疑念を抱いたまま
エドガーは書類棚を漁りながら言った。
「約束どおり、クエストの報酬だ」
差し出されたのは、規定通りの金貨袋だった。額は妥当だ。危険度と内容を考えれば、むしろ控えめとも言える。
だが、エドガーはそれで終わらせなかった。
「それと……これは“おまけ”だ」
机の上に、二つの包みが置かれる。
布を解くと、中から現れたのは一振りの剣と、小型の盾だった。
剣は装飾のない直剣。盾もまた、余計な意匠のない円盾だ。どちらも見た目は簡素だが、手に取った瞬間、レイは違和感を覚えた。
「……軽い」
白鋼に近い質感にもかかわらず、重量感がほとんどない。剣も盾も、構えたときのバランスが妙に良かった。
「ゴーレムの素材を流用して作った特注品だ」
エドガーは、あっさりと言う。
「完全な古代技術じゃないが、悪くない出来だと思っている」
「……過分です」
レイは即座に首を振った。
「これは報酬として受け取れるものじゃない。辞退します」
だが、エドガーは鼻で笑った。
「遠慮するな。これは“前払い”みたいなものだ」
「前払い……?」
「そうだ。今後、使用感をレポートしてくれ。それでいい」
白衣の男は、悪びれもせず続ける。
「新しいクエストだと思ってくれて構わない。
報酬は――その剣と盾だ」
押し切る気満々だった。
仲間たちを見ると、誰も口を挟まない。フィーネは何か言いたげだったが、ここでは黙っている。
結局、レイは小さく息を吐いた。
「……分かりました。預かります」
「よろしい」
エドガーは満足そうに頷いた。
帰り支度を整え、研究室を出ようとしたときだった。
「――ところで」
背後から、エドガーの声がかかる。
「君は、この戦争をどう思うかね?」
不意の問いだった。
レイは振り返り、少し考えてから答える。
「……冒険者の立場で言えることは、少ないです」
「だろうな」
エドガーは窓の外へ視線を向けた。
「世間ではこう言われている。
魔王が復活したから、皇国が勇者を召喚した、と」
一拍置いて、続ける。
「だが――順序が逆だ、という噂もある」
レイは黙って聞いていた。
「この千年、魔王復活の兆しはなかった。
それが突然だ。まるで“待っていました”とでも言うように、勇者が現れる」
エドガーは肩をすくめる。
「胡散臭いと思わないかね?」
そして、ふっと自嘲気味に笑った。
「もっとも、こんなことを表で言えば縛り首だろうがな」
それ以上、彼は何も言わなかった。
その後、レイたちはギルド近くの食堂へ入った。
簡素な料理を前に、ようやく緊張が解ける。
「……いろいろ濃い一日だったな」
ブロムが、しみじみと言う。
「ゴーレムに、妙な技術者に、妙な話」
フィーネは、レイの手元――包みを一瞬だけ見てから、視線を逸らした。
「これから、どうする?」
カイの問いに、レイは少し考える。
皇国。
勇者軍。
聖堂。
そして、エドガーの言葉。
世界は確実に、複雑さを増している。
「……まずは、帰ろう」
レイはそう言った。
「ラグナールに戻って、いつも通りの仕事を探す」
派手な選択はしない。
だが、何も考えずに流されるつもりもなかった。




