(4/10+α)
まずは謝罪を。週間更新を目標にしていましたが大幅に遅れました。
言い訳というかなんというか、まぁいろいろありまして、とざっくり言いますか。これほどめまぐるしく世間(私の周囲の話)が動いたことは久しぶりでしたよ。
ですけど、そんなこんなでも続きを書きたい意欲は消えておらず、更新再開といったところです(誰も見てなくても書くもんね・・・・)
そういうわけで啓は尚も異空間の中で戦い続けています。果たして勝負の行方は――!?
繰り返し剣を振る。
影は次々と湧いた。
乱暴に。とても剣技とは呼べない力技で、啓は順調に、あるいは単調に、目前に群がってくる影の集団を切り裂いていく。
それでも、影は周囲を埋め尽くし、どこからともなく集ってきている。確実に減ってはいるのだろうが、それほどこの戦場と化した大通りは、収拾のつかない混雑を極めていた。脇道から、ビルの合間から、この異空間の中の全ての影が集合しつつあった。
啓は何も考えず、ただひたすらに目に映ったものを片っ端から討ち払っていく。
先ほどまでの、一撃のみに趣をおいた、強引な攻撃は行わずに、切っては移動、切っては移動を続ける。無心のまま繰り返す。魔法少女の前に影はなす術もなく崩れ朽ちていった。終わりの見えない大群を相手に、エネルギーの無駄使いを避けるためだった。
その切っ先に触れるものはなんであろうと容赦なく二分にされる。
影も車も建物も、そして――人も。
魔法少女に成り立ての頃の話だが『空間の収束とともに元に戻る』と、そう聞かされたものの、それでも人が分断されていくのは直視できなかった。慎重に、周りの環境に気を配って、戦闘に臨んでいた。そんな頃のことも今となっては懐かしい思い出。
今ではすっかり啓の感覚は麻痺している。
むしろ、何も考えずに暴れることに快感を覚えているくらいだった。
私と敵しかしない世界。
それがとてもシンプルに思えて啓は気に入っていた。
静止した街の中でただ一人、唯一行動できる。誰でも一度は考えたことがあるような世界で、啓は日々のストレスを込めて能力を一気に開放させていく。
頭の中をカラにして、思考もせず、一心不乱に。
集中力があがっていくのを感じながら啓は襲いくる敵を、一方的に襲っていた。
長い激闘。といってもその戦力差はかなりあったようで、はじめは無数に居た影がやっと減りだした時、路面はというと、原形も留めていない影達が半ば溶けた状態で横たわっているばかりだった。
あたり一面の黒の海。
残りの影達は、おびえているのかまるで知性でもあるのかの如く、遠巻きに様子をうかがう仕草で啓を囲んでいる。その中央に立つ啓は、びっしりと額に浮かんだ汗を拭った。
「ふぅ」
思わず息を吐く。
形勢はこちらが圧倒的に上。このままいけば制限時間内に掃討し終えるだろう。周囲に警戒しながらも、剣――硬直したリボンを地に突き刺して、背負ったランドセルから、またも包みを取り出す。
中から取り出したのは、こぶしにおさまらないほど大きなおにぎり。本日の、予備のエネルギー補給として特製のおにぎりを持ってきていた。ピクニック気分で近くの倒壊したブロック片に腰をかけ、それを口へと運ぶ。塩味の効いた、その良質な炭水化物は飲み込まれると同時に啓の疲れを癒しはじめた。
汗はあっという間に退いた。水筒を取り出し、喉も潤しておくことにする。注ぎ口の二つある水筒は、中で仕切られていて二種類の飲み物が出る優れ物だ。右に傾けた時と左に傾けた時で出てくるものが違うように設計されていた。
冷たい緑茶が注がれる。口に運びながら、その芳醇な香りに脳内がすっきりとしていく感覚が啓は好きだった。おにぎりと言ったら緑茶に限る。譲れない思い。があるのかもしれない。
「さてと……。残りもあとわずかみたいだし、もう一働きしますか」
つかの間の休憩を終えようと、啓は再び立ち上がろうとした時。
「もしもーし。休憩終わったとこ悪いんだけど。ちょっとばかし、まずいことになりそうなんだ」
突然、京が申し訳なさそうに言ってきた。
「なによ?」
普段から横柄な態度ばかりとる京の、突然な変化に不安感をいだいた。
どちらかというと不信感をいだきたかったが、確かにおかしい。それに気づいたのは啓を取り囲むように身構えていた影達を視界に捕らえたから。
