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余命7日の少女

作者:
掲載日:2026/02/23

人の心なんて分からない。

『愛してる』

そんな言葉なんて絶対に上っ面の物じゃないって言い切れる理由なんてない。

人は簡単に嘘をつく。

俺たちはそれに気づけない。

だから、愛なんて幻想なんだ。


俺は俳優をしている。

理由は顔が良かったから。

夢もなかったし、金を稼ぐためになんとなくで始めたら案外上手くいった。

でも、ファンからの応援が本当の愛に見えたことなんてなかった。

そもそも、これまでの人生で俺への愛が俺の心を満たした事は一度もなかった。

きっと、俺は歪んでる。

捻くれてる。

だけどどうする事もできないんだ。

俺はこんな冷たい心で世界を見渡す事しかできない。


いつも通り家に帰ろうとした。

でも、誰かが俺の口に何かを当ててそのまま俺を持ち上げ車に乗せられた。

その後、無理矢理薬か何かを飲まされて意識を失った。


目覚めた場所は見慣れない部屋。

アパートの一室ぐらいの、人1人が生活するのに最低限の広さの部屋だった。

その隅にベッドが設置されていて、誰かが寝ていた。

少女だった。

「あぁ、起きたの?」

「…誰?」

最初に抱いた思いは俺が最初に言った言葉と同じだった。

「あなたは有名な俳優さんよね?」

「だから、お前は誰だ?」

「名前なんて意味ないでしょ。私はただの女の子」

こいつは10代後半くらいの見た目だ。

その割には大人びている。

「なんで、俺はこんなところにいる?」

「私の世話をして欲しいの」

「はぁ?なんでそんな事…」

「大丈夫、一週間で終わるから」

「一週間?」

「そう、私の余命」

「…!?」

とても、驚いた。

余命が7日しかない事もそうだが、こいつがこんなにもそれを感じさせなかったから。

その時はただ強がっているだけだと思っていた。

「私ね、あなたに一目惚れしたの。だから、好きな人に看取って欲しいの。安心して、あなたの好きなお金はちゃんと払うから」

「…随分とお嬢様なんだな」

「まぁね」

「ちっ、分かったよ」

「よろしくね」

こんな俺にも人の心はあった。

冷たく突き放そうにも、俺はそこまで冷酷になりきれなかった。

こいつに無理矢理連れられた身でこいつの事を憐れむ心が俺に善行をさせるのだ。

「…何をすればいい?」

「あら、聞いてくれるのね。あなたみたいな人は素直に聞かないと思ったけど」

「うるさい、とっとと言え」

「はいはい。あなたにはね私のお世話をして欲しいの」

「はぁ?」

「だって私はこんなに病弱なのよ?か弱いのよ?世話をしてくれないと困るじゃない」

「俺には、あんたがあと7日で死ぬとは思えんがな。嘘でもついてんじゃないのか?」

「これが嘘でも、あなたへのお金は嘘じゃないわ」

「ちっ!分かったよ」

「あ!あと、ちゃんと私のお願いを聞いてね?」

「…はいはい」

抗議したい気持ちはあったが、もう面倒くさかった。

「じゃあまずはご飯を作って?」

「ご飯?何を?」

「お粥」

「随分と質素だな」

「もうそれしか喉を通らなくて…」

「…」

時々こいつが見せる弱みが俺の脳みそを一瞬硬直させる。

調子が狂う、そんな感じだ。


「…できたぞ」

彼女の元にお粥を持っていった。

「ほら、食え」

「食べさせて?」

「なんで俺がそんな事…!?」

「ほら、私の言うことは聞かないと」

「あぁ、もう分かった!」

俺はスプーンで米を救って彼女の口まで持っていった。

それを彼女は口に入れる。

少し咀嚼して飲み込んだ。

「ありがとう」

そうして、しばらく食べさせていった。


ようやく、器の中が空になった。

しかし、あまり長いように感じなかった。

途中からずっと沈黙が続いて、繰り返される単純作業のせいで夢の中にいる気分だった。

「食べ終わったか」

「…ご馳走様、もう眠くなっちゃった」

「さっさと寝ろ」

俺は食器を片付けながらそういった。

「あなたの寝るとこはそこのソファ、嫌ならここで寝てもいいわよ?」

そう言って彼女は自分のベッドを叩いてみせた。

「嫌だね、それだったらソファの方が100倍マシだ」

「ひどーい。あ、そうだ」

「…?」

「おやすみのギューをして」

彼女は両腕を広げて、こちらを待っている様子だ。

「は…?」

「お願いよ?」

「…っ!」

俺は仕方なく、彼女を抱きしめた。

「暖かい?」

彼女の体は痩せ細っている。

温もりは微かに感じられる程度だ。

「全然…」

「そう…じゃあおやすみ」

「…」

俺は返事をせずにソファに寝転がった。


俺は一体なんでこんな事をしている?

