第5話
杏夜は約束通り結衣の部屋へとやってきた。結衣の用件はと言うと、授業の無い今日学校内を案内してほしいと言う事だった。結衣は杏夜が朝食時に助けてくれたりと自分に取って頼れるのは杏夜だと思っていたのだ。杏夜はその申し出を承諾したがそれには条件があった。
「条件?.....わかった。何でも言えよ?」
「何でも?...。僕のいる前では"本当の君"で居ろよ。」
「え?」
「僕は知っている。お前が誰にも言っていない情報を。僕は昔から君の事を見守り続けている。」
杏夜の目はいつもと違ってなんだか恐ろしかった。張りつめた空気の中、結衣は焦っていた。
(確かに誰にも言っていない。理事長か?いやそんなはずはない...。なら別の事か?)
「まだ隠し通そうとするの?それだったら僕は君を助けられない。」
「ごめん...その.....。」
「じゃ、僕戻るね。”本当の君”についてちゃんと言えるようになったら僕の部屋にこい。」
そういって杏夜は結衣の部屋を後にした。結衣に冷たくあたる杏夜の顔には、何故かすこし悲しく辛い、そういった感情が現れているようだった。
杏夜が部屋を出てから結衣は考えた。本当の君=結衣が女である事。言っても良いのだろうか、と結衣は考えた。そして決意した。杏夜の事を信じて。
結衣はドアをノックした。
「すいません!ここって杏夜くんの部屋でしょうか!?」
「あ”!?ってあれー結衣!!どうしたの?」
「いや...。別に。部屋間違えた。」
杏夜の部屋を探しに行こうとする結衣の腕を紫斗が引っ張った。
「杏夜の部屋ここであってんぞ?俺と杏夜は同じ部屋。ま、リオだけ仲間はずれ、ってとこかな?なぁ?」
「リオもいるんですか?」
「俺ら仲良しだから♪」
「はぁ...。てか杏夜!?えと....さっきの話。二人で...話そ?」
「だめ。僕たち全員に話してもらう。大丈夫。そしたら”僕たちの秘密”も教えるよ?」
「give and takeってこと?」
そうだよと言って杏夜は紫斗とリオも部屋の中にいれた。勿論何故結衣が杏夜の部屋に来たのか知らないリオ達に、杏夜が説明をした。そして結衣がようやく口を開いた。
「俺は訳あって本当の自分じゃない俺としてこの学校に入学した。実は....俺....。」
複雑な心境の結衣は自然と涙が出てきていた。
「女です!」
「うん。だよねー........え!?」
「えーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?」
「リオ、うるせーよ。だからリオには言いたくなかったんだよ....。」
「おい女の子がそんな言葉遣いしてはいけません!」
「だまれ。とりあえずだまっててごめんなさい。」
ありがとう、そういって紫斗がぎゅっと結衣を抱きしめた。
「おいっ!!紫斗!結衣からはなれろ。」
「えー?リオには関係ねーだろ?」
運命の針はすでに動き出していた。杏夜達の秘密。その事実は残酷だ。
「俺たちは人間じゃない」
彼らに隠された秘密。それは彼らが人間ではないと言う事。そしてそれは誰にも知られては行けない秘密。彼らの話によれば3人はそれぞれの族の王子で、杏夜は吸血鬼、リオはオオカミ、紫斗がライオン族らしい。驚愕の事実を前にどうすれば良いかわからず立ち尽くす結衣。
「え、えっと....。」
「信じ難いだろうけど、まぁ約束だったし。今夜この部屋にまた来てくれる?絶対だからね?」
「うん....。じゃ、ちょっと俺、疲れたから部屋戻る!」
そういって結衣は部屋を飛び出し自分の部屋へもどった。
「あんな重大な秘密...。私が抱えてた秘密なんかよりももっと重いよ。どうして、私に教えたの?怖いよ。」
結衣は布団の中に潜り込んだ。約束の時間が来るまで。