影は先ほどから固まったまま動いていない。最初は様子を見ているだけかと思ったが、どうやら動きそのものを止めているようだった。
不気味を全身で感じつつ、
「だから、なによ?」
もう一度、問いただした。
「いやさ、順調にことが運んでるように見えてたから、いいのかな、って思ってたんだけど。さっきからモニターの点が最後の一個で止まったままなんだよね。もしかしてそっちの敵って残り一匹じゃ、ない?」
機械の故障かも。と付け加えた上で、京は尋ねてきた。京自身、確信は得ていないらしい。
意味不明に問われて、周りを見渡す。路面に広がった黒いシミ――水溜りのように溶けでた影。その残骸の向こうではいまだにいくつもの影が立っている。
啓はじぃ、と観察してみることにした。啓の立っている場所を中心にして距離をとり、円を描くように影は立っているようだ。距離は目測で三十mはある。と思う。障害物はあちこちにあるが、啓にとっての安全圏を作り出した状況のままだ。そうでないと休憩など呑気に取っていない。
いち、に、さん、……。
数えるのを諦めたほうが早い気がする。かなり殲滅したとは言え、まだ多く残っている、動きを見せない影達を前にして、京とのやり取りに意識を戻す。
「まだいっぱい居るんですけど。ってかこいつらを一匹だけ残してどうするのよ。最後の一匹だけいたぶるような、そんな鬼畜なマネはしないわ」
全ての敵は止まっている。その場に留まっているという意味ではなく。襲い掛かってくることもせず、現れたときに見せた、あの揺れるような不規則な動きも、今では完全になくなっていた。
「だよねぇ。啓ちゃんの性格からして完全勝利を目前に地団駄をふんだりはしないよねぇ」
私の何を知っているというの。突っ込みは喉の奥にしまっておくことにした。
そうした皮肉なやり取りをしている時間はないらしい。本来なら異空間において、毎度のごとく静寂が支配してる空間内で、唯一動いているものといえば啓と多種多様な敵の姿だけだったはず。それなのに、その唯一の片割れである敵も完全に動かないとなると、これまで経験したことのない緊張が襲ってくる。別の汗がしたたる。
ゴクリと飲んだ息の音ですら、鼻腔の奥でとてつもない爆音に聞こえた。
「ちょっと調べてみるから、その場を動かないでね」
京のほうでも、この緊張は伝わっているようで、仕切りとキーボードを叩いている音が聞こえだす。
「ん?」
いま何か動いたような、啓は首をかしげる。
視界の片隅に何か。
あくまでもその場に留まって見える範囲で探索を続けていた啓の目に、何かがチラり。
何もかもが止まっていると、自然と目は動くものを追ってしまう。意識して見ない限りそれがなんだか判らなかったが、確かにあのビルの――上の方で、何かが動いた。
意識をビルに向けて改めて見上げる。県内でも有名な学習塾だ。窓ガラスは先ほどまでの戦いに巻き込まれたせいか、上層階を除いてそのほぼ全てを失っている。よく見れば看板や壁面に数々のヒビや亀裂が入っていて倒壊寸前の廃墟となっていた。
その何階だかわからない窓の向こうで。何かが動いたような気がしたが……、よくよく注意して見ても何かが変わった様子はない。
気のせいかと思って啓が目線を下げたとき、それまでの異変の中の異変は、確信的に確変した。
啓を囲うように点在していた影が消えている。数を数えることを諦めてしまうほどの影は、ちゃんと確認できていたはずだったのにだ。それが何の前触れもなく、突然に消え失せている。
今、目の前に広がるのは、影を倒したあとの残骸のみ。廃墟を浸すように、残骸によってできた黒くよどんだ海のみ。路面に対して所々《ところどころ》隆起する程度の、影の残骸ばかりが広がる景色は、空から見ると地図の上に墨を撒いたあとのようだ。
「啓ちゃん。気をつけて! モニターの点がおおきくなっていく! これは……でかいのが来る!」
「えっ? えっ! ええええぇぇぇぇっっ!」
注意に耳を傾ける間もなく啓は驚愕の声を上げた。一面に広がった黒いシミはいつの間にか一箇所に集まっていて、人間の型を形成していた。路面に広がっていたため、啓の目線からでは気づかなかった。
人間のサイズよりもはるかに大きい。その膨れあがった様子はもう巨人と言ってもいい。寝そべるように広がったその影――巨人の面積を考える。はたして全ての影を合わせたとすればこうなるだろうか。