ここに来たのはあいつに無理矢理連れられたからだ。

俺は、あいつの懇願を断ればここから出してもらえたのか?

本当に意味がわからん、もう色々と…


朝日が目に差し込んできて、目が覚めた。

「朝か…」

ベッドの方を見ると、彼女はまだ寝ていた。

「今、何時だ?」

この部屋には時計がないみたいだった。

カレンダーもなかった。

「…」

「…はぁ、起きてたの?」

彼女が起きたようだ。

「寝ていればよかったのに」

「ひどい事を言う人」

「…やっぱり、死ぬのは怖いのか?」

「まぁ、そうじゃないと言えば嘘になるね」

「…なぁ、本当に俺に一目惚れしたのか?」

「どうして?」

「…俺だったらこんな時に恋愛なんて出来ないね」

「それは君だからだよ。…でも、そうだ、そうだよ。私は君に一目惚れなんてしてない」

「じゃあなんで…」

「テレビで見た君が愛なんて知らなそうに見えたから」

「はぁ…?」

俺は心の底から怒りが湧き上がってきた。

「ふざけるな…!」

なんでそんな事でこんな所に連れてこられなくちゃならない。

なんで余命が7日しかないこんな子供に哀れみの目を向けられなければならない。

なんでこいつが俺に偉そうな態度を取れる?

こんな奴が俺の何を知ってる?

