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第125回 兄弟喧嘩

 凄まじい光りが周囲を包み、遅れて鼓膜を揺らす轟音。

 それはほんの一瞬だったが、カシオ達にはそれが異様に長い時間に感じた。

 光がおさまってもまだ瞼の裏に眩しさが残り、音が消えた後も耳鳴りだけが残される。

 激しい目まいと吐き気を伴いながらも、ようやく瞼を開いたカシオは、まだはっきりとしない目で周囲を見回す。ぼやけた視界が徐々にはっきりとする。

 そこには、真っ黒に焦げた塊だけが残っていた。地面も黒焦げ黒煙が薄らと漂う。強烈な異臭が黒煙とともに漂い、周囲に広がる。

 右手の甲で鼻を押さえながら、口で呼吸するカシオは周囲をもう一度見回す。何事も無かった様に周囲は静けさに包まれる。両肩を大きく揺らし、痛む体にムチを打ちゆっくりと立ち上がる。銀色だった瞳も既に灰色に戻り、体の節々が悲鳴を上げる様に激痛が走った。


「くっ……」


 痛みに表情を歪め、もう一度膝を落とすと、後方で瓦礫の崩れる音が聞こえた。振り返る事なくカシオは、小さく息を吐くと、


「うぅっ……。終わりますたか?」

「おい……。終わりましたかじゃなくて、少しは俺の心配したらどうだ?」


 アリアの声に遅れ、掠れた声でグライブがそう呟き、軽い咳を二・三繰り返す。落雷の衝撃で舞った砕石からアリアを庇った為、顔も衣服も土埃で汚れていた。その土埃を左手で払いながら、グライブも周囲を見回す。

 土煙と黒煙でよく見えないが、巨大な塊が倒れているのは分かった。黒焦げてて原形は分からないが、間違いなくクローゼルの本体だろう。

 グライブもそれを目視し、ようやく安心した様に息を吐くと、その場にゆっくりと座り込んだ。


「ったく……コイツを殺しに来たはずなのに、まさか化物の相手をするとは……」

「全くだ……。魔獣人って言うのが、まさかこんなでっかくなれるとは、思ってもなかったよ」


 カシオもその場に腰を下ろし、笑顔でそう答える。が、その額に素早く銃口が向けられ、笑顔が一瞬で引き攣る。


「ぐ、グライブ? こ、これは、何の冗談かな?」

「言ったはずだろ? 俺はお前を殺しに来たと」

「いやいや。さっきまで協力した仲じゃないか。そう言う事いうのは――」


 引き攣るカシオ。引き金に掛かった指。交わる二人の視線。

 張り詰めた空気の中、グライブの人差し指に力がこもる。だが、それが引かれる前に、アリアが素早くライフルを奪い取り、「とぅ」と言う掛け声と共にグライブの額にチョップを入れる。


「イテッ! 何しやがんだ! テメェ!」

「もう一発!」


 その掛け声でもう一発グライブの額をチョップする。見た目は痛そうに見えないそのチョップだが、地味に痛いらしく、「イテッ」とグライブが声を上げる。

 誇らしげに笑うアリアは、その反応が面白かったのか「ていっ」と無意味にもう一度チョップした。が、流石に今回は受け止められる。


「ありゃ?」


 妙な声を上げるアリアを睨むグライブだが、言葉を発する前に強引にグライブの手を振り払い、鋭いチョップが額を捕らえた。今までの数倍以上の痛みにその場で悶絶するグライブ。その姿に苦笑するカシオに静かにアリアの顔が向く。

 ニコニコと笑みを浮かべるアリアと視線がぶつかる。嫌な予感がすると同時に、アリアが素早く銃口をカシオの方へ向け、引き金を引いた。

 轟音が轟き、衝撃がカシオの顔の横を通り過ぎ、背後で地面が砕け砕石が飛ぶ。耳の奥でキーンと音が響き、頬が僅かに熱かった。雷撃が頬を僅かに掠ったのだろう。その場で動く事の出来ないカシオに対し、アリアは静かに微笑むと、


「もう、喧嘩すちゃダメですよ?」

「いや……お、俺は元から喧嘩なんて――」

「エッ? なんですか? 文句ですか?」


 更に銃口をカシオの方へ向け、満面の笑みを浮かべるアリアに、カシオは息を呑み激しく首を横に振った。その行動に「そっ」と小さく言うと、アリアはライフルを地面へと捨て、小さく息を吐く。


