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第104回 グラスターの攻防

 各地で繰り広げられる決戦。

 深夜のアルバーでは、ティル、カイン、ノーリン、バルドの四人が各々魔獣人と激突。

 そして、明け方のグラスターで激突する赤き龍ことアルドフと、魔獣人リオルド。

 飛び交う砲撃と爆音。散乱する肉片に漂う悪臭。地面が黒こげ、黒煙が上がる。兵士達も砲撃を逃れた魔獣と武器を交えていた。その中に副官であるレヴィの姿もあった。

 その中で一際鋭い太刀風を吹かせながら刃をぶつけ合う二人。刃がぶつかり合う度に吹き上がる土煙が、両者を包み込む。

 大剣が土煙を巻き込みながら振り下ろされる。だが、刃が斬ったのは土煙だけで、そのまま地面を砕いた。爆風が土煙を払い、二人の姿がはっきりと見える様になった。


「グハハハハッ! 中々楽しませてくれる。これが、赤き龍と呼ばれた男の力か!」

「その名は捨てたと言っているだろ!」


 アルドフの右手に握られた刃が振り抜かれた。だが、刃はリオルドに紙一重で届かず、アルドフは体を一転させる。リオルドに背中を向ける形になるが、それと同時に何かが空を裂き、衝撃がリオルドをなぎ払った。


「ぐっ!」


 吐き出された血が空を舞い、リオルドの体が地面を転がる。土煙が巻き上がり、巨大な何かがうねりを上げながら地面を叩いた。轟く地響きに周囲が静まり返り、視線が集まる。土煙の中で浮かび上がる奇妙な影。それが揺らめき、もう一度地面を叩く。地面が砕かれ、破片が散乱する。

 静かに体を起したリオルドの口元には、不適な笑みが浮かび、口角から流れる血を左腕で拭う。


「くはっ……くははははっ!」


 高らかと響き渡るリオルドの笑い声に、落ち着いた低音の声が返答する。


「何がおかしい」

「貴様の様な強い奴と刃を交えるのは随分久し振りだ。俺も少しは本気を出せそうだ」

「魔獣化――と、言う奴か?」

「さぁな。そう呼ぶ奴もいるが、俺は力の解放と呼んでいる」


 不適な笑みと共に突如衝撃が周囲に広がった。突風が土煙を巻き上げ、リオルドの髪が吹き上がる風で更に逆立つ。蒼髪がその色を漆黒へと変貌させ、顔の表面に僅かながら鱗模様が浮かび始める。

 そんなリオルドの目前に、衝撃を掻い潜ったアルドフが姿を見せる。白髪混じりの黒髪が揺れ、鋭い眼差しがリオルドを睨む。右足が踏み込まれ、アルドフが間合いを詰め右手に握った剣が振り抜かれた。


「ぐっ!」


 澄みよい金属音と共に吐き出されたアルドフの声。刃はリオルドの右脇に触れたまま動かず、アルドフの右手が僅かに震え表情が歪む。一方リオルドの口元に不適な笑みが浮かび、静かなる口調で言葉を告げる。


「グハハハハッ。不意打ちのつもりだったのだろうが、残念だったな」

「どう言う……事だ」


 表情を歪めるアルドフは、痺れる右腕を左手で押さえその場から離れる。

 変貌していくリオルドの肉体。皮膚に現れた鱗が黒光りし、両足から鋭い爪が突き出て、地面へと食い込む。右腕が二倍以上に膨れ上がり、その手が静かに大剣の柄を握る。


「再開しようじゃないか。殺し合いをな!」


 勢い良く大剣が振られた。衝撃が広がり、アルドフの体が吹き飛ぶ。咄嗟に剣で刃を受けたが、その衝撃はアルドフの両腕を痺れさせる程だった。距離を取り静かに息を吐くアルドフは、その痺れを払う様に手を振り剣を構えなおす。

 楽しげに笑みを浮かべるリオルドは、ゆっくりと大剣の切っ先をアルドフの方へ向けると、そのまま地を蹴る。魔獣化した事により生まれた瞬発力で、一瞬でアルドフとの間合いが詰まれ、大剣の切っ先がアルドフの胸に向って突き立てられる。


「クッ!」


 咄嗟に身を反らし刃をかわし、剣でそれを受け流す。火花が散り、大剣がアルドフの顔の前を通過する。


「あめぇんだよ!」


 リオルドの声が耳に届き、左拳がアルドフの腹部へと突き刺さった。口から吐き出された血と共にアルドフの体が地面へと減り込んだ。地面が割れ砕石が飛ぶ。舞い上がった土煙がアルドフを包み込み、リオルドの大剣が天高く振り上げられた。


「じゃあな。古き英雄。赤き龍」


 口元に浮かぶ笑みと共に、土煙の中へと刃が振り下ろされた。衝撃が更なる土煙を巻き上げ、突風が周囲へと広がる。

 静まり返り、土煙だけが薄れていく。地面に飛び散った血痕があらわになり、レヴィの声が木霊する。


「アルドフ隊長!」


 叫び声に振り返ったリオルドは、不気味に笑みを浮かべ、


「安心しろ。テメェもすぐにアイツと同じ――」

「勝手に殺すな」


 リオルドの背後でアルドフの声が聞こえた。その声に小さく舌打ちをしたリオルドは、静かに右手の大剣を持ち上げた。重々しくゆっくりと持ち上がった大剣の刃が、微量の砕石を一緒に持ち上げ、それが空中に漂う。

 張り詰めた空気。乾いた風。漂う土の香り。異様な雰囲気と空気の中で対峙するアルドフとリオルド。

 額から流れ出る血が、視界を塞ぐ。それでも落ち着いた表情を崩さないアルドフは、右足を摺り足で一歩進め、つま先に力を込める。いつでも地を蹴れる状態を保ち、リオルドを見据え息を呑む。


「――恐怖心」


 突然発せられたリオルドの声に、アルドフが踏み込んだ右足を僅かに下げた。


「どれだけ平然を装っても無駄だ。貴様の感じている恐怖が、俺には手に取るように分かる」

「それが、どうしたという」

「フッ……分からないか?」


 リオルドの言葉が途切れ、アルドフの視界から消える。僅かに生まれた動揺からアルドフの動き出しが遅れ、突如目の前に現れたリオルドが放った鋭い突きが右肩へと突き刺さった。


「ぐあっ!」


 激痛がアルドフを襲い、衝撃が右肩を貫く。体が空中へと投げ出され、右肩から血が吹き出す。

 目の前で起った事が信じられず、レヴィの目には全ての事がスローに見えた。アルドフの体が地面に落ちるその瞬間までが。叫ぶ事も出来ず、何が起ったのかも分からず、ただ目の前の光景だけがその目に焼け付き、微かにレヴィの手が震えた。


「バカヤロー!」


 突然響く声。それでレヴィは我に返り、自分の立場を思い出し、その手の震えを無理矢理押さえ込んだ。


「ケッ。その状況で、他人を気にする余裕があんのか?」


 大剣を肩に担いだリオルドが、ゆっくりと足を進める。その先に居るのは仰向けに倒れたアルドフ。肩からの出血が酷く、地面に血が広がっていた。右腕に力が入らず、その手に握っていたであろう剣は既になくなっていた。何処かへ飛んでいってしまったのだろう。

 リオルドの太刀を防ぐ術も受け流す術も失いながらも、アルドフは静かに立ち上がった。その目には闘志を抱き、その口に薄ら笑みを浮かべ。

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