語られる歴史
唐突に明かされた魔王の真実。
あまりにも突飛で、にわかには信じがたい内容だった。
だが高司祭は、戸惑うレイの様子を気に留めることなく、静かに言葉を継いだ。
「その前に、もう一つだけお伝えしなければならないことがあります」
一瞬の沈黙。
高司祭の視線は、遥か過去を見据えるように宙を彷徨った。
「かつて――この大陸、この星で、人類は栄華を極めていました」
レイは思わず息をのむ。
「技術の進歩は凄まじく、人類は大地を制するだけでなく、この星の外――宇宙へと進出しました。
そして外宇宙の開拓にまで着手していたのです」
話の規模が、あまりにも現実離れしている。
剣と魔法の世界で生きてきたレイには、遠い神話のようにしか思えなかった。
――それなのに。
なぜか、嘘だとは感じなかった。
知らないはずの話なのに、胸の奥で微かに共鳴する感覚がある。
まるで、忘れていただけの記憶をなぞられているかのように。
高司祭は淡々と続ける。
「しかし、嘆かわしいことに、人類は互いの利害を巡って争い始めました。
それは国家同士の小競り合いではありません。宇宙規模の大戦争でした」
その口調には感情がない。
だからこそ、語られる内容の凄惨さが際立っていた。
「三百億を超えるまでに増えた人口は、戦争によって、わずか五億人にまで減少しました。
この大地もまた、戦火により荒れ果ててしまったのです」
レイは無意識に拳を握りしめていた。
「生き残った人類は、自らの行いを悔い、この星を去りました。
そして大地を復活させるため、人ではない存在を送り込んだのです」
その言葉に、レイの視線が揺れる。
「ええ。旧人類――
ある者は神と呼びましたが、正確には神そのものではありません。
神の意志を託された存在……神の使者と呼んで差し支えないでしょう」
静かな断言だった。
「彼らは星の再生と秩序の維持を目的として、この地に留まりました。
それこそが――われら聖堂のはじまりです」
高司祭は一息つき、さらに言葉を重ねる。
「それから幾千年もの時が流れ、この星には新たな生命が生まれました。
彼らはやがて、今の人類として進化し、社会を築き、文化を育むに至ったのです」
一瞬、救いを語るような声音になる。
だが、すぐにその調子は沈んだ。
「しかし……残念ながら、再び争いは起きました」
高司祭は、わずかに首を振る。
「同じ過ちを繰り返させぬため、聖堂は世界に“敵”を用意することを選びました。
恐怖と対立の象徴として魔族を生み出し、その頂点として魔王を定めたのです」
背筋を、冷たいものが這い上がる。
「世界の悪役となり、均衡を保つ存在――それが魔王。
これが、魔王の成り立ちです」
高司祭の言葉は、静かに、しかし確実にレイの心へと沈み込んでいった。