巨大な影はずるずると移動しはじめた。
そのまま近いビルへと向かい、外壁を伝いながら頭を上にして立ち上がった。ビルを巨大なスクリーンにして影絵を映し出した具合だ。
立ち上がった巨人はやはり、今日これまでに倒した数々の影を、それ自体を大きくしたようだ。ビルの壁面上をもぞもぞと動いている。
ややもたつきながら壁をつたって、のそりと歩きだす。ふらつきながら、赤ん坊が「捉まり歩き」をしているかのように何度か転び、立ち上がってはまた隣接したビルへと移動する。大きさに圧倒される。
「なるほど……ボスってわけね」
唾を飲む啓をよそに、影は徐々にその体に慣れていったのか、動作を機敏にしていく。そして一際大きなビルまで来ると、一度その長い腕を振った。
ビシリ! と振った腕を止めた先、壁面にヒビが入った。
巨人はその巨体を啓に向けた。振り返った。
ビルの壁面に映っていた影には目があった。正面を見据えたと同時に頭部に爛々と赤く光る目が浮き出ている。
圧倒する巨人から目を離さず、啓は後ずさりする。何しろ巨大すぎて全体像がよくわからなかった。
その全てが視界に収まった時、巨人は路面に手を付いていた。ビルにへばりついていた平たい体を、少しずつビルから剥がしていく。
2Dから3Dへと厚みを増していく――膨らんでいく。
地鳴りを響かせながら、やがて完全に体はビルから離れ、四つん這いで道路に覆い被さった。全身に力を込めながら立ち上がろうとしているようだ。腰を浮かし、手を道路から離そうとしている。
「でええええええええええぇぇぇっっ!」
唐突に声が響いた。気合を入れて、剣道の達人でも驚くほどの奇声を上げながら啓は凄まじい速度で巨人に走りよって行く。そのまま股の下を通り抜けると同時に、剣で巨人の左足を目いっぱいに薙ぎ払った。
そのまま巨人を通り越し、土煙を上げてブレーキをかける。振り返ると巨人の右足は胴から見事に離れ、バランスをなくした巨人はまた四つん這いへと、転倒した。
地響きと共に倒れたのもつかの間。切られた左足部は、一度は足の形を失って溶けて消えかけた。が、すぐさま巨人の元へ吸い込まれると、足はその切られた付け根の部分からまた生えはじめる。再び巨人は立ち上がろうとしている。
ならば。と剣を捨てた啓は、近くにあった廃車寸前の軽自動車――廃車になった原因は啓自身に因る――のところへ行くと、しっかりと掴んでそれを持ち上げた。
啓の太ももの筋肉が隆起する。抱えあげた軽自動車を肩に担ぐようにして、そのまま放り投げた。
弧を描いて巨人へと向かっていく軽自動車。それが顔面直前に到達するタイミングを見て、脇に置いた剣を投げつけた。
剣は軽自動車と巨人の顔を串刺しにして通り過ぎる。剣によって穴の開いた巨人の顔はすぐに塞がった。そしてワンテンポ遅れて、ガソリンタンクごと貫かれた軽自動車がドゥン。と、爆発を起こした。
「これで? どう?」
周囲は爆風とガソリンの臭いにまみれながら、遠投姿勢のままで巨人の様子を伺う啓。
が、巨人は大して堪えた様子も見せない。表面こそ焦がし、へこませたが、すぐに元通りに修復していった。
「うわぁ……。これでもだめなの? さすがボスってわけね」
乾いた笑いを浮かべた啓の頬を汗がつたった。
予想外に大物だった。勝手にボスなどと呼んでみたはいいが、ここまでダメージを通せない敵に遭ったことはなかった。
「それでも、なんとかするしかないんだけどね」
残り時間が迫る。具体的にはあと三十二分。日付が変わると同時にこの空間は閉じる。敵を殲滅できたかどうかには関わらない。
倒し方を模索する啓には、いくつか試してみたいことはあったものの、そんな悠長な時間はなさそうだった。
他になにか手は……。そう考えたとき、巨人の手が伸びた。
巨人の腕はムチのようにしなった。遠目から見ればそう見える。啓から見れば視界が全て黒になった。衝撃はその後から。
さらに後に音が続いた。骨が鳴る。体の肉の付いていない場所を鈍器で殴ったような音だった。それが内側からあふれ出る。全身で巨人の攻撃を受けて、はじかれたように啓は直線軌道で飛ばされた。
