戦場へ
数日後。
レイたちは、いつものようにギルド併設の酒場に集まっていた。
橋がなおるまでは特別な予定はない。
手ごろな依頼を探しつつ、体を休める――そんな、ごく普通の時間だった。
それは、扉が勢いよく開くまでの話だ。
「――伝令だ!」
兵装を整えた騎士が、酒場に踏み込んできた。
その声だけで、空気が一変する。
「魔王軍の先発隊と思われる部隊が、北方平原へ侵入!
皇国軍が迎撃態勢に入った!」
ざわめきが走る。
「冒険者ギルドにも、緊急動員要請が出ている!
即時対応可能な者は、全員準備しろ!」
拒否権は、なかった。
受付が次々と依頼書――いや、命令書を配っていく。
普段のクエストとは違う。
報酬も条件も、最低限しか書かれていない。
「……とうとう来たわね、ついてない」
フィーネが、静かに言った。
「ついに、って感じだな」
ブロムが立ち上がり、装備を確かめる。
カイはすでに弓を手にしていた。
レイもまた、無言で立ち上がる。
(……避けられない)
そう理解するには、十分だった。
北の平原に着いたとき、すでに戦場は形を成していた。
皇国軍――いわゆる“勇者軍”が、整然と陣を敷いている。
重装歩兵、槍兵、魔術部隊。
その後方には、旗とともに指揮所が設けられていた。
冒険者たちは、その外側に集められる。
「お前たちは遊撃だ」
指揮官の声は、簡潔だった。
「正規軍が前面で当たる。
突破してくる魔物、取りこぼした敵を処理しろ」
つまり――盾ではない。
剣でもない。
穴埋めだ。
誰も異を唱えなかった。
冒険者とは、そういう立場だ。
「始まるぞ……」
カイが、遠くを見る。
地平線の向こう。
黒い影が、ゆっくりと広がっていく。
魔物の群れだ。
統制の取れた動き。
以前の“ばらばらな襲撃”とは明らかに違う。
次の瞬間、号令が響いた。
魔術が飛び交い、矢が空を裂く。
正面衝突。
そして――戦いは、あっけなく始まった。
レイたちは、命じられた通り動く。
前線の隙間を縫い、抜けてきた魔物を迎え撃つ。
一体、また一体。
敵の数は多い。
だが、訓練された皇国軍の圧力は強く、押し込んでいく。
それでも、完全には仕留めきれない。
「左、抜けた!」
フィーネの声。
「了解!」
レイは踏み込み、剣を振るう。
以前よりも、身体が軽い。
動きが、自然だ。
(……来てる)
意識せずとも、力が流れる。
魔力――そう呼ぶべきものが、剣に、足に、宿る。
ブロムが押さえ、
カイが射抜き、
レイがとどめを刺す。
フィーネが流れを整える。
遊撃としては、十分すぎる動きだった。
だが、戦場は容赦しない。
次々と現れる敵。
止まらない号令。
地面に染みる血。
「……長くなるな、これは」
ブロムが息を吐く。
レイは、剣を握り直した。
もう、引き返せない。
冒険者として。
この場に立つ者として。
いやおうなく、戦いは続いていく。




