遺跡の余韻
魔人が倒れ、周囲に静けさが戻ったあとも、レイはしばらくその場から動けずにいた。
荒れた遺跡。
砕けた石材と、倒れた柱。
戦いの痕跡だけが、確かに残っている。
「……レイ?」
フィーネの声で、我に返る。
「大丈夫?」
「ああ……」
レイは頷き、視線を遺跡の奥へ戻した。
先ほど触れた場所。
なぜか、そこだけが気になって仕方がない。
仲間たちが周囲を警戒する中、レイは慎重に歩み寄り、もう一度、風化した石壁に手を伸ばした。
――淡い光。
先ほどよりも、ずっと弱い。
だが確かに、遺跡が反応している。
同時に、胸元の水晶が、わずかに熱を帯びた。
(……また、これだ)
痛みはない。
不快感もない。
むしろ、身体の奥に静かな広がりを感じる。
呼吸が深くなり、視界が澄んでいくような感覚。
「……今、何かした?」
フィーネが、はっきりとした声で問う。
「いや……触っただけだ」
だが、フィーネは納得していない様子だった。
レイから、微かだが確実な“変化”を感じ取っている。
(……増えてる)
心の中で、そう呟く。
魔力の流れ。
それが、さっきよりもはっきりと分かる。
原因は――遺跡。
フィーネは、確信に近い予感を覚えていた。
街へ戻ると、報告はすぐに受理された。
魔物調査の結果。
そして――下級とはいえ、魔人が出現していたこと。
それだけで、ギルド内の空気が変わる。
「魔人、だと?」
「この時期に?」
「場所は南東遺跡……?」
ざわめきが広がり、ほどなくして街の騎士たちも集まってきた。
小規模ながら、即席の会議が開かれる。
レイたちは、聞かれたことに淡々と答えた。
余計な推測は口にしない。
遺跡が光ったこと。
自分の感覚の変化。
それらは、報告には含めなかった。
「調査ご苦労だった」
ひと通り話が終わると、そう告げられ、解散となる。
魔人の件は騎士団が引き継ぐ。
冒険者である彼らは、ここまでだ。
夜。
ギルド併設の酒場に集まり、ようやく落ち着いた空気が戻る。
「……騒ぎになったな」
ブロムが、杯を傾けながら言った。
「魔人が出たってなれば、仕方ないわ」
フィーネはそう返しつつ、レイの胸元へ視線を向ける。
「レイ。その水晶……」
「?」
「遺跡と、関係があると思う」
はっきりとした口調だった。
「遺跡の力を、水晶が受け取ってる。
そして――それが、あなたに影響している」
「良い影響、ってことか?」
カイが問いかける。
フィーネは、少しだけ言葉を選んだ。
「少なくとも、悪くはない。
あなたの魔力が、確実に増しているのは事実よ」
レイは、無言で水晶を取り出した。
灯りを受けて、静かに輝くそれを見つめる。
これが何なのか。
偶然手に入れた水晶。
答えは、まだ遠い。
だが――
遺跡は、確かに反応した。
水晶も、確かに応えた。
そして、自分はその中心にいる。
レイは、ゆっくりと水晶を握りしめた。
何も言わず、ただ、その光を見つめながら。