痛みを感じたのは、攻撃ではなく弾き飛ばされた先にあったビルに激突したからだ。どのくらい長い間飛ばされたのかは……、それはきっと刹那だっただろうが、意識ごと飛ばされていた啓にとっては長いのか短いのかよくわからない。
ビルに激突してそのまま内部へと転がり込む。外壁に穴が開いても倒壊するようなことはなかったが振動で揺れるビルの中で膝をついて、口に入った埃と、少しの血を吐き出す。
「ゲホッ。ケホッ……。あ?」
口元を拭う手袋に鼻血がついているのがわかった。止まらずにフローリングされた床にこぼれ落ち続ける。
啓の血の気が引いていく。目を細めてビルの穴――自分が入ってきた穴なのだが――から、今は見下ろせる巨人を睨みつける。
「ケッ」
小さく舌打ちをして、啓は自らの体を見回した。
「とりあえずは、動けるわね」
全体的に体は埃っぽいが、擦り傷以外に致命傷を負っている様子はないようだった。そのまま、のろのろとこちらへ向かってくる巨人を見つめている。
「さてと。どうしたものかしら」
もう一度思案してみた。先ほどの攻撃ではびくともしないことは確証済み。剣による斬撃の類は一応は切ることができた。もっとも左足が瞬時に再生したことを考慮すると、攻撃のためのエネルギーは圧倒的に足りていない。
「攻撃は効いてるのかしら……。効いているわよね。あたらなかったわけじゃないし……」
パワーの問題よね。
巨人から目をそらさずに啓は頭に手をやって髪をとかす。思案しても、背負ったランドセルの中にはこれといって高エネルギーの基となる食料は持ってきていない。
「あぁもう。髪の毛ぐちゃぐちゃじゃない。どうしてくれるのよ」
通した手が髪に引っかかるのが気になった。
巨人はもうすぐそこまで来ていた。
打開策はない。
またも巨人は手を振るう。
今度ははっきりと見えた。ビルにその腕が突き刺さる前に隣の部屋の壁を蹴破って移動した。
次々と壁を蹴破って移動しながら啓はついにビルの端の部屋まで来た。背後からは突っ込んだまま壁ごと啓を追ってくる巨人の手。そのまま躊躇も見せずに外への壁を蹴り、立ち並んだビルの壁を駆け上がった。
屋上まで登ったときに腕の伸びが止まった。影でできてるといっても無尽蔵に腕が伸びるわけではないらしい。巨人は啓へと向きを変えてまたのそりと歩きだした。
「京。なにか打開策はないの?」
ビルの屋上で啓は、あまり頼りたくない相手に問いかける。とは言え専門家だ。
「こっちでも考えてるんだけど、何せこんなにでかいのは初めてだからね。敬ちゃんのほうでなにか気づいたことはない?」
モニターを見ながら京は答えた。今もしきりと何かを調べているようだ。
「問題は。やっぱり大きさね。とりあえず攻撃は入ってるんだと思うわ。あくまでエネルギーの問題。どれだけ力を溜めればいいのかはわからないけど、あれの再生力を上回る攻撃を一撃で出すことができればいいんだわ。でもそれも今のところアウト。そんな食べ物もってきてないからね。さっき一発もらったからこっちも大した攻撃ができそうにないと思うし……」
屋上の淵に立って巨人を見下ろしながら、冷静に、わかるだけの情報を京に伝えた。鼻を拭って血が止まったことを確認した。巨人はぎょろりと首を捻っている。啓を探しているようだ。
ふんふん。と、聞き流すように相槌を打つ京。数秒の沈黙の後に、あっ、と声を上げた。
「ふっふっふ。思いついちゃったー。一個だけ方法思いついちゃったー。でもなぁ、これすると啓ちゃん嫌だろうなぁ。でもなー時間もないしなー」
含み笑いを抑えながら、おもわせぶりに京は言ってきた。
想像するに、わかりやすい挑発だったが参考までに聞いてみることにしよう。啓は言い聞かせて、いい加減もったいぶる京に、ひくつくコメカミを抑えきれずに言い放つ。
「なにかあるなら早くして、時間はあまりないでしょう?」
「んー。いつになくやる気だね」
「やられっぱなしで終われないわ」
「そう? それもそうか。じゃあ思い切ってやっちゃおう。実はさっき言ってた新兵器の話なんだけどさ、丁度使えそうなのがあったんだよね。でもこれって結構強烈だから啓ちゃんは嫌うだろうなぁって」
一度言葉を区切って、京は続けた。どうやら席を立ったらしい。移動しながららしい足音を紛れ込ませながらドアを開ける音がした。
「今から飛ばすから見えたらキャッチしてね。カロリー満載だから、かなーりきついと思うけど、それならきっと何とかなると思うんだ。じゃ、いくよ? スイッチおん」
