04 聖女様の悩み「火山噴火」
※GeminiProに書いてもらいました。
第4章:熱力学への反逆と、天を衝く黒き塔
「……はぁ。困りましたわ」
聖女エリスは、王城のテラスで深いため息をついた。
その視線の先、遥か彼方の山脈から、不穏な黒煙が立ち上っている。
「このままでは『赤竜の顎』が噴火してしまいます。
あそこには封印された古代の炎熱エネルギーが溜まっていて……一度噴火すれば、
麓の街どころか、この王都まで灰に埋もれてしまうでしょう」
彼女は誰に言うでもなく、独り言のように呟いた。
その美しい横顔には、世界の命運を背負う悲壮感が漂っている。
だが、チラリと横目でこちらの様子を窺っているのを、俺のセンサーは見逃さなかった。
(……なるほど、そういうことか)
俺――グラフェンマンは、炭素原子の結合強度を確認しながら頷いた。
彼女は俺に「助けて」とは言わない。
ただ「困っている」と言うだけだ。
だが、それは明確なタスク提示だった。
「エネルギー収支の問題だな」
俺はテラスの手すりに足をかけ、解析バイザーを展開する。
遠くの火山から放射される赤外線量、地殻の振動データ、
そして大気中のマナ濃度。
全てが臨界点を示していた。
「えっ? グラフェン様、何か仰いました?」
「火山噴火。つまりは地殻内部の圧力と熱エネルギーの暴走だ。単純な物理現象に過ぎない」
「た、単純な……? あれは古の災厄ですよ?」
「対策は可能だ。俺が請け負おう」
俺はインベントリから、先ほど完成させたばかりの“棒”を取り出した。
***
現場上空、高度三千メートル。
俺は反重力グラフェンボードで空中に静止し、眼下の火口を見下ろしていた。
マグマ溜まりは限界を迎え、今まさに地殻を突き破ろうとしている。
「さて、実証実験といこうか」
俺が手にしているのは、一見するとただの透明な柄だ。
だが、その内部構造は極小のグラフェン回路で埋め尽くされている。
コンセプトは『環境エネルギーの再帰的利用』。
「起動」
俺が柄を握り込むと、周囲の大気が瞬時に凍りついたかのような静寂に包まれた。
直後――バチチチチッ!!
透明だった刃の部分に、青白い雷光と暴風が収束し、半物質状の刀身を形成する。
【神造兵装・試作型:対環境制御剣『事象の編纂者』】
風相: 周囲の空気を強制吸引し、超高速の渦を形成。
雷相: 渦の摩擦と大気中の魔力を変換し、プラズマ化。
循環相: 発生したエネルギーを核へ戻し、指数関数的に出力を増幅。
「システムオールグリーン。循環効率、想定の4000%。……少し吸いすぎだな」
周囲の雲が渦を巻き、俺の手元へと吸い込まれていく。
髪の毛が逆立つほどの静電気が空間を支配していた。
この剣は、振るうだけで世界を削る。
だが今回の目的は破壊ではない。「建設」だ。
「さあ、あふれ出るなら利用させてもらおう」
ドォォォォォォン!!
ついに火山が咆哮を上げた。
灼熱のマグマが火口から天に向かって噴出する。
その熱量、推計数億ジュール。
「排熱処理開始」
俺は剣を真下――噴出するマグマの奔流へと向けた。
「奥義――『雷風乖離・天裂きの相』」
剣先から、螺旋を描く暴風と雷撃が放たれる。
それは破壊の光線ではない。「型枠」だ。
俺は噴出するマグマを、風の渦で強引に包み込んだ。
行き場を失ったマグマは、横に広がることを許されず、
風のチューブの中を通って真上へと吸い上げられる。
「熱いか? なら冷やしてやる」
剣が唸りを上げる。
マグマが持つ莫大な熱エネルギーを、剣が「燃料」として吸収したのだ。
奪われた熱は剣の内部で電気エネルギーに変換され、
さらに強力な「冷却風」となってマグマに吹き付けられる。
熱を奪われ、急速に冷却されたマグマはどうなるか?
答えは単純。「石」になる。
「パラメトリック・モデリング、実行」
噴き上がるマグマは、空中で瞬時に冷え固まり、黒曜石の柱となって形成されていく。
下から次々と押し出されるマグマが、その柱をさらに高く、高く押し上げていく。
本来なら周囲を焼き尽くすはずの災厄が、俺の制御下で「建築資材」へと変わっていた。
「循環係数、安定。熱力学第二法則へのささやかな抵抗だな」
俺は剣を指揮棒のように振るい、吸い上げたマグマの形状を整える。
風の刃で余分な岩石を削ぎ落とし、雷の熱で表面を滑らかに溶接する。
火山の噴火エネルギーそのものを利用し、噴火そのものを蓋として利用する。
毒を持って毒を制す、あるいは、爆発力で爆発を抑え込む矛盾の具現化。
やがて、振動が止まった。
地脈のガス抜きは完了し、過剰なマグマはすべて地上へ引きずり出され、固定された。
***
「……な、なんですか、あれは……」
後日、現地を視察に訪れた聖女エリスは、言葉を失っていた。
かつて火口があった場所には、天を衝くような巨大な黒い塔がそびえ立っていたからだ。
高さ数千メートル。
冷却されたマグマと火山灰が、風と雷によって緻密に圧縮・成形された、天然素材による摩天楼。
その形状は、まるで神話に語られる『バベルの塔』のように螺旋を描き、
禍々しくも神々しい光沢を放っている。
「冷却効率を最大化するために表面積を稼ぐ構造にしたら、こうなった」
俺は塔の頂上で、完成したばかりの展望台(元マグマ)をコツコツと叩いた。
「内部は空洞にしてあるから、熱循環発電所として再利用できるぞ。
これでこの国のエネルギー問題も解決だ」
「グラフェン様……」
「ん? 礼ならいい。素材の強度が予想以上に高くて、いいデータが取れた」
エリスは引きつった笑みを浮かべ、震える声で言った。
「災害を止めろとは言いましたが……誰が、新しい魔境を作れと言いましたか……?」
どうやら、彼女の美的感覚には少し早すぎたようだ。
俺は肩をすくめ、剣の出力をオフにした。
手に残る微かな熱――それが、世界を書き換えた余韻のように感じられた。




