォークス。

 中央広場に佇む初代女王クリスの像が見守る中、その正面で爆音が響き、中央道を挟む巨大な建造物が火を噴き崩れ落ちる。それと同時に、建造物の中から二つの影が飛び出す。


「くっ! 聞いてないって! あんな化物相手にするなんてよ!」


 長い黒髪を揺らす凛々しい顔の女性カルールが、両手にもったライフルの銃口を崩れる建造物の方へと向ける。その先に見えるのは、紅蓮の髪を揺らす不適な笑みを浮かべたガゼル。片手に握った剣が炎を纏い、鋭い目がカルールを真っ直ぐに見据える。

 一瞬躊躇するが、すぐさまカルールは引き金を引く。咆哮と共に衝撃が両肩を襲い、銃口から弾丸が発射される。それから僅かに遅れガゼルの肩が大きく後方へと弾かれた。被弾したのだ。血が霧状に舞い、暫しガゼルの動きが止まる。が、すぐに不適な笑みを浮かべガゼルが動き出す。

 衝撃で後方へと転げるカルールは、体勢を整えライフルを構える。

 遅れて、白髪の青年ケイスがカルールの前へと出る。ひび割れた眼鏡越しに映る金色の瞳が真っ直ぐにガゼルを見据え、両手に持つ剣を構えた。


「フハハハハッ! もっと俺を楽しませろよ!」

「ケイス! タイプAだ!」

「了承した」


 ケイスは静かにそう述べると、両手に握った剣を素早く逆手に持ち替えると、静かに腰を屈め前傾姿勢をとった。その後方では、カルールが何処から取り出したのか、大型のランチャーを両肩に乗せ狙いを定める。


「ケイス。お前が直撃するんじゃねぇぞ!」

「……それは、先輩の腕次第なんじゃ?」

「うるせぇ! お前に当てるぞ!」

「……了承した。出来る限り、善戦する」


 カルールに小声で返答したケイスは、向かい来るガゼルへと視線を向け、静かに唇を動かす。


「我、神に代わり裁きを下す」

「うらぁぁぁぁっ!」


 ガゼルが叫び声と同時に右手に持った剣を振り下ろす。ケイスは振り下ろされた刃を見据え、ギリギリの所で左手に握った剣でそれを受け止める。衝撃と金属音が響き、地面が僅かに窪んだ。


「くっ!」

「吹っ飛べや!」


 ケイスが僅かに漏らした声を消し去る様にカルールが叫び、肩に担いだランチャーの引き金を引いた。けたたましい破裂音と共に発射された砲弾は僅かにケイスの両肩の上を通り過ぎる。そして、ガゼルの両肩へと被弾すると、破裂音と凄まじい衝撃を広げた。

 間近で衝撃を受けたケイスは後方へと吹き飛ぶが、すぐに体勢を立て直し土煙の方へと視線を向ける。一方、砲弾を撃った衝撃で仰向けに倒れるカルールは体を静かに起し、渋い表情を向けた。


「くははははっ……」


 土煙の中からガゼルの笑い声が響き、カルールもケイスもすぐさま臨戦態勢に入る。だが、次の瞬間、土煙の中から轟々しく炎が噴出し、カルールとケイスの間を抜け、後方に佇む建造物が一瞬で炎上する。


「もっと……もっと俺を楽しませろよ!」


 叫び声と同時に、土煙が吹き飛び、高温の炎に包まれたガゼルが姿を現す。両肩には大量の出血の痕があるが、何故だが傷は付いていない。怪訝に思うカルールだが、すぐにケイスに向って指示を送る。


「ケイス! タイプC!」

「了承した!」


 静かにそう述べたケイスは、両手に握った剣を回し持ち直すと、それを胸の前にクロスさせて構える。


「今度は、どんな風にして俺を楽しませてくれるんだ?」

「テメェを、楽しませるつもりなんて、毛頭ねぇよ! ケイス!」

「…………」


 無言で僅かに頷いたケイスは、胸の前で構えていた二本の剣を、突如地面に突き刺す。それと同時に、カルールは担いでいたランチャーをケイスの頭上へと放る。すると、機械音を響かせ、ランチャーが大剣へと形を変えた。

