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冒険者の記録  作者: ぽんかん
5.語られた歴史
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語られなかったこと

 その夜、レイはほとんど眠れなかった。


 目を閉じると、聖堂で聞かされた言葉が、静かに浮かび上がる。

 旧人類。管理。監視。

 どれも、今まで遠い世界の話だと思っていたものだった。


 部屋の軋む音ひとつにさえ、神経が過敏になる。

 疑いが芽生えた途端、世界はこんなにも不安定になるものなのか。


    ◇


 翌日。


 昼下がりのギルド併設酒場は、夜ほど騒がしくない。

 煮込みの匂いと、木の卓を拭く音が、ゆるやかに流れていた。


 レイが扉を開けると、すぐに何人かの視線が向く。

 ――気づかれている。


 だが、誰も何も言わなかった。


「座れ」


 カイが短く言って、空いた席を顎で示す。

 それ以上の説明も、問いもない。


 レイが腰を下ろすと、自然と酒が出された。

 誰が頼んだのかも、聞かれなかった。


「……聖堂、行ってたんだろ」


 ドワーフが、独り言のように呟く。


 レイは返事をしなかった。

 それで十分だったらしい。


「まあ、あそこはな」


 それ以上、言葉は続かない。


 女将が、いつもより静かな声で言う。


「変な顔して戻ってくる冒険者は、だいたい二種類いるわ。

 金を失ったか、答えを聞かされたか」


 冗談めいた口調だったが、目は真剣だった。


「……後者だな」


 カイが、即答する。


 それで話は終わった。


 誰も「何を聞いた」とは訊かない。

 誰も「本当のこと」を知りたがらない。


 ただ、レイが“何か”を知ったことだけは、全員が察していた。


 沈黙の中で、フィーネがゆっくりと口を開く。


「……レイ」


 呼ばれて、レイは顔を上げる。


「無理に話さなくていいから」


 それだけ言って、視線を外した。


「でも……一人で抱えなくてもいいと思う」


 短い言葉だった。

 踏み込まない代わりに、背中を預けていい、と告げる声音だった。


 レイは、杯を手に取る。


 中身は、昨日と同じ酒のはずなのに、味が違って感じられた。


 ――見られているかもしれない。

 ――管理されているかもしれない。


 それでも、この沈黙だけは、作られたものじゃない。


 ここにいる連中は、真実を知ろうとしなかった。

 ただ、レイがここに戻ってきたことを、受け入れただけだった。


 レイは、小さく息を吐く。


 答えは、まだ見えない。


 だが、疑心暗鬼に沈み切るには――

 この酒場は、少しだけ温かすぎた。

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