選択
ギルド併設の酒場は、いつも通りのざわめきに包まれていた。
木製のテーブル、少し薄い酒、雑多な笑い声。
それなのに、レイの頭の中だけが、妙に静かだった。
高司祭の言葉が、まだ胸の奥に沈んでいる。
魔王の正体。
人類の過去。
聖堂の役割。
どれも現実感がなく、それでいて重かった。
「……考えすぎよ」
先に口を開いたのは、フィーネだった。
杯を置き、まっすぐレイを見る。
「全部を理解しなくていい。
少なくとも、今のあなたが背負う話じゃないわ」
「そうだな」
ブロムも頷く。
「俺たちは冒険者だ。
世界の仕組みを決める立場じゃねぇ」
カイは、少しだけ間を置いて言った。
「それにさ。
あんたは、ちゃんと自分で選んで戦ってきた」
その言葉に、レイは顔を上げた。
「誰かに命令されたわけでも、
流されただけでもない」
「……それだけで、十分だと思う」
しばらく、誰も喋らなかった。
酒場の喧騒だけが、耳に入る。
やがて、レイはゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとう」
今までの自分は、何者でもなかった。
ただ、巻き込まれて、流されて、戦ってきただけだ。
けれど――
それでも、ここまで来たのは事実だ。
この世界で。
この時代で。
冒険者として、生きてきた。
「俺は……これからも冒険者でいる」
声は小さかったが、迷いはなかった。
「世界がどうであれ、
俺は俺として、この世界で生きる」
派手な理想はない。
勇者にも、救世主にもなれない。
それでも、自分の足で立ち、選び、進む。
それが、今の自分にできることだ。
*
翌日、冒険者ギルドでその決意を裏打ちする話が舞い込んだ。
「レイさん。こちらをご確認ください」
受付嬢から差し出された書類には、見覚えのある署名があった。
――エドガー・クロウリー。
内容は簡潔だった。
上級冒険者への推薦。
条件付きではあるが、昇格試験を受ける資格が与えられている。
「……推薦、か」
実感は薄い。
だが、これまでの戦いを思えば、不思議でもなかった。
「なお、昇格試験はパーティ単位での受験も可能です」
その言葉に、レイは振り返る。
フィーネ。
カイ。
ブロム。
迷う理由は、なかった。
「一緒に、受けてほしい」
ブロムは即座に笑う。
「今さら何言ってんだ」
フィーネは静かに頷いた。
「当然でしょ」
カイも肩をすくめる。
「ここまで来て、別行動なんてない」
レイは、小さく笑った。
これが、自分の選んだ仲間。
これが、自分の居場所。
世界の真実は、まだ遠い。
だが、進む道は決めた。
まずは、目の前の一歩から。
仲間と共に、
上級冒険者への昇格試験へ。
冒険者として――
この世界で、自分の人生を生きるために。




