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第12回 信頼してるからこそ

 森の奥地の村では、村人達が騒いでいた。既にざわめいていた木々は静まり返り、風も穏やかになりつつあるのに。村人達の騒ぎに、眠そうにノーリンが小屋から出て来る。先程ようやく眠りに就いたと言うのに、まさかこんなに朝早くから起こされると思っても見なかったノーリンは、大きな欠伸をする。そんなノーリンの横に立つカインは、騒ぎの理由を説明した。


「そんな遠吠え如きで、騒いでんのか? 馬鹿馬鹿しい」

「結構のん気ですね」

「この村は森ん中にあるんだ。魔獣の遠吠えや獣の遠吠えなんて、聞えて当たり前なんだよ。ふぁ〜っ。そんじゃま、ワシはもう一眠りするとするかな」


 欠伸をして小屋へと戻っていくノーリンは、すぐにベッドに倒れこんだ。そんなノーリンの姿を見ながらカインは大きなため息を吐いた。何か胸騒ぎがするが、それが何なのか分からず、カインは静かに小屋へと戻った。騒ぎはすぐには収まらず、霧が消える様に徐々に薄れていった。



 静まり返った森の中、一本続く山道を歩むワノールとウィンス。その少し後ろには俯いたままのルナが続く。何も言わずただ黙り込んだまま。ワノールとウィンスもルナが言い出すまで何も言わずに居る。あの後、分かった事は、あの影がフォンだったと言う事だけで、あの後フォンがどうなったのか分からない。ただ、今は前に進むだけ。

 暫く黙って歩いていたが、ウィンスはふと言葉を漏らす。


「俺達、このままでいいのかな?」

「どう言う事だ?」

「ティルが抜けて、カインが魔獣に連れてかれて、フォンまで消えたんだぞ。このまま、旅を続ける意味があるのかな?」

「お前は旅を止めたいのか?」


 ワノールが鋭い声で問う。別にウィンスだって、旅が止めたいからそんな事を言った訳じゃない。ただ、フォンやカインの事が心配だった。だから、ウィンスはそう言ったのだ。ちゃんと、思ったとおりに理由を説明したウィンスだが、


「そうだな。だが、俺達はやる事があるだろ?」

「そうだけどさ! そもそも、この旅の理由って、フォンやティルがミーファを探すのが目的だろ? フォンもティルも今この場に居ないんだぞ! 俺等だけで行ってどうするんだ!」

「俺はミーファと言う娘の顔を知っている。ルナもそいつの事を知っている。別にティルが居なかろうが、フォンが居なかろうが関係ないだろう?」

「それじゃあ、この先もこうして仲間を見捨てて行くつもりかよ!」


 ウィンスはワノールの襟首を掴む。だが、ワノールは態度を変えず、ウィンスを睨み付けた。鋭く突き刺さる様なワノールの眼差しに、ウィンスは少し引き気味になりながらも力強く睨み返す。だが、ワノールがウィンスの手を払い歩き出す。そんなワノールの背中を睨みウィンスは叫ぶ。


「オイ! 俺を無視するつもりか!」

「黙れ。旅を止めたきゃここで止めろ。元々、俺はお前の様なガキを連れて行くのには反対だったんだ。ガキはさっさと自分の村に戻って縮こまってろ」

「ふざけんな! 俺だって、お前と旅がしたくてついて来た訳じゃない! ティルやフォンそれにカイン。皆が居たから俺はついて来たんだ! 仲間を大切にする奴だったからついて来たんだ!」


 ウィンスは力強くそう言う。その言葉に足を止めたワノールは、ウィンスを睨み付け言い放つ。


「仲間を信じられない奴が、仲間を大切にするだと? ふざけるな。俺は奴等は大丈夫だと信じている。だから、前へ進む。ここで奴等を探して、時間を潰すより、目的地で奴等を待つ方が、合流できる可能性はある。だからこそ、前へ進むんだ」


 この時、ウィンスは悟った。ワノールも二人を心配していると。仲間を信頼している、そんなワノールの言葉が胸に突き刺さる。そして、何故か自分が情けなく感じた。

 それから、静かに歩き続けた。相変わらず、ルナは黙り込んだまま何かを考えるように最後尾を歩き続ける。山頂に着くと、暫く休憩し、またすぐに歩き出す。つり橋を渡り山を下る。足場は登る時よりもよく、スムーズに山を下った。



