残党という名の違和感
ラグナールへ戻る街道は、皇国の補給基地を離れて半日ほど進んだところで、不自然に途切れていた。
「……橋が、ないな」
先頭を歩いていたカイが、渓谷の縁で足を止める。
そこにあるはずのつり橋は、途中から完全に崩れ落ちていた。
太い支柱は根元から折れ、縄と板は千切れ、残骸ははるか下の谷底へと消えている。
深い渓谷だった。
霧が立ち込め、底は見えない。
「焼け落ちた、って感じじゃないわね」
フィーネが、崩れた断面を見て言う。
「刃物か、重い一撃で切られてる。
……意図的よ」
ブロムが唸る。
「補給路の破壊だな。回り道は?」
カイが周囲を見渡すが、首を横に振った。
「この渓谷は続いてる。
迂回するなら、二、三日は戻らないと無理だ」
レイは、言葉を失った。
橋が落ちているだけなら、まだいい。
だが――
「……新しい」
崩れた木材の断面は、まだ湿っている。
壊されてから、そう時間は経っていない。
そのとき、風に乗って音が届いた。
足音。
複数。
「……来る」
カイの声と同時に、街道脇の木立から影が現れた。
魔物だった。
だが、無秩序に飛び出してくるいつもの動きではない。
距離を取り、左右に分かれ、逃げ道を塞ぐように広がっていく。
「……残党、か?」
誰かが呟いたが、レイはその言葉に違和感を覚えた。
残党にしては、動きが整いすぎている。
「来るぞ!」
戦闘は短く、だが重かった。
ブロムが前に立ち、衝撃を受け止める。
フィーネの魔術が足を止め、カイの矢が確実に数を減らす。
レイは前に出すぎず、隙を見て斬り込んだ。
連携は噛み合っている。
だが、敵もそれを織り込んで動いてくる。
(……強い、けど)
決定打に欠ける。
深追いしてこない。
最後の一体を倒したとき、戦いは唐突に終わった。
それ以上、魔物は現れなかった。
「……引いた?」
ブロムが周囲を警戒しながら言う。
「追撃してこない。
最初から、ここを壊して足止めするのが目的だったみたいね」
フィーネの言葉に、誰も反論できなかった。
橋は落ちている。
谷は深い。
修復も渡渉も、すぐには不可能だ。
「つまり……」
カイが静かに言う。
「今日は戻れない」
レイは、崩れ落ちた橋の先――ラグナールの方角を見た。
状況は単純だった。
帰路が断たれた。
理由は分からない。
魔王軍残党。
そう呼ぶには、どこか整いすぎている。
「……しばらく皇国側に、留まるしかないな」
誰かがそう言い、全員が黙って頷いた。
レイは剣を収める。
胸の奥に、妙なざらつきが残っていた。




