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冒険者の記録  作者: ぽんかん
4.分かたれる旗の下で
60/70

南東遺跡の異変

翌日、レイたちはアルセリオスの冒険者ギルド支部で、手頃な依頼を探していた。

帰路が断たれている以上、皇国でできる仕事を受けるしかない。できれば危険度は抑えめで、調査程度のものがいい。


掲示板を眺めていると、一枚の依頼書が目に留まった。


【調査依頼】

南東部遺跡周辺にて、魔物目撃情報あり

内容:魔物の有無・種類の確認

備考:討伐が確認された場合、追加報酬あり


特別な注釈はない。よくある調査依頼だ。

だが、レイは視線を外せずにいた。


(……遺跡)


理由は分からない。

それでも、胸の奥がわずかにざわつく。


「気になる?」


フィーネが、依頼書を覗き込む。


「……少し」


そう答えると、ブロムが肩をすくめた。


「調査だけなら、悪くないだろ。橋が直るまで時間もある」


カイも頷く。


「魔物の動向確認なら、今の状況では重要だ」


レイは一度だけ深く息を吸い、依頼書を取った。


「受けよう」


遺跡は、街の南東に位置していた。

半日ほど歩いた先に現れたそれは、かつて建造物だった名残をかろうじて留めている程度で、風化と崩落が進んでいる。


「……結界も、管理の痕跡もないわね」


フィーネが周囲を見渡す。


魔物の気配はない。

静かすぎるほどだ。


「本当に目撃情報があったのか?」


ブロムが低く呟く。


調査を進める中で、レイは遺跡の奥へと自然に足を向けていた。

理由は分からない。ただ、そこに“何か”がある気がした。


朽ちた柱の前に立ち、無意識のうちに手を伸ばす。


その瞬間だった。


――淡い光。


触れた箇所を中心に、遺跡全体がほのかに輝き出す。

空気が震え、足元の石が微かに鳴った。


「レイ、下がって!」


フィーネの声と同時に、周囲の気配が一変する。


木陰や崩れた壁の陰から、魔物が次々と姿を現した。

数は多い。だが、無秩序ではない。


「囲まれてる!」


カイが矢を構える。


そして、魔物の群れの奥から、一つの影が前に出た。


人に近い姿。

だが、その目には明確な異質さが宿っている。


「……何者だ、貴様」


低い声が響く。


魔人だった。

下級だが、明らかに統率者の立場にある。


「この遺構に反応するとはな」


魔人は、レイを値踏みするように見つめる。


「まぁ、いい。ここで始末してしまえば問題ない」


指先が動き、魔物たちが一斉に襲いかかってきた。


「迎撃!」


レイの号令で、一行は陣形を組む。


ブロムが前に出て盾を構え、魔物の突進を受け止める。

カイの矢が的確に数を減らし、フィーネの魔術が足止めを入れる。


だが、数が多い。

一体倒しても、すぐに次が来る。


「っ、きりがない!」


それでも、連携を崩さず、確実に数を削っていく。


やがて、最後の魔物が倒れた。


荒い息が、その場に残る。


「……終わった?」


ブロムがそう言いかけた瞬間、拍手が響いた。


「なかなかやるじゃないか」


魔人が、ゆっくりと前に出てくる。


「魔物を指揮するだけでなく、こうして自分で相手をするのも久しぶりだ」


次の瞬間、魔人は地を蹴った。


速い。

人間の反応を明らかに超えている。


レイは剣を受け止めるが、腕が痺れた。


「くっ……!」


魔人の一撃一撃は重く、鋭い。

仲間が援護に入るが、すぐに距離を詰められる。


「どうした? さっきの勢いは!」


徐々に、追い詰められていく。


そのときだった。


胸の奥が、再び熱を帯びる。

剣と盾が、淡く光った。


同時に、背後の遺跡も呼応するように輝きを増す。


(……また、これか)


考える暇はなかった。


身体が、自然に動く。

踏み込みが速い。

視界が冴え、魔人の動きが一瞬だけ遅く見えた。


「今だ!」


レイの声に、仲間が応える。


カイの矢が魔人の注意を引き、

フィーネの魔術が足元を揺らし、

ブロムの一撃が体勢を崩す。


レイは、その隙を逃さなかった。


剣を振り抜く。


鈍い衝撃。

魔人の身体が後退し、膝をつく。


「……馬鹿な」


その言葉を最後に、魔人は崩れ落ちた。


遺跡の光が、静かに消える。

剣と盾も、元の姿に戻った。


沈黙。


「……倒した、のよね」


フィーネが、息を整えながら言う。


レイは剣を見つめた。

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