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冒険者の記録  作者: ぽんかん
4.分かたれる旗の下で
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疑念を抱いたまま

エドガーは書類棚を漁りながら言った。


「約束どおり、クエストの報酬だ」


差し出されたのは、規定通りの金貨袋だった。額は妥当だ。危険度と内容を考えれば、むしろ控えめとも言える。


だが、エドガーはそれで終わらせなかった。


「それと……これは“おまけ”だ」


机の上に、二つの包みが置かれる。


布を解くと、中から現れたのは一振りの剣と、小型の盾だった。


剣は装飾のない直剣。盾もまた、余計な意匠のない円盾だ。どちらも見た目は簡素だが、手に取った瞬間、レイは違和感を覚えた。


「……軽い」


白鋼に近い質感にもかかわらず、重量感がほとんどない。剣も盾も、構えたときのバランスが妙に良かった。


「ゴーレムの素材を流用して作った特注品だ」


エドガーは、あっさりと言う。


「完全な古代技術じゃないが、悪くない出来だと思っている」


「……過分です」


レイは即座に首を振った。


「これは報酬として受け取れるものじゃない。辞退します」


だが、エドガーは鼻で笑った。


「遠慮するな。これは“前払い”みたいなものだ」


「前払い……?」


「そうだ。今後、使用感をレポートしてくれ。それでいい」


白衣の男は、悪びれもせず続ける。


「新しいクエストだと思ってくれて構わない。

 報酬は――その剣と盾だ」


押し切る気満々だった。


仲間たちを見ると、誰も口を挟まない。フィーネは何か言いたげだったが、ここでは黙っている。


結局、レイは小さく息を吐いた。


「……分かりました。預かります」


「よろしい」


エドガーは満足そうに頷いた。


 


帰り支度を整え、研究室を出ようとしたときだった。


「――ところで」


背後から、エドガーの声がかかる。


「君は、この戦争をどう思うかね?」


不意の問いだった。


レイは振り返り、少し考えてから答える。


「……冒険者の立場で言えることは、少ないです」


「だろうな」


エドガーは窓の外へ視線を向けた。


「世間ではこう言われている。

 魔王が復活したから、皇国が勇者を召喚した、と」


一拍置いて、続ける。


「だが――順序が逆だ、という噂もある」


レイは黙って聞いていた。


「この千年、魔王復活の兆しはなかった。

 それが突然だ。まるで“待っていました”とでも言うように、勇者が現れる」


エドガーは肩をすくめる。


「胡散臭いと思わないかね?」


そして、ふっと自嘲気味に笑った。


「もっとも、こんなことを表で言えば縛り首だろうがな」


それ以上、彼は何も言わなかった。


 


その後、レイたちはギルド近くの食堂へ入った。


簡素な料理を前に、ようやく緊張が解ける。


「……いろいろ濃い一日だったな」


ブロムが、しみじみと言う。


「ゴーレムに、妙な技術者に、妙な話」


フィーネは、レイの手元――包みを一瞬だけ見てから、視線を逸らした。


「これから、どうする?」


カイの問いに、レイは少し考える。


皇国。

勇者軍。

聖堂。

そして、エドガーの言葉。


世界は確実に、複雑さを増している。


「……まずは、帰ろう」


レイはそう言った。


「ラグナールに戻って、いつも通りの仕事を探す」


派手な選択はしない。

だが、何も考えずに流されるつもりもなかった。

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