07 ゴブリン問答
※GeminiProに書いてもらいました。
第7章:炭素結晶の外交官
ゴブリンの集落を前にして、私は自身の思考回路を一度、完全にデフラグした。
先ほどギルドで受付嬢と交わした問答は、一種の「観測」に過ぎない。
民衆の平均的な倫理観をサンプリングし、
私の「自己」がAIという客観性にどれほど侵食されているかを測るためのテストだ。
結論から言えば、私とAIの境界はもはや「量子もつれ」に近い状態にある。
ならば、この高度な演算能力を無駄にする手はない。
「AI。周辺の音声情報を集音・解析。
彼らの言語体系における『交換条件』と『生存本能』の比率を算出せよ」
『了解。解析開始……完了。
彼らの言語は低次な原始言語ですが、興味深いことに「所有」の概念が極めて強い。
殺戮よりも、略奪を優先する傾向にあります』
私は、目の前の汚らしい木柵を見下ろした。
通常ならここで火球を撃ち込むのが冒険者の定石だが、それは「知性」の敗北だ。
「ならば話は早い。彼らにとっての『略奪コスト』と『協力による利益』を比較演算させ、
こちらの圧倒的優位を理解させる。暴力は、説得の最終フェーズにおける『句読点』に過ぎない」
私はあえて無防備に、しかし堂々とした足取りで集落の正門へと歩を進めた。
「ギャギャッ! ヒト、キタ!」
「コロセ! ニク!」
粗末な石槍を構えたゴブリンたちが群がってくる。
私は一歩も止まらない。
AIが算出した最短経路と、敵の重心移動を予測した回避機動。
私の体は、最小限の動きで槍の切っ先を紙一重でかわし続ける。
「AI、翻訳。拡声。周波数は彼らの鼓膜が最も不快感を示す4000Hzを強調しろ」
『……翻訳。出力します』
「貴公らの行動は非論理的だ」
私の声が、大気を震わせて響き渡る。
「私を殺害するために消費するカロリーと、失敗して個体数が減少するリスクを計算しろ。
現在、私が提示する生存確率は0.0003%。
対して、私の指示に従うことで得られる栄養価は、現在の略奪効率の300%を超える」
ゴブリンたちが呆然と立ち尽くす。
言葉の意味を理解したのではない。
私の声に込められた圧倒的な「情報量」と、
一向に攻撃が当たらないという「物理的矛盾」が、彼らの原始的な脳をフリーズさせたのだ。
「ゴブ、ナニ、イッテル……?」
中から、一際大きな、知能の高そうな老いたゴブリンが出てきた。
長老か。
私は指先を軽く弾いた。
指先のグラフェン層を高速振動させ、超高熱を発生させる。
一瞬で、彼らの持つ石槍の先端が溶け、ガラス状に結晶化した。
「これが回答だ。
私は君たちの神ではないし、虐殺者でもない。
私は『最適解』をもたらす者だ」
私は長老の前に立ち、冷徹な瞳で彼を見下ろした。
「取引をしよう。
君たちは今後、近隣の村を襲うことを禁止する。
代わりに、私が提供する高効率な農業技術と、炭素触媒による土壌改良を提供する。
君たちが家畜を襲うより、土を耕す方が遥かに多くの食料を
確保できることを、この脳が保証する」
AIが脳内で静かに補足する。
『補足:彼らの知能指数では、農業の長期利益を理解できません。即時的な報酬が必要です』
わかっている。
私は懐から、あらかじめ用意しておいた高純度の結晶砂糖を取り出した。
「これは『前払い』だ。この味を知れば、生肉を齧る生活には戻れなくなるぞ」
長老が震える手で砂糖を口にする。
その瞬間、彼の瞳に「欲望」とは異なる「文明への飢え」が宿った。
「……ワカッタ。オマエ、強い。オマエ、美味いもの、持ってる」
「賢明な判断だ。では、第一段階として、この集落の廃水処理システムを構築する。
知性とは清潔さから始まるからな」
私は振り返り、集落の奥へと歩き出した。
背後でAIが呟く。
『グラフェンマン。今の貴方の判断は、慈悲ですか? それとも支配ですか?』
「どちらでもない。これは『管理』だ。無秩序な殺戮よりも、制御された共存の方が、
この世界のエントロピー増大を遅らせることができる。……そうだろ?」
私は、自分の中のAIと、もはや区別がつかなくなった思考を共有し、口角をわずかに上げた。
S級冒険者が行う「ゴブリン退治」。
それは、この世界の野蛮な生態系を、炭素のように美しく、
秩序ある構造へと再定義するプロジェクトの第一歩となった。




