ゴーレム
エドガーに案内され、レイたちはギルド支部の裏手へ回った。
そこからさらに地下へと続く通路を抜けると、空気がはっきりと変わる。
「ここだ」
扉が開かれた瞬間、思わず足が止まった。
広い。
そして、ひどく雑然としている。
天井の高い実験施設の中には、用途の分からない機械や装置が無秩序に並び、配管や魔術陣が床や壁を這っている。金属と油の匂いに、微かな魔力の気配が混じる。
だが、その中心部だけは異様なほど整っていた。
――後に聞いた話では、エドガーはこのギルド支部の支部長職も兼ねているらしい。
その立場をいいことに、ギルドの一角を半ば強引に研究施設へ改造しているのだと、ギルド副長が苦笑まじりに教えてくれた。
「公私混同も甚だしいが、成果は出しているから誰も止められない」と。
そんな事情を思わせるように、中央には闘技場めいた円形の空間が設けられていた。
その真ん中に――人型のゴーレムが立っている。
「……これは……」
フィーネが、思わず息を呑んだ。
北方都市で遭遇した、無骨で威圧的な古代型ゴーレムとは似ても似つかない。
全体はすらりとしており、関節は人のそれに近い。装甲は薄く、必要最低限のみが覆われているように見える。顔らしき部分に表情はないが、どこか“意志”を感じさせる造形だった。
「どうだい?」
エドガーが、得意げに胸を張る。
「古代技術をそのまま再現するのは無理だった。特に、あの恒久動力はね。
だが――代替はできる」
彼はゴーレムの胸部を指差した。
「上級魔物から採れる“魔石”を動力源に使っている。持続時間は限られるが、出力は十分だ」
次に、頭部へ視線を移す。
「思考部分には、特殊な魔術回路を組み込んだ水晶を搭載している。複雑な判断はできないが、簡単な命令なら問題なくこなす」
そして、にやりと笑う。
「つまり――戦える」
嫌な予感が、背筋を走った。
「まさか……」
レイが口を開くより早く、エドガーは言った。
「模擬戦だ。君たちと、この新型ゴーレムでね」
「……冗談でしょう」
フィーネが、思わずつぶやく。
「安心してくれ。殺しはしない。それに――君たちは、あの古代型とやり合って生き残っている」
視線が、自然とレイに向けられる。
「実地データが欲しいんだ。頼むよ」
拒否権は、ほとんどなかった。
*
数時間後。
準備が整い、レイたちは闘技場の縁に立っていた。
「開始だ」
エドガーの合図と同時に、ゴーレムが動く。
――速い。
人のような一歩。
だが、踏み込みの鋭さは人間の比ではない。
「来るぞ!」
カイの声と同時に、ゴーレムの拳が振り抜かれる。
ブロムが盾で受け止めるが、衝撃に身体ごと弾かれた。
「っ、重い!」
フィーネの魔術が牽制に走る。だが、ゴーレムは無駄のない動きでかわし、間合いを一気に詰めてくる。
「散開!」
レイは叫び、前に出すぎないよう立ち回る。
それでも、ゴーレムの動きは的確だった。
攻撃、防御、移動――すべてが合理的で、迷いがない。
(……強い)
一撃一撃は致命的ではない。
だが、確実に削られていく。
カイの矢は軌道を読まれ、ブロムの重い一撃はかわされる。
フィーネは詠唱の隙を突かれ、レイは防戦に回らざるを得なかった。
「このままじゃ……!」
そのときだった。
レイの胸が、熱を帯びる。
呼吸が乱れ、視界が一瞬だけ澄む。
(……何だ、これ)
剣を握る手に、微かな流れを感じた。
意識していないのに、身体が“何か”を引き寄せている。
次の瞬間。
レイの踏み込みが、明らかに速くなった。
剣を振るう軌道が、無意識のうちに修正される。
ゴーレムの関節――ほんの一瞬の隙を、正確に捉えた。
「今だ!」
その声に反応し、仲間が動く。
カイの矢が注意を引き、
フィーネの魔術が足元を揺らし、
ブロムの一撃が体勢を崩す。
レイは、迷わず踏み込んだ。
剣が、ゴーレムの胸部――魔石の制御部を捉える。
鈍い音。
次の瞬間、ゴーレムの動きが止まった。
光が消え、膝をつき、そのまま崩れ落ちる。
静寂。
「……止まった?」
息を切らしながら、ブロムが呟く。
「勝った……の?」
フィーネが、レイを見る。
レイ自身も、何が起きたのか、はっきりとは分からなかった。
ただ――
確かに、あの瞬間、何かを“使った”。
「はは……ははは……!」
沈黙を破ったのは、エドガーだった。
彼は倒れたゴーレムを見つめ、目を輝かせている。
「素晴らしい……!
予想以上だ。まさか、あそこまで綺麗に制御部を突くとは」
その笑みには、純粋な興奮と、ほんのわずかな悔しさが混じっていた。