 森の奥地の村では、カインが旅の支度をしていた。昨日よりも傷の痛みが退いたため、そろそろフォン達を追わなくてはと急いで支度を進めているのだ。ノーリンは相変わらずいびきをたてながら寝ているため、起こさない様静かに支度を済ませた。支度を済ませ、小屋を出ようとしたカインは、ゴツゴツした手に頭を掴まれ持ち上げられる。バタバタと足をバタつかせるカインは、叫ぶ。


「な、何するんですか! ノーリンさん!」

「お前こそ、何処いくつもりだ? まさか、その怪我で外を出歩こうってか?」

「何ですか! その人を馬鹿にした様な口振りは!」

「馬鹿にしてるさ。その怪我で外を出歩こうって言うんだからな」

「僕は、急いでるんです! 放して下さい!」


 カインがジタバタと暴れるが、ノーリンは笑みを浮かべたままカインを見据える。その時、カインが右手に青空天の柄を握る。そして、鞘に入ったままの青空天で、ノーリンの腕を叩く。思わず手を放したノーリンは腕を押さえたまま叫ぶ。


「いてぇな! お前、何すんだ!」

「それじゃあ、お世話になりました。僕はここで」


 軽く頭を下げるカインは、ノーリンに背を向け走り出す。だが、ノーリンがそう簡単に逃がす訳も無く、カインは軽々と頭を掴みあげられた。「何するんですか!」と、叫びだすカインはもう一度青空天を柄に入ったまま振り上げる。だが、ノーリンはそれをもう一方の手で受け止めた。


「あのな……。何度も同じ手が通じるか」

「放してくださいよ! 僕は急いでるんですから!」

「急いでるってな、その怪我じゃあまともに剣も振るえねぇだろ!」

「もう、僕は大丈夫です! いいから、放してください!」


 その言葉通り、ノーリンが手を放す。「ウワッ!」と、軽い悲鳴に近い声を上げたカインは、尻餅をついた。お尻を擦るカインは、ノーリンの方に体を向けると、


「急に手を放さないでくださいよ! 危ないじゃないですか!」


と、力一杯叫ぶ。不満そうな表情を浮かべるノーリンは、細い目でジッとカインを見つめる。まるで、「自分が放せ言うただろ」と言っている様だ。ムスッとした表情を見せるカインは、「もういいです!」と、言った後ノーリンに背を向け歩き出す。

 その時、背後に迫る殺気の様なモノに気付き振り返る。巨体を大きく唸らせ右腕を振り上げたノーリンがカインに迫っていたのだ。瞬時にそれに気付いたカインは、激しく振り下ろされたノーリンの拳をジャンプしてかわす。大きな拳は地を貫かんばかりの勢いで、地面に突き刺さり、地が割れる音が村に響く。軽くクレータの様に陥没する地面。地面を貫いたノーリンの右拳は、手首まで地面に埋まりその周りに鋭い岩が突起する。

 ノーリンから少し離れた所に着地したカインは、金髪の髪を揺らしその合間から煌く瞳で睨み付ける。そして、右手は青空天の柄を掴みいつでも抜ける状態にする。俯いたままのノーリンは、地面に突き刺さる右手を引き抜く。乾いた土が崩れ微かに音をたてる。村人達はそんな二人の姿を震えながら家の中で見据える。


「いきなり、何をするんですか!」

「言った筈。命を捨てる様な事をすれば許さんと」

「僕は、命を捨てる様な事をしたつもりはありません」

「何を申す。愚か者! 癒し切らんその傷で、ろくに剣も振るえん者が、戯けた事を!」


 顔を上げたノーリンの目は開き、鋭い眼光がカインを見据える。見開かれた眼光を真っ直ぐに見るカインは、ノーリンの今までに無い威圧感に圧倒され、一歩後退る。一歩ずつ近付いてくるノーリンは、右腕を引く。その瞬間、カインは右拳が振り下ろされるのが分かった。すぐ、地を蹴り後方へと避けるが、ノーリンの右拳はカインに吸い付かれる様に襲い掛かる。鈍い音が響き同時にカインの意識はとんだ。

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