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第100回 開戦!

 東の王国フォーストの首都ブルドライ。

 高い城壁の外で多くの兵士が待機していた。既に魔獣達が攻めて来る事を知らされていたからだ。指揮を取るのは、小柄の老人だった。どれ位の年齢なのか分からないが、現役で戦線に出るには随分と老いている様に見える。しかし、そんな外見と裏腹に、老人は兵士達を鼓舞する様に、大声を張り上げた。


「――ッ! ――ッ!」


 掠れた声に、兵士達は見向きもしない。やはり彼が指揮を取ると言うのは無理があるのだろう。そんな老人に空から降り立った一人の青年が、呆れた様な面持ちで声を掛ける。


「将軍。いい加減にしてくださいよ……」

「――?」


 シワくしゃな顔で青年を見上げる老人が、何か言葉を発したが、誰にも聞き取れない。そんな老人の言葉に対し、小さくため息を漏らした青年は、両肩を落とし更に呆れた表情を見せる。


「分かってます。分かってますよ。将軍の手腕は。ですが、もう将軍の名は僕に受け継いだでしょ! 忘れたんですか!」

「……?」


 惚けた様に小首を傾げる。既にボケの始まったこの老人に、更に呆れる青年は右手で頭を掻くと、近くに居た兵士に目を向けた。赤紫色の髪の合間から覗く鋭い眼差しに、その兵士は飛び上がる様に背筋を伸ばし体を青年の方へと向け、声を張り上げる。


「だ、第三十六代将軍様!」

「あーっ。畏まらなくていいよ。僕の方が年下だし、こんなのただの肩書きだから」

「い、いえ、しかし――」

「それより、このお方を城内へ。全く……。目を離すとすぐに戦場に行きたがるんだから……」


 その言葉に兵士は「はい」と、ハッキリとした口調で言い、老人を連れ城壁の向こうへと消えていった。小さくも深々とため息を吐いた青年だったが、すぐに目の色を変え、兵士達を鼓舞する言葉を飛ばした。


「さぁ、いよいよ決戦だ! 万全の準備は出来た! 策も立てた! 後は皆の頑張り次第だ! 守るべき者の為に全力を尽くせ!」


 青年の声に兵士達の息の合った声が上がる。士気は高まっている。策も万全。残すは王の帰還のみ。現時点での勝算の低さを知っているからこそ、彼は自分の出来る限りの策をこの地域一帯に仕掛けた。それは、兵達を少しでも多く生き残らせる為に打った最善の策。それがどれ程魔獣に通用するか分からないが、青年は強い眼差しを真っ直ぐに向け静かに時を待つ。



 南の王国ニルフラント。大都市ウォークス。国の平和の象徴、初代時見の女王クリス像を中心に沿え、後方にはニルフラント城が聳え、更にクリス像を美しく見立てる。

 その街には既に人の気配が無かった。あるのは血の臭いと悲惨な残骸だけだった。乾いた風が流れ、静まり返った繁華街に埃が舞う。

 揺れる白髪。眼鏡越しに浮かぶ金色の瞳が、周囲を見回す。青年は何かを口にする訳でも無いのに、ブツブツと唇だけを動かす。そんな青年に魔獣が襲い掛かる。だが、銃声と同時に額から血飛沫が上がり、巨体が地面にひれ伏す。


「おいおい……大将の話じゃ開戦まで後一時間近くあるはずだけどねぇ」


 長い髪を揺らし、凛々しくも美しい顔をした女性が、素早く右手に持った短剣を振るう。血飛沫が飛び、魔獣の体が横たわる。

 周囲を完全に魔獣に囲われた二人組み。彼等がブラストの派遣した者達だった。右手に短剣を持つ女性は、左手に持った銃を発砲し、空を舞う魔獣を打ち落とす。その横ではブツブツと唇を動かす青年が、背中に背負った二本の剣を抜き、静かに唇の動きを止める。と、同時に二本の剣が軽快に空を裂く。鋭い風音と共に閃光を描く刃が交差し、魔獣の体にクロスを刻んだ。


