南東遺跡の異変
翌日、レイたちはアルセリオスの冒険者ギルド支部で、手頃な依頼を探していた。
帰路が断たれている以上、皇国でできる仕事を受けるしかない。できれば危険度は抑えめで、調査程度のものがいい。
掲示板を眺めていると、一枚の依頼書が目に留まった。
【調査依頼】
南東部遺跡周辺にて、魔物目撃情報あり
内容:魔物の有無・種類の確認
備考:討伐が確認された場合、追加報酬あり
特別な注釈はない。よくある調査依頼だ。
だが、レイは視線を外せずにいた。
(……遺跡)
理由は分からない。
それでも、胸の奥がわずかにざわつく。
「気になる?」
フィーネが、依頼書を覗き込む。
「……少し」
そう答えると、ブロムが肩をすくめた。
「調査だけなら、悪くないだろ。橋が直るまで時間もある」
カイも頷く。
「魔物の動向確認なら、今の状況では重要だ」
レイは一度だけ深く息を吸い、依頼書を取った。
「受けよう」
遺跡は、街の南東に位置していた。
半日ほど歩いた先に現れたそれは、かつて建造物だった名残をかろうじて留めている程度で、風化と崩落が進んでいる。
「……結界も、管理の痕跡もないわね」
フィーネが周囲を見渡す。
魔物の気配はない。
静かすぎるほどだ。
「本当に目撃情報があったのか?」
ブロムが低く呟く。
調査を進める中で、レイは遺跡の奥へと自然に足を向けていた。
理由は分からない。ただ、そこに“何か”がある気がした。
朽ちた柱の前に立ち、無意識のうちに手を伸ばす。
その瞬間だった。
――淡い光。
触れた箇所を中心に、遺跡全体がほのかに輝き出す。
空気が震え、足元の石が微かに鳴った。
「レイ、下がって!」
フィーネの声と同時に、周囲の気配が一変する。
木陰や崩れた壁の陰から、魔物が次々と姿を現した。
数は多い。だが、無秩序ではない。
「囲まれてる!」
カイが矢を構える。
そして、魔物の群れの奥から、一つの影が前に出た。
人に近い姿。
だが、その目には明確な異質さが宿っている。
「……何者だ、貴様」
低い声が響く。
魔人だった。
下級だが、明らかに統率者の立場にある。
「この遺構に反応するとはな」
魔人は、レイを値踏みするように見つめる。
「まぁ、いい。ここで始末してしまえば問題ない」
指先が動き、魔物たちが一斉に襲いかかってきた。
「迎撃!」
レイの号令で、一行は陣形を組む。
ブロムが前に出て盾を構え、魔物の突進を受け止める。
カイの矢が的確に数を減らし、フィーネの魔術が足止めを入れる。
だが、数が多い。
一体倒しても、すぐに次が来る。
「っ、きりがない!」
それでも、連携を崩さず、確実に数を削っていく。
やがて、最後の魔物が倒れた。
荒い息が、その場に残る。
「……終わった?」
ブロムがそう言いかけた瞬間、拍手が響いた。
「なかなかやるじゃないか」
魔人が、ゆっくりと前に出てくる。
「魔物を指揮するだけでなく、こうして自分で相手をするのも久しぶりだ」
次の瞬間、魔人は地を蹴った。
速い。
人間の反応を明らかに超えている。
レイは剣を受け止めるが、腕が痺れた。
「くっ……!」
魔人の一撃一撃は重く、鋭い。
仲間が援護に入るが、すぐに距離を詰められる。
「どうした? さっきの勢いは!」
徐々に、追い詰められていく。
そのときだった。
胸の奥が、再び熱を帯びる。
剣と盾が、淡く光った。
同時に、背後の遺跡も呼応するように輝きを増す。
(……また、これか)
考える暇はなかった。
身体が、自然に動く。
踏み込みが速い。
視界が冴え、魔人の動きが一瞬だけ遅く見えた。
「今だ!」
レイの声に、仲間が応える。
カイの矢が魔人の注意を引き、
フィーネの魔術が足元を揺らし、
ブロムの一撃が体勢を崩す。
レイは、その隙を逃さなかった。
剣を振り抜く。
鈍い衝撃。
魔人の身体が後退し、膝をつく。
「……馬鹿な」
その言葉を最後に、魔人は崩れ落ちた。
遺跡の光が、静かに消える。
剣と盾も、元の姿に戻った。
沈黙。
「……倒した、のよね」
フィーネが、息を整えながら言う。
レイは剣を見つめた。