「全く、兄弟喧嘩で殺す合うなんて、悲す過ぎますよ?」

「俺は今、全く関係の無い人に殺されかけたけど……」

「はい? 何か言いますたか?」


 微笑むアリアに苦笑しながら、首を左右に振る。

 そんな穏やかな光景の中、瓦礫が崩れる音が周囲に響く。全て一瞬で静寂に変え、乾いた音が波紋の様に広がる。緊迫した空気が周囲を包み込み、足を引き摺る様な足音が近付く。瓦礫が崩れる音がもう一度響き、掠れた声が三人の耳に届いた。


「オレ……死なない……オレ……不死身……」


 もう戦う余力など残ってない三人は、僅かに表情を顰め振り返る。手元にあるのは折れた剣とグライブのライフルのみ。あれ程の雷撃を受けても死なない相手に、どう立ち向かえばいいのか、と三人の脳裏に過る。

 が、振り返った三人の視界に映ったのは、黒焦げたクローゼルとその胸から突き出した一本の刃だった。

 何が起こったのか分からないが、クローゼルは口から血が吹き出し、膝を地に落とす。顎が震え口から溢れた血が頬を伝い、地面へと落ちる。そのクローゼルの体が崩れ落ち、背後から赤紫色の髪を揺らした青年が姿を見せる。

 その青年の顔を見るや否や、アリアは渋い表情を浮かべ、


「将軍様が、なんでこんな所にいるんですか」


 と、やや不機嫌そうにそう呟く。

 その表情に苦笑する将軍と呼ばれた青年は、手に持った大型ナイフの血を拭い、


「何だか、凄く嫌そうですね。あと、将軍じゃなくツヴァルって名前で呼んでほしいんですが?」

「分かってるだろ? 私が、お前の事嫌いなの?」

「はは……そ、そうですね。僕に助けられたのはシャクですか?」


 問いかける様にそう言うツヴァルに対し、更に不機嫌そうな表情を見せるアリア。

 険悪な空気にも関わらず、その空気をあえて読まず、


「無言かよ!」


 と、カシオが一人声を上げる。その瞬間に、蹲っていたグライブが、「空気読めよ……」と小声で呟く。アリアも空気を読まないカシオに、呆れた様にため息を吐き、


「カスオさん……少しは空気を呼んでください……」

「いや、カシオだから。お前こそ、いい加減名前覚えろよ」


 じと目でアリアを見据えるカシオに対し、ツヴァルは苦笑しながら、


「諦めた方がいいですよ。その人は“し”を“す”って発音する妙な癖が――」

「癖じゃねぇから! お前にんな事言われたくねぇよ!」

「暴言……なんか、凄い印象変わった……」


 先ほどまでとは明らかに口調の違うアリアに、カシオも呆気に取られる。そこまで、ツヴァルの事が嫌いの様だ。

 ツヴァルに背を向け腕を組むアリアに、カシオも小さく息を吐くと、アリアがツヴァルの方へと体を向ける。


「それで、あんたが何しにここに来たんだよ」

「いや、あんまり遅いんで、見に来たんですよ?」

「はぁ? 何で、あんたに心配されなきゃいけないんだよ!」

「実際、危ない所を助けてもらったわけだけどな」


 カシオが二人の間に入る様にそう呟くと、アリアの鋭い眼差しがカシオの方へ向けられ、


「カスオさんは、黙ってて貰えないっすか?」


 と、やけに低音の声で言われた。あまりの迫力に圧倒されるカシオはグライブの隣りに腰を下ろすと、静かにアリアとツヴァルの二人を見比べ、


「女って怖いな」

「そうだな……。と、言うかお前空気読めよ……」


 呆れ顔のグライブに対し、僅かに笑うカシオは、


「いや。場を和ませようと、あえて空気を読まなかったんだが……あはは。失敗だったな」

「そりゃ、失敗するだろ。まぁ、これに懲りたらちゃんと空気を読むんだな」

「以後気をつけるさ」


 小さくため息を吐きながらも、少しだけ嬉しそうにカシオは微笑んだ。

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