 その大剣は刃だけで二メートルもあり、柄も合わせると二メートル三十センチはあった。その刃幅も五十~六十センチ程あり、その平には美しい十字架が刻み込まれている。

 その大剣が切っ先を真下へ向け落下し、土煙と爆音を響かせた。


「……何のつもりだ? 仲間割れか?」

「だと、思うか? ウチ等を甘く見んなよ。化物」


 カルールが口元に笑みを浮かべると、土煙からケイスが飛び出す。手にはあの大剣が二本握られ、重さなど無いかの様に素早い動きでガゼルとの間合いを詰める。


「そんな剣で、俺に傷が付けられると思ってるのか?」

「傷? 否。与えるのは神の裁き。汝の刑は死刑のみ!」


 ガゼルにそう返答したケイスは、右手に持った大剣を外から内へ入れる様に振り抜く。その軌道を見据えるガゼルは、容易くかわす事が出来る一撃を、わざわざ剣で受けた。それは、ガゼルが容易に防げると判断したからだった。

 だが、瞬時にそれが間違いだったと知る。

 二人の刃が交錯し、衝撃が襲う。ケイスの放った一撃に、剣ごと右腕が大きく弾かれた。その勢いはそれだけに止まらず、ガゼルの上半身も大きく仰け反らせる。


「くっ!」


 僅かにガゼルの表情が歪み、ケイスの更に左足を踏み込み、右手に持った剣を引く。と、同時に、既に振り被っていた左手の剣を、無防備になったガゼルの脇腹へと振り抜いた。

 空を裂く音が聞こえ、突風が土煙を巻き上げる。素早く視線を上に向けたケイス。その先には間一髪で空中へと跳んだガゼルの姿があった。そのガゼルと一瞬目が合う。だが、ケイスは追撃しようとせず、大剣を構えたままジッとガゼルを見据える。

 ケイスの動きを警戒するガゼルだが、すぐに異変に気付く。


「あの女は何処だ!」


 ガゼルがそう叫んだ時だった。背後から人の気配を感じ、その耳に機械音が僅かに届く。


「人間舐めてっと、足元すくわれんぞ!」


 カルールは怒鳴ると同時に、両手で持った大型のガトリング砲の銃口をガゼルへと向け、引き金を引いた。

 単発の乾いた発砲音が幾重にも重なって響き、火花と共に大量の薬きょうが飛び散る。撃ち出された弾丸は次々とガゼルに命中。その度に体は弾かれ、鮮血が舞う。

 数分間続いた銃撃音が弾切れを伝える様に、チッ、チッ、と乾いた音を奏でた。宙を舞っていたガゼルの体もようやく地上へと落ち、僅かながら土煙を舞い上げる。


「ハァ…ハァ……ッ! 腕が、ハァ…ハァ……」


 呼吸を乱すカルールは、構えたガトリング砲を地面へと落とした。と、同時にケイスが叫ぶ。


「先輩! 来る!」


 その声と同時に、周囲を炎が包む。

 そして、土煙の中から、ゆっくりとガゼルが姿を見せる。その姿は、先程までと明らかに違っていた。真っ赤な目が二人を見据え、長く伸びた赤い髪が揺れる。膨れ上がった両腕、その指先には鋭利な爪が伸び、額からは二本の角が突き出ている。

 完全な魔獣化により、湧き出る威圧感に、カルールもケイスも自然と後退する。


「やべぇな……。これは、ちょっと……」


 カルールが苦笑し、そう呟く。それに対し、ケイスは胸の前で十字を切り祈る。


「おいおい……こんな時も神頼みか?」

「信じる者は救われるのです」

「信じるのは、己の力のみだろ。行くぞ! ケイス」


 カルールが叫び、何処からとも無く二丁のライフルを取り出し、銃口を向ける。それに合わせる様にケイスも大剣を構え、炎の中に包まれたガゼルを見据える。

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