王太子妃候補を辞退したら
「王太子妃候補を辞退したいと思っております」
「……え?」
私、ユラリナ・ホッカードが告げた事に王太子であるセリオ・ミュッドナイト殿下は呆気に取られていた。
「ユ、ユラリナ嬢、僕は君に何かしてしまったのか?」
「いいえ、殿下は優しくしてくれて私の他愛の無い話に耳を傾けてくれて感謝しております。 辞退するのは完全な自己都合ですわ」
私はそう言ってお茶を一口飲んだ。
セリオ様の婚約者候補に選ばれて1年が経過、他の候補者と共に切磋琢磨しながら過ごしていたがそろそろ潮時なんじゃないか、と思った。
「その、理由を聞かせてくれないだろうか? 両親とも相談しないといけないし……、候補を辞退する令嬢なんて初めてだから……」
セリオ様は真面目で優しい方だ、こうして私にも付き合ってくれるのだから。
「……理由は王太子妃になるつもりがそもそも無いからです」
「……え?」
本日2度目のポカーンをいただきました。
「私が候補になったのはお父様が強引に入れ込んだだけです」
「公爵が?」
「はい、お父様は私に『必ず王太子妃になれ、それまで家に帰って来るな』と言われました。 まぁ元々お父様もお母様も私に関心はありませんし出世のための道具としか見ていませんから」
「それは酷いな……、『子供は国の宝であり愛情を持って接し育てなければならない』と法律にも明記してあるのに」
「でも、実際は王族と繋がる為にはルールなんて守らない者がいるのも確かです、他の候補者もアピールするのに必死になってるじゃないですか。アレは自分の未来がかかっているからなんです」
「ユラリナ嬢は必死じゃないのか?」
「私はとうの昔に親の愛を諦めました。 というか貴族社会自体に嫌気がさしておりました」
「そこまで我が国の貴族はダメなのか?」
「えぇ、大部分の貴族は自分の為にしか考えておりません。 国の事を考えているのは平民の方が多いですよ」
領地の人達は生活を良くする為に考えていますから。
「それで……、辞退した後の事は決めているのか?」
「はい、家から除籍してそのまま平民として暮らしていくつもりです。 その為の準備として必要な知識を得る為に王太子妃教育を受けてきたので、そろそろ潮時かなと思いました」
「そうか……、ユラリナ嬢は将来を考えているんだな、君と話していると僕が周囲に流されて生きている事に気付かされるよ……」
「そんな立派な人間ではありませんわ。 私だって自分の為にセリオ様を利用させていただいたんですから」
「いや、不愉快では無いし悪い気はしないよ……、両親には上手く話しておくよ」
「ありがとうございます」
私はそう言ってお辞儀をした。
その後、私の辞退は正式に許可され王宮を後にした。
そのまま役所に行き除籍届を出して私は晴れて平民になった。
そして王都から離れた小さな街に移り住んだ。
とある商会で働き1年後には自分の店を持つ事が出来た。
ちょっとは忙しいけどゆっくりと時間が過ぎ去っていった。
時々、セリオ様の事を思い出す。
そういえば王太子妃が誰になったか、なんて話は私の耳には入ってこない。
そんな中、私のお店にとあるお客様がやって来た。
入ってきたその人の顔を見て驚いた。
「やぁ、久しぶりだね」
「セ、セリオ様っ!?」
現れたのはセリオ様だった、しかも平民の格好をした。
「な、何故ここに? それにその格好は?」
「あぁ、王太子を辞めてきたんだよ、ついでに王家からも籍を抜いたんだ」
「えぇっ!?」
今度は私が呆気にとられていた。
「あの後、色々考えて両親とも話して『王太子に向いてない』という結論になってね、王太子の座は弟に譲ってきたよ」
「えっ、それって私が原因で……」
「いやいや、ずっと違和感はあったんだよ、それがユラリナ嬢と話してハッキリとしただけなんだ」
この町に来るまでに国内を旅していたらしい。
「実際に自分の足で歩いてみて自分が見てきた物が一部でしかない事に気付かされたよ」
王太子時代と違って表情がイキイキしているセリオ様を見て、今がきっと充実してるんだろうな、と思った。
その後、セリオ様もこの町に住む事になり私の仕事を手伝いして貰うようになり気付いたらお付き合いする様になっていた。
因みに元実家を含んだ一部の貴族が監査を受け厳重注意をくらったそうだ。
『子供は道具ではない、意志を尊重せよ』と国王様からお言葉をいただいたそうだ。
少しだけ胸がスッキリした。