飛ばすってなに? と言い掛けた啓の声はさえぎられた。ヘッドフォンの向こうから轟音が耳をつんざいた。なにをしたのかよくわからないが、かなり重いものが動いているようだ。
「え? なに? よく聞こえない! そっちに着くのはすぐのはずだから空見てて!」
こちらから呼びかけるが、轟音にまぎれて必死に叫び声を上げる京に、反論できないまま言われたとおりに空を見上げた。
啓は感覚で、華王飯店の方角を見上げる。すぐに京の言っていた物はわかった。すすけた白い空に、その上空に星のように輝く一点の光が映っている。むしろそれは光速に近い速さで迫ってきている。
「キャッチして!」
耳奥で京が叫ぶ。
「ちょっ!!」
啓は戸惑いの声も上げることができずに、光に向かって跳躍した。光はこちらに向かってどんどんと大きくなっていく。
上空で、手に痺れを感じさせるほどの衝撃を――魔法で強化している状態でかなりの衝撃を――受けてソレを掴んだ。
落下しながら手に取ったものを見る。一見するとソレは水筒のようだ。啓が異空間に持ってきていた水筒とは少し形状が違って、全体が広く浅く、キャップ部、つまりカップになる部分が大きめにとられている。
間髪いれずにヘッドセットから再び京。
「飲んで! そのまま何でもいいから巨人に向かって攻撃して!」
やはり水筒らしい。飲み物が入っていると聞いて、言われるがまま、落下しながらの作業に思いのほか戸惑いながらもキャップを捻る。
巨人もその様子に気づいたようで落ちてくる啓に対して、腕を伸ばしはじめた。
ビルの屋上に着地してキャップをはずす。
ぎりぎりのタイミングで巨人の攻撃より早く行動に移れるはずだ。しっかりとコンマ秒単位で間合いを計りながら、啓が水筒の中身をカップとなったキャップに注いだ。そのまま勢いよく飲もうとして――
「臭いっ」
飲むのをためらった。
そのまま巨人に殴られた。
振り下ろされた手に押しつぶされるように、屋上の屋根に壮絶にめり込む。
ビルが破壊される音が、啓の骨が砕ける音を飲み込みながら、啓の体ごとビルを押しつぶす。
巨人の手はビルの中層まで深く刻み込まれ、そこでようやく止まった。その下では水筒を持った、正確には口にくわえた啓が中身をこぼさないようにしながらも、両手で支えるように巨人の攻撃を防いでいる。
何本か骨が折れたのを意識しつつ。水筒の、その中身が放つ、もはや悪臭といって良い臭いに耐え、そこからさらに周りを確認する。両手がふさがっていては飲むに飲めない。このままでは口元で水筒の縁をくわえるだけが精一杯で、どうにか状況を打開する必要がある。
再度状況を確認する。周囲を目を配らせる。
そして、なぜかそこに一美が。
襟島一美が。
同じクラスで、啓よりも小柄で、ちっちゃくてかわいくて、髪も黒くてキューティクル全開で、後姿を見ると女の子に見えそうな、ただし注意書きとして男の子の。
襟島一美が座っていた。
おびえた表情で――驚くことに、生きたまま。
あとがきです。純粋に作品に対するコメントを・・・。
前パート(3/10)が雑魚戦に対し、こちらはボス戦です。
私は比較的ゲームとか好きなので、ボスっぽいボスを考えながら書いてみました。圧倒的な力で迫るボスを文章から読み取ることができれば幸いです。そしてその決着をつけるために啓がとった行動とは!?ってねw
ところで今までUPは原稿用紙20枚分書いたらするとなんとなく決めてやってました。がしかし、今回は多いです。23~24といった感じです
本来ならこのあとさらにボス戦の決着まで乗せるつもりでしたけど、それだとさらに一度にUPする量が増えるので、あやうく終わりが見えなくなりそうになりました。そういう意味でのサブタイトルにぷらすアルファですね。規定の文量のなかに収めるのってほんと難しいです。言葉を選んで少なくすると薄く感じるし、かといってだらだら書くわけにもいかず。。。。え?文を選べる立場かって?そういうことは棚にでもほおり投げていきましょうw
次回はボス戦の最終決着と啓の日常編です。新たな展開へと進む啓ですが無事魔法少女を続けながら学園祭を乗り切ることができるんでしょうか。
そうそうこれってギャグ系小説を目指して書いてるんだった・・・・どうしよう・・・・