衛星都市アルセリオス
マティアスの勧めもあり、レイたちは補給基地からほど近い皇国首都の衛星都市――アルセリオスへ立ち寄ることにした。
街に足を踏み入れた瞬間、空気の違いがはっきりと分かる。
石畳は広く、建物は高い。人の流れは途切れず、行き交う兵士や商人の数も、ラグナールとは比べものにならない。戦時下であるはずなのに、街は妙に活気づいていた。
屋台が並び、焼いた肉の香りが漂う。道具屋や仕立屋の呼び込みの声も絶えない。
「……すごいな」
思わず、ブロムが呟いた。
「戦争してる国の街って感じがしないわね」
フィーネも、周囲を見回しながら応じる。
ここは前線でも首都でもない。
だが、だからこそ――物資、情報、人材が集まる場所なのだと、肌で理解できた。
「ギルドは……あっちだ」
カイが指差した先には、ひときわ大きな建物があった。皇国の紋章を掲げた、冒険者ギルドの支部だ。
中へ入ると、その規模に圧倒される。
受付口は複数に分かれ、掲示板は壁一面に広がっている。行き交う冒険者の数も多く、装備の質も高い。ここが衛星都市であることを忘れそうになるほどだった。
「首都じゃなくて、これか……」
レイは思わず天井を見上げる。
依頼一覧に目を通していた、そのときだった。
「――君は、レイ君だろ?」
不意に背後から声がかかる。
振り返ると、そこに立っていたのは妙な男だった。
色白で、やや不健康そうな顔つき。背は高いが細く、白衣はところどころ汚れている。冒険者でも兵士でもない。だが、学者とも少し違う。
「……?」
警戒する一行をよそに、男は気にした様子もなく続けた。
「やっぱり。きっと、ここに来ると思っていたよ」
「……失礼ですが、どなたですか?」
レイが尋ねると、男は満足そうに笑った。
「エドガー・クロウリー。技術者だ。
まあ、分かりやすく言えば……ゴーレム屋、かな」
その言葉に、レイの脳裏に古戦場の光景がよぎる。
「君たち、以前――古代型のゴーレムと戦ったことがあるだろう?」
一瞬、空気が張り詰めた。
「どうして、それを?」
カイが低く問う。
エドガーは肩をすくめる。
「アセル君に聞いたんだよ。君の知り合いだろ?」
続けて、淡々と言葉を重ねた。
「戦場跡で、正体不明の警備型ゴーレムが停止した。
しかも、冒険者が生きて帰っている。技術者なら、興味を持つさ」
その視線が、自然とレイへ向く。
「特に君たちだ。
“あの場にいた”人物にはね」
レイは何も言えなかった。
見抜かれたわけではない。
だが、偶然とも思えない精度だった。
「安心してほしい。危険な話じゃない」
エドガーは、少しだけ表情を引き締める。
「俺は、古のゴーレム技術の再現を目指している。
戦時下だから、皇国から兵器転用の話も来ているが……それは別の問題だ」
白衣の男は、あくまで冷静だった。
「君たちは、実際に“動いているゴーレム”を見て、戦って、生き残った。
机上の理論より、ずっと価値がある」
そして、口元を歪めて笑う。
「ぜひとも、君に頼みたい仕事がある」
それは命令でも、正式な依頼でもない。
ただの冒険者に向けられた、奇妙な関心。
レイは、仲間たちと視線を交わした。




