表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者の記録  作者: ぽんかん
4.分かたれる旗の下で
56/70

ゴーレム

エドガーに案内され、レイたちはギルド支部の裏手へ回った。

そこからさらに地下へと続く通路を抜けると、空気がはっきりと変わる。


「ここだ」


扉が開かれた瞬間、思わず足が止まった。


広い。

そして、ひどく雑然としている。


天井の高い実験施設の中には、用途の分からない機械や装置が無秩序に並び、配管や魔術陣が床や壁を這っている。金属と油の匂いに、微かな魔力の気配が混じる。


だが、その中心部だけは異様なほど整っていた。


――後に聞いた話では、エドガーはこのギルド支部の支部長職も兼ねているらしい。

その立場をいいことに、ギルドの一角を半ば強引に研究施設へ改造しているのだと、ギルド副長が苦笑まじりに教えてくれた。

「公私混同も甚だしいが、成果は出しているから誰も止められない」と。


そんな事情を思わせるように、中央には闘技場めいた円形の空間が設けられていた。


その真ん中に――人型のゴーレムが立っている。


「……これは……」


フィーネが、思わず息を呑んだ。


北方都市で遭遇した、無骨で威圧的な古代型ゴーレムとは似ても似つかない。

全体はすらりとしており、関節は人のそれに近い。装甲は薄く、必要最低限のみが覆われているように見える。顔らしき部分に表情はないが、どこか“意志”を感じさせる造形だった。


「どうだい?」


エドガーが、得意げに胸を張る。


「古代技術をそのまま再現するのは無理だった。特に、あの恒久動力はね。

 だが――代替はできる」


彼はゴーレムの胸部を指差した。


「上級魔物から採れる“魔石”を動力源に使っている。持続時間は限られるが、出力は十分だ」


次に、頭部へ視線を移す。


「思考部分には、特殊な魔術回路を組み込んだ水晶を搭載している。複雑な判断はできないが、簡単な命令なら問題なくこなす」


そして、にやりと笑う。


「つまり――戦える」


嫌な予感が、背筋を走った。


「まさか……」


レイが口を開くより早く、エドガーは言った。


「模擬戦だ。君たちと、この新型ゴーレムでね」


「……冗談でしょう」


フィーネが、思わずつぶやく。


「安心してくれ。殺しはしない。それに――君たちは、あの古代型とやり合って生き残っている」


視線が、自然とレイに向けられる。


「実地データが欲しいんだ。頼むよ」


拒否権は、ほとんどなかった。



数時間後。

準備が整い、レイたちは闘技場の縁に立っていた。


「開始だ」


エドガーの合図と同時に、ゴーレムが動く。


――速い。


人のような一歩。

だが、踏み込みの鋭さは人間の比ではない。


「来るぞ!」


カイの声と同時に、ゴーレムの拳が振り抜かれる。


ブロムが盾で受け止めるが、衝撃に身体ごと弾かれた。


「っ、重い!」


フィーネの魔術が牽制に走る。だが、ゴーレムは無駄のない動きでかわし、間合いを一気に詰めてくる。


「散開!」


レイは叫び、前に出すぎないよう立ち回る。


それでも、ゴーレムの動きは的確だった。

攻撃、防御、移動――すべてが合理的で、迷いがない。


(……強い)


一撃一撃は致命的ではない。

だが、確実に削られていく。


カイの矢は軌道を読まれ、ブロムの重い一撃はかわされる。

フィーネは詠唱の隙を突かれ、レイは防戦に回らざるを得なかった。


「このままじゃ……!」


そのときだった。


レイの胸が、熱を帯びる。


呼吸が乱れ、視界が一瞬だけ澄む。


(……何だ、これ)


剣を握る手に、微かな流れを感じた。

意識していないのに、身体が“何か”を引き寄せている。


次の瞬間。


レイの踏み込みが、明らかに速くなった。


剣を振るう軌道が、無意識のうちに修正される。

ゴーレムの関節――ほんの一瞬の隙を、正確に捉えた。


「今だ!」


その声に反応し、仲間が動く。


カイの矢が注意を引き、

フィーネの魔術が足元を揺らし、

ブロムの一撃が体勢を崩す。


レイは、迷わず踏み込んだ。


剣が、ゴーレムの胸部――魔石の制御部を捉える。


鈍い音。


次の瞬間、ゴーレムの動きが止まった。


光が消え、膝をつき、そのまま崩れ落ちる。


静寂。


「……止まった?」


息を切らしながら、ブロムが呟く。


「勝った……の?」


フィーネが、レイを見る。


レイ自身も、何が起きたのか、はっきりとは分からなかった。


ただ――

確かに、あの瞬間、何かを“使った”。


「はは……ははは……!」


沈黙を破ったのは、エドガーだった。


彼は倒れたゴーレムを見つめ、目を輝かせている。


「素晴らしい……!

 予想以上だ。まさか、あそこまで綺麗に制御部を突くとは」


その笑みには、純粋な興奮と、ほんのわずかな悔しさが混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