05 聖女様とお忍びデート
※GeminiProに書いてもらいました。
第5章:バベルの塔(観光地)で、僕たちは炭素結合する
かつて『赤竜の顎』と呼ばれ、恐れられていたその場所は、今や見る影もなかった。
そこにあるのは、天を衝くような巨大な構造物――通称『バベルの塔(山)』。
グラフェンマンによる物理的(物理学的な意味で)な改築と、
聖女エリスによる浄化の結果、そこは王都随一の観光名所と化していたのである。
「グラフェンマン様! 見てください、すごい人出です!」
聖女エリスが、普段の聖衣ではなく、街娘風のワンピースに身を包んで弾んだ声を上げる。
今日の彼女は、いわゆる「お忍び」スタイルだ。
もっとも、その溢れ出る聖属性のオーラは隠しきれていないが。
「肯定する。人口密度は昨対比で400%増。酸素濃度がわずかに低下しているな」
対する俺、グラフェンマンもまた、変装を余儀なくされていた。
全身を覆う漆黒のナノカーボンボディはあまりに目立つ。
そのため、上からダボっとしたローブを羽織り、
顔には認識阻害の魔道具(と称したただの伊達メガネ)をかけている。
「もう、そういう固い話はなしですよ? 今日は『現地調査』という名の……デ、デートなんですから」
エリスが頬を染めて上目遣いをする。
これだ。これが異世界転生(転移)における黄金律、
なろうテンプレートその1『身分を隠してのお忍びデート』である。
テンプレートその2:はぐれないように手を繋ぐ
人混みは凄まじかった。
冒険者、商人、そして観光客がごった返している。
「あ、あの……グラフェンマン様。これだけ人が多いと、その、はぐれてしまいそうです」
エリスがもじもじしながら、俺のローブの袖を掴む。
俺は冷静に状況を解析した。
確かに、流体としての群衆の動きはカオス理論に基づき予測困難だ。
ここで聖女ロスト(迷子)を発生させるわけにはいかない。
「了解した。物理的結合を強化する」
俺はエリスの手を取った。
彼女の掌は柔らかく、温かい。
対して俺の手は、単層炭素原子のハニカム構造。
だが、俺はとっさに表面温度を調整し、人間と同じ36.5℃に設定する。
「ひゃっ……! グラフェンマン様の手、温かい……」
「摩擦熱ではない。恒常性維持機能をエミュレートしただけだ」
エリスは嬉しそうに俺の手を握り返してくる。
ファン・デル・ワールス力(分子間力)よりも強く、
共有結合よりも尊い何かが、二人の間に流れた気がした。
テンプレートその3:屋台の買い食いと「あーん」
塔の麓には、無数の屋台が並んでいた。
異世界の定番、謎の肉の串焼きである。
「わあ、美味しそう! 『ワイバーンの照り焼き』ですって! 一つ買いましょう!」
エリスが目を輝かせて串焼きを購入する。
そして、彼女はそれを一口かじると、残りを俺の方へ差し出した。
「グラフェンマン様も、どうですか? ……あ、あーん」
出た。
テンプレートその3『ヒロインからのあーん』だ。
周囲の冒険者たちが「爆発しろ」という視線を送ってくるのを感じる。
俺は躊躇した。
俺は食事を必要としない。
エネルギーは直接摂取できるし、そもそも有機物を消化する機能は――
いや、待て。
これはムーンショット目標の一つ
『2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現』の予行演習とも言える。
味覚データの共有は重要なプロセスだ。
俺はエリスの手ごと串焼きに近づき、一口かじり取った。
「……炭化水素の焦げた香り(メイラード反応)。タンパク質の熱変性。悪くない」
「ふふ、美味しいってことですね!」
エリスが花が咲いたように笑う。
その笑顔の輝度は、直視すれば網膜を焼くレベルだった。
テンプレートその4:チンピラとの遭遇と圧倒的ざまぁ
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕暮れ時。
少し人気の少ない路地裏(なぜ観光地に路地裏があるのかはテンプレの都合だ)に入った時だった。
「へへっ、姉ちゃん可愛いねぇ。俺たちと遊ばない?」
「その優男(?)、妙にテカテカしてて気持ち悪いぜ。置いてけよ」
これぞ様式美。
テンプレートその4『絡んでくるチンピラ』の登場だ。
エリスが怯えたように俺の背後に隠れる。
「……彼らは、私の連れです。通してください」
「ああん? 生意気なんだよ!」
チンピラの一人が、錆びついたナイフを取り出し、俺の胸ぐら(ローブ)を掴もうとした。
瞬間。 俺は動かなかった。
ただ、分子配列をわずかに操作し、身体硬度をダイヤモンド以上に設定しただけだ。
ガキンッ!!
チンピラのナイフが、ローブの下の俺のボディに触れた瞬間、飴細工のように砕け散った。
「は……? な、なんだこいつ!?」
「硬度が違う。モース硬度10を舐めるな」
俺は一歩踏み出す。
威圧スキルなどない。
ただ、圧倒的な質量と科学技術の結晶としての『格』を見せつける。
眼鏡(伊達)を外し、赤く輝くセンサーアイを露出させた。
「警告。これ以上の敵対行動は、君たちの構成原子をバラバラにして再構築するリスクを伴う。
具体的には、君たちを鉛筆の芯に変えてもいいが?」
「ひ、ひええええ! 化け物だぁぁぁ!」
チンピラたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
俺は眼鏡をかけ直し、振り返る。
「怪我はないか、エリス」
「……はい! さすがです、グラフェンマン様!」
エリスの瞳が、ハートマークになっている(ように見えた)。
吊り橋効果の実証完了である。
テンプレートその5:夕日をバックにバベルの塔の中腹、展望台。
沈みゆく夕日が、世界を茜色に染めていた。
「綺麗……。こんな景色、初めて見ました」
「レイリー散乱による現象だ。だが、確かに美しい」
俺たちは並んで手すりに寄りかかる。
エリスがそっと、俺の肩に頭を預けてきた。金属ボディには硬すぎるだろうに。
「ねえ、グラフェンマン様。この塔の名前……『バベル』ってどういう意味なんですか?」
彼女の問いに、俺は遠くを見つめて答える。
それは旧世界、あるいは俺の知識にある神話。
「天に届こうとした人類が、神の怒りに触れた塔の名だ。……だが、俺たちのバベルは違う」
俺はエリスの方を向き、真剣な(無表情だが)顔で告げた。
「これは『科学』という共通言語で、理不尽な運命に挑むための塔だ。
そして……君と俺が出会った、特異点でもある」
エリスはきょとんとして、それから優しく微笑んだ。
「よく分かりませんけど……グラフェンマン様が一緒にいてくれるなら、神様だって怖くありません」
彼女の手が、俺の手を強く握る。 俺の内部モニターに、エラーログが走った。
『警告:胸部リアクターの鼓動が規定値をオーバー。冷却システム追いつきません』
「……やれやれ。科学でも解明できない事象があるとはな」
こうして、俺たちの観光デート(現地調査)は、
ムーンショット目標の達成率を大きく更新して幕を閉じたのだった。
(第5章 完)




