帰路
魔王軍の先発隊は、結果として撃退された。
勇者軍が主戦線を押さえ、遊撃に回された冒険者たちが混乱の中で踏みとどまったことも大きい。だが、その最前線で魔族の将を討ち取った出来事は、戦場の流れを決定づけていた。
戦いは終わっていない。
魔王軍はなお健在で、各地に不穏な影を落としている。
それでも――この戦場は、ひとまずの決着を迎えた。
数日後、帰路となる街道のつり橋は仮復旧された。完全な修繕には時間がかかるが、人と荷を通すには十分だという。共和国との外交上の配慮もあり、皇国側は諸外国所属の冒険者たちの早期帰還を認めた。
レイたちは、共和国へ戻ることになった。
出発前日、アルセリオスの冒険者ギルドは、いつになく落ち着かない空気に包まれていた。戦場から戻った冒険者たちの話が飛び交い、酒場では勝利とも敗北ともつかない噂が入り混じっている。
「――いやあ、見事だったよ」
声をかけてきたのは、エドガーだった。いつもの白衣姿で、どこか機嫌がいい。
「正直に言おう。戦場で君たちがあれほど動けるとは思っていなかった」
「……無茶はしましたけど」
レイがそう答えると、エドガーは肩をすくめた。
「それも含めてだ。
それに――」
彼の視線が、レイの剣と盾へ向く。
「俺の作った武具が、実戦で役に立った。それが何より嬉しい」
技術者としての素直な喜びだった。
「君たちの所属ギルドには、昇格の推薦を出しておく。
もっとも、最終判断はあちらだ。所属ギルドでないと、昇格の権限はないからな」
「ありがとうございます」
頭を下げると、エドガーは照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「礼はいらん。
また面白いデータを持ってきてくれれば、それでいい」
それが彼なりの別れの言葉だった。
出発の刻、城門の近くで待っていたのはリセルだった。
「行くんだな」
軽装の彼女は、穏やかな表情で言った。
「戦場では、姿を見かけた」
レイが驚くと、リセルは小さく笑う。
「同じ場所にいた。ただ、立場が違っただけだ」
少しの沈黙のあと、彼女は続けた。
「……また、どこかで一緒に戦えるといい」
それは約束ではなく、願いに近い言葉だった。
「そのときは、よろしくお願いします」
そう答えると、リセルは満足そうに頷いた。
エドガーとリセルに見送られ、レイたちはアルセリオスを後にする。
皇国での日々は、短かった。
だが、確実に何かを残していった。
橋を渡り、街道を進む中で、レイはふと胸元の水晶に触れた。
戦場。
遺跡。
魔人。
そして、魔族の将。
だが――今はまだ、考えすぎる必要はない。
レイは前を向いた。
共和国へ。
ラグナールへ。