「ふざけるな…!」

「もう、それこそ無いに等しい命だ。私がしたいと思った事をやるよ。君の心を考えるなんて事はしない。ただの私の自己満足だ」

「帰らせろ!」

「いいの?お金も貰えないよ?」

「そんなもんいらねぇ!テメェの世話なんかをするよりマシだ!」

「…私なら君に、君だけのために愛情を注ぐ事ができる」

「…そんなの」

「君は、今、何を持っているの?」

「っ!」

言葉が…

どうにか自分の持ち物を探すけど、出てきたものは全部紙切れのように見えた。

「…俺はテレビでそれなりに人気だ、お金だって…お前なんかに貰わなくたって…」

俺はなんの価値もない紙切れを、さも貴重なもののように見せるしかなかった。

しかし、そんな事は簡単に見透かされた。

彼女はよく見ていた。

「違うよね?君は何も満足してない。ずっと心の中が空っぽなんだ。ねぇ、本当にいいの?ずっとこんな空虚な心のまま人生を終えて」

「そんなこと…」

「…そうやってずっと逃げるんだ」

こいつの言葉は俺の心にどんどん漬け込んでくる。

それは全然優しいものじゃなくて、俺の腹の中を針でグサグサ刺してくる。

「…」

「誰かが持っている素晴らしいものは、きっと自分も欲しくなる。あなたもそうでしょ。愛が欲しいんだよね?」

俺は、ずっと愛を否定してきた。

でも、きっとそれは手に入らないものを追い求める苦しさからの逃避だったんだ。

「…教えてくれ」

「何を?」

やはりこいつは性格が悪い。

「言わなくてもいいだろ」

「はぁい、分かってますよ。じゃあ引き続き私のお世話をよろしく」


「7日って長いようで短いのよね」

彼女はふとそんな事を言った。

「そうか?気にした事はなかった」

「だって、あと5日で私死ぬのよ?」

「それを気にしないようにカレンダーを置かなかったんじゃないのか」

「日が落ちて上がる回数数えれば、そんくらい分かるわよ」

「そうだけど…」

「私の余命はそんだけ短いんだから、しっかりと丁重に扱いなさいよ」

「ケッ」


「お前は俺に愛を教えたいって言うけど、お前はどうなんだよ」

「何が…」

「誰かに愛されたことなんてあるのか?」

「ないかも、両親はずっと前に死んだし。それで残されてる遺産で生活してるだけだったしね」

「それで俺に愛なんて教えられるのか?」

「だから私たちで育むんでしょ?」

「…」

「は〜い、私の勝ち〜」

「何の勝負だ」


「ねぇ、頼みがあるんだけど」

「なんだ?」

「その、接吻を…」

「ぁ?」

「…させてもらえないかと」

珍しくこいつが照れてる。

「…はぁ、分かったよ」

「わぁ、流石俳優!経験豊富かな?」

「やらんぞ」

「ごめんなさい、お願いします」

俺は彼女とキスをした。

かなりあっさりと、前置きとかなく、淡々と。

少しの間触れ合ったまま動かなかった。

そうして、唇を離す。

彼女は息を忘れていたようだ。

「…あ、ありがと」

彼女はそうして毛布に顔を沈めた。

「これじゃどっちが愛を教えるか分からんな」


今日は6回目に太陽を見た。

彼女の調子はどこか悪そうだった。

「やぁ…起きたのね…」

そんな風に交わす言葉、いつもと違うのはすぐに分かった。

これでも6日こいつと過ごしてるのだ。

「大丈夫か?」

「わ、私の命は、もう、ないみたい」

「最後まで諦めるな」

「…あなたが、そんなこと言うなんて、ね」

「残念だが、このままだと俺は愛を知らないまま終わりそうだぞ」

「そう、しょうがないわね。短い間じゃ君に…愛なんて…」

彼女はかなり辛そうだ。

「もう寝てろ」

「うん」


彼女の顔色は青白く生気を感じられない。

きっともうすぐ死ぬだろう。

「結局、少しの間世話をしただけの仲だったな」


7日目

変わらず、彼女は具合が悪そうだ。

もう改善なんてしないだろう。

「…死ぬのね」

「あぁ」

「私、天国行けるかな?」

「さぁな」

「…ねぇ、最後にいい?」

「なんだ?」

彼女の最期の言葉くらい聞いてやろうと思った。

彼女は微笑んだ顔を見せた。

「…君を愛してる」

弱々しくも確かにそう言った。

「は…?」

俺の奥底にある、何かが目覚めた。

そして、それは急激に膨張した。

「おい、死ぬな…」

もうそれは歯止めが効かない。

「死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな!」

彼女のもう余熱しか残っていないような手を握りしめた。

「あぁ、愛してる人に…こんな顔で見送って貰えるなんて…なんて幸せ…」

彼女は息絶えた。

「ふざけるな、まだ俺は何も…!」

俺はもう取り返せない物に縋りついた。

彼女は安らかな顔をしていた。

命を失っているのに、全てを手に入れたような顔をしている。

なんで…

なんで、俺は愛を知ったのに…

俺は結局、空っぽのままだ。

いや、俺は失ったんだ、今、こいつを。

愛を知ったのに…知ったから失ったんだ。

そうして俺は気づいた。

俺はこいつに作り変えられたんだ。

こいつを俺が愛せるように、愛を教えた。

なんて…なんて…残酷な事を。

こいつはきっと地獄に落ちる。

もう、これじゃ…

これじゃ、普通に生きていけないじゃないか…


あれから何日か経った。

銀行の預金通帳を調べると大金が振り込まれていた。

誰がやったのかは分からなかったけど、もうどうでもよかった。

俺は俳優を辞めた。

もう金を稼がなくても生活には困らない程の大金を手に入れた。

それにやる気なんて出なかった。

あいつは俺に愛を教える代わりに他の全てを持っていった。

もう一つだけ与えられたのは人間が崇める紙切れだけだった。

多分、この金と引き換えにあいつを蘇らせられるならそうするのだろう。

出来ないけど。

…この世界がどうでもよく感じる。

昔から味が薄かったけど、今ではさらに空虚に感じる。

俺の頭の中に自暴自棄になって大勢の前で暴れてやろうっていう考えが少し巡ったが、すぐに消えた。

単純に俺に残された倫理観がそうさせなかったのもあるが、この世界にそんな価値すら見出せなかった。

…参ったな、これでは天国に行ってしまう。

……

………

この世界で生きる意味はあるのだろうか?

おそらく俺はあいつ以上の人を見つけるなんて出来ない。

俺の心を縛り付けて離さない。

一生この苦しみを背負うくらいなら…いっそ…

…そう言えばこうしたら地獄に行けるんだっけ。

そう決心してからは早かった。

「君にまた会いに行くよ…」

……………ブツッ

この作品を読んで頂きありがとうございました。

少しでも皆さんの心の中に残ったのなら幸せです。

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