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冒険者の記録  作者: ぽんかん
5.語られた歴史
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過去の大戦

街に戻ったラグナールは、不穏さを抱えながらも、ひとまず日常を取り戻していた。


市場は動き、鍛冶場の槌音も戻っている。冒険者ギルドには依頼が並び、酒場にはいつもの喧騒があった。

だが、誰もがどこか落ち着かない。戦争は遠ざかったわけではなく、ただ少し距離を取っただけだと、皆が分かっている。


ギルド併設の酒場で、レイたちは次に受けるクエストの話をしていた。


「しばらくは、街道警備か復旧系だろうな」


ブロムが杯を傾ける。


「皇国で目立ちすぎたし、少し地味な仕事がいいわね」


フィーネも同意するように言った。


そんなときだった。


酒場の入口に、場違いなほど整った服装の男が立った。白と金を基調にした法衣。聖堂の使いだ。


「冒険者レイ殿はおられますか」


名を呼ばれ、店内の視線が集まる。


「大事なお話があるとのことでして。できれば、本日中に」


露骨な命令口調ではない。だが、断りづらい響きだった。


「……分かりました」


レイは仲間に目配せし、席を立つ。



郊外の聖堂は、変わらず静かだった。


石造りの建物。控えめな灯り。

だが中へ通されると、いつもとは違う空気を感じる。


見慣れた司祭――ルシオ・エヴァンスの姿があり、その隣に、もう一人。

年配の男だった。白髪をきれいに整え、法衣には明らかに格の違いがある。


「初めまして」


その男は、穏やかに頭を下げた。


「高司祭のエセル・ヴァレンティアと申します」


名前を告げられた瞬間、空気が一段重くなる。


「あなたのご活躍は、兼ねがね伺っております。

 聖堂の活動に対しても、厚いご協力をいただいていると」


形式的な挨拶。だが、その視線は鋭かった。


「ありがとうございます」


レイがそう返すと、高司祭は一拍置いて、本題に入る。


「突然ですが――ひとつ、あなたにお話ししたいことがあります」


静かな声だった。


「できれば、これ以上、勇者軍と魔王軍の戦いに関わっていただきたくないのです」


言葉の意味を、すぐには理解できなかった。


「……どういう、意味ですか」


レイが問い返すと、高司祭は少しだけ目を伏せる。


「あなたは、過去にあった魔王軍との大戦について、どこまでご存じでしょうか」


千年以上前の話。

学校で習うのは、勇者が魔王を倒し、世界に平和が戻った、という簡潔な物語だけだ。


「詳細は……ほとんど」


「でしょうね」


高司祭は、淡々と続けた。


「世間ではほとんど語られていません。

 しかし、あの戦いは――この大陸において、全人口の八割が死滅する、壮絶なものでした」


息を呑む。


「噂では、勇者が魔王を倒したと語られているでしょう。

 ですが、それは事実ではありません」


高司祭は、レイをまっすぐに見据えた。


「魔王は、倒されたのではない。

 ただ――役目を終えて、姿を消しただけなのです」


「……役目?」


思わず、声が漏れる。


「なぜですか」


その問いに、高司祭は少しだけ間を置いた。


「魔王の目的は、増えすぎた人類を減らすこと。

 そして、人類に“脅威”を与え、成長を促すことでした」


感情の起伏はない。ただ、事実を語る声。


「恐怖と絶望の中で、人は知恵を絞り、力を得る。

 それが、魔王に与えられた役割だったのです」


聖堂の奥で、灯りが静かに揺れる。


レイは言葉を失ったまま、その場に立ち尽くしていた。


世界の成り立ちが、

自分の知っている物語とは、あまりにも違って見え始めていた。

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