「処罰執行」

「アララ……。祈りは終わったん?」

「神のお告げ――処罰を続行する」


 青年の腕が撓り、刃が風を切る。右手の刃が斜め後ろに立つ魔獣の首筋に触れ、皮膚だけを裂く。痛みを感じない程の太刀捌きが、更に魔獣を襲う。魔獣の体にクロスの傷痕を必ず残してからトドメを刺していく青年の動きに、女性は呆れた笑いを浮かべる。彼が変人と呼ばれる由来はここから来ていた。

 そんな彼に付き合わされる女性。彼女の手から短剣が飛ぶ。それは、魔獣の額を貫く。

 女性の行動に渋い表情を見せる青年は、ボソリとした声で、


「先輩。短剣は――」

「分かってるわよ。投げるものじゃないって言うんでしょ! 大体、先輩は止めろ。こう見えても、ピチピチの十九よ。あんたよりもたった三つ違うだけ。カルール姉さんと呼びなさい!」


 女性の言葉に無言のまま背を向ける。彼が変人と呼ばれるもう一つの要因がこれだ。

 眉間にシワを寄せるカルールは、そんな青年に背を預け、腰にぶら下げた短剣を抜く。五、六本程の短剣が揺れ、鞘をぶつけ合う。


「将軍の奴め……。この変人をウチに押し付けやがって……」


 小声でボソッと呟いたつもりだったが、青年には聞こえていたらしく、訝しげにカルールの方に顔を向け、


「神を冒涜ぼうとく――」

「神じゃなくて、あんたをよ。この変人が!」

「変人? 私はケイス=リバルバーと――」

「あんたの名前は知ってるっての! 大体、自覚が無い変人は――」

「私は――」

「うっせぇ! もう黙ってろ!」


 遂に怒声を張り上げるカルール。額に浮かぶ青筋が、その怒りを物語っていた。

 右手に握った短剣を乱暴に放ち、魔獣の胸を貫くと同時に、額に弾丸を撃ち込む。鮮やかに散る血が、地上へと降り注ぐ。溜まりに溜まった不満からだろうか、表情には殺意が満ちていた。


「神の制裁を――」


 クロスに振り抜く刃が、空を裂き、地を砕き、魔獣を切る。派手に血飛沫が飛ぶ事は無く、魔獣達は切られた感覚も無く地面にひれ伏していく。横たわる魔獣の体からは血が止め処なく流れ、地面を赤く染める。

 流れる風が突如変わった。熱風が前方から吹き抜け、魔獣達の動きが止まる。刹那、カルールは目でケイスに合図を送り、陣形を変えた。前衛でケイスが胸の前に剣をクロスに構え、後衛ではカルールが何処から取り出したのか、二丁のライフルを握っていた。

 漂う異様な殺気と、ただならぬ気配に魔獣人の存在を感じ取ったのだ。周囲に居た魔獣もその殺気に圧倒され、その場を逃げる様に散った。

 表情を強張らせるカルールに対し、静かに唇を動かすケイス。これは、ケイスの癖だった。戦いの前の神への祈り。カルールにとってそれはどうでも良い事だが、目の前でされると腹正しい事この上無かった。


「あんた、こんな状況で――」

「ブツブツ……ブツブツ……」


 言葉など聞こえていないかのか、カルールを無視して唇を動かす。分かっていた事だが、無視されるのは、イラッとする。このまま、背後から弾丸を打ち込んでやりたい、と言う願望を堪え、視線を真っ直ぐに向けた。その視界に二人組みが映る。赤い髪の男と黒いマントを巻く黒ずくめの男。

 危険な臭いを漂わせる二人組みに、ゴクリと息を呑む。


「オイオイオイ。どうなってんだ? 街には人影すらねぇし、偵察送りゃ戻ってこねぇし」

「その要因は彼等の様だ」


 静かな口調のジャガラ。長い黒髪が揺れ、合間から不気味な細目が見え隠れする。ハッキリと分からぬ程の殺意を放つ。

 一方で、紅蓮の髪を靡かせるガゼル。鋭い眼差しが二人を見据え、耳のピアスを左手で触れる。こちらはハッキリと分かる憎悪と殺気を漂わせていた。

 更新が滞り、申し訳ありません。

 毎度の事ですが、頑張って更新していきたいと思っています。長い目で見てくれるとありがたいです。

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