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第116回 甘過ぎ

 流れる風が土煙を巻き上げると、両者が同時に地を蹴った。

 大剣を振りかぶったディクシーが風を巻き込みながら大剣を振り抜く。


「くっ!」


 ギリギリで足を止め、上半身を仰け反らせ刃を交わすブラストは、そのままの体勢で双牙から素早く矢を放つ。衝撃にブラストの体が地面を転がり、放たれた風の矢はディクシーの大剣をかち上げ、大きく仰け反らせる。


「――ッ!」


 表情を引き攣らせるディクシー。その視界に、体勢を整えたブラストの姿が映る。

 体勢を戻そうと下半身に力を込めると、振り上がった大剣を力任せに振り下ろす。地面が砕け、土煙と砕石が舞い上がる。刹那、土煙の向うから無数の風の矢が飛んでくる。その矢がディクシーの皮膚を掠め、鮮血を僅かに飛び散らせる。


「くっ! ふざけ――」

「まだまだ続くぞ」


 土煙の中から飛び出したブラストがそう言い、漆黒の刃を振り抜く。その素早い太刀捌きに、遅れて反応するディクシーは、無理に体を捻り刃をかわす。刃が空を切り、ブラストはすぐさまその場を離れ、ディクシーもすぐに体勢を整える。

 二人の間に舞う土煙が薄れ、穏やかな風も静まり返った。向い合う二人の肩が大きく揺れる。

 苦しそうな表情すら見せないブラストだが、体は既に限界だった。膝はいつ地に落ちてもおかしくない。それでも倒れないのは、ブラストの精神的な強さからだろう。

 足を止めたまま動き出さない二人。静かに時だけが過ぎる。

 ゆっくりと息を吐くブラストは、右手に握った天翔姫を双牙に添え切っ先をディクシーへと向けた。


「そろそろ……決着を、着けたい……所だけどね」


 途切れ途切れの声に、ディクシーが不適に笑う。


「貴様も、もう限界と、言った所か。クフフフフッ」


 不適な笑い声を響かせるディクシーだが、その言葉にブラストは確信する。ディクシーも限界なのだと。ディクシーは、自らがその事を告げた事に気付いてなく、ただ余裕たっぷりの顔を見せていた。

 ディクシーに気付かれぬ様に笑ったブラストは、双牙に添えた天翔姫の切っ先に風を集める。


「貴様はバカの一つ覚えの様に、同じことを繰り返すな」

「さぁてね……それは、どうかな」


 天翔姫の切っ先から、鋭い風の矢が放たれる。その矢はディクシーではなく、ディクシーの足元の地面を直撃し、破壊した。地面が砕けバランスを崩すディクシー。土煙が視界を覆い、更に状況は悪くなる。


「くっ! 姑息な!」

「悪いが……俺は、余裕が無くてな」


 素早く天翔姫をボックスに戻したブラストは、もう一度三つの武器を組み合わせ、大型ボーガンを作り出す。それを両手で握り、照準を確りと定める。光が槍の先に集まり、一瞬の後放たれた。衝撃がブラストの体を後方へと吹き飛ばし、光が土煙の中へと消えた。その瞬間、土煙が衝撃に散布し、ディクシーの体が弾き飛ぶ。

 体を何度か地面に打ち付けたディクシーは、勢いがとまると同時に吐血した。一瞬の出来事で、ディクシーには何が起こったのか分からなかったのだろう。蹲ったまま動き出すまで時間がかかった。

 一方で、衝撃に吹き飛んだブラストも蹲ったまま動かない。全身に走る痛みに動く事が出来なかった。


「うっ……くっ……」


 最初に起き上がったのはブラスト。額から流れる血。それを拭い、静かに息を吐きディクシーを見据える。

 血を吐くディクシーは、僅かに上半身を起き上がらせると、剣を地面に突き立てて立ち上がった。鋭い眼差しをブラストに向けたまま。

 視線が交錯し、ディクシーが地面から剣を抜き、ブラストはボーガンから渦浪尖を抜き、大剣へと形を変えた。左手に渦浪尖、右手に天翔姫と双牙を組み合わせた大剣。体力が限界のブラストにとって、両方を使って戦うという選択肢は無く、渦浪尖を地面に突き刺しゆっくりと大剣を構える。

 小さく呼吸を整えるブラストは、右足を踏み込むとそのままの勢いで地を駆けた。その動き出しにディクシーも僅かに反応を示し、大剣を振り上げる。刃に集まる風が高音の音を響かせる。


「これで……最後だ!」


 振り上げた大剣を振り下ろす。刹那、ブラストも大剣を切り上げる。両者の刃が対照的な軌道を描き、ぶつかり合った。澄んだ金属音に遅れ、何かが砕ける鈍い音が聞こえる。宙を舞う金属片が回転し地面へと突き刺さった。

 振り下ろされた刃と、振り上げられた刃。首筋に伸びた切っ先。真ん中から砕けた刃は地面を向き、ゆっくりとその手から零れ落ちた。静かに流れる風が、両者の髪を優しくなで、静けさが周囲を包む。


「はぁ…はぁ……」

「くっ…ふぅ……。トドメを刺せ」


 首筋に向けられた刃を見据え、ディクシーがそう呟く。足元に転がるのは、真ん中から砕けた金色の鍔の剣。首筋に向けた切っ先をゆっくりと下ろすブラストは、息を整え静かに答える。


「悪いが、無駄な殺生はしない……」

「ふっ……無駄な殺生はしないだと? なら、どうする。このまま、私を逃がすのか?」


 ディクシーの言葉に耳を貸さず、背を向けたブラストは天翔姫をボックスに戻し、双牙の二本のナイフを仕舞う。それから、地面に突き刺した渦浪尖を筒へと戻し、ゆっくりとした足取りで城へと向った。

 その際、ディクシーの方に僅かに顔を向け、


「俺の命がほしいなら、いつでも相手をしてやるからな」


 と、一言残して去った。残されたディクシーは、拳を握ったが力が抜け、そのまま仰向けに倒れ空を見上げた。



 城門を潜ったブラストは、その瞬間にその場に倒れた。体がこれ以上動かず、立つ事すら出来ない。そんなブラストの横に立つのは、赤紫の髪を揺らすツヴァル。少し呆れた様な表情を見せ、倒れるブラストを見下ろす。


「いいんですか? 見逃しちゃって。また、襲ってきますよ」

「そん時は、返り討ちにするさ……」

「その状況で言われても、説得力無いんですけど」

「ああ……わりぃ……。少し休む。後は、任せるぞ」

「はいはい。分かってますよ」


 ため息を吐いたツヴァルは、横たわるブラストを軽く足蹴にして、兵士達に対し、


「喜ぶのは後だ! 全員一度城に戻って、守りを固めろ。まだ、安心は出来ないからな」


 ツヴァルの声に兵士達が大声で返事を返し、城へと引き返していく。静かにそれを見守るツヴァルは、横たわるディクシーの姿を目視し、


「甘過ぎですよ……ブラスト様は……」


 小さく呟いた。そして、ふとクローゼルの事を思い出す。


「そう言えば……あいつ逃がしたっけ……大丈夫かな? まさか、大軍率いて来ないだろうな……」


 僅かな不安を抱きながら、ツヴァルはブラストに代わって指揮ととった。

 どうも、作者の崎浜秀です。

 今年は、これが最後の更新になると思います。

 中々更新できない日々が続き、読者の方には迷惑をお掛けして申し訳ありません。来年はもっと技術を磨いて頑張りたいと思いますので、来年もよろしくお願いします。

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