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冒険者の記録  作者: ぽんかん
4.分かたれる旗の下で
53/70

皇国の補給基地にて

皇国方面の補給基地は、想像していたよりも整然としていた。


物資を積んだ荷車が絶え間なく出入りし、兵士たちは忙しなく動いている。前線に近い場所でありながら、無駄な混乱はない。張り詰めた空気の中に、後方拠点としての規律が感じられた。


レイたちは受付で書類を提出し、クエスト達成の確認を受けていた。

印章が押され、書類が返される。


「これで任務完了だな」


ブロムが小さく息を吐く。

ここまで来て、ようやく肩の力が抜けた。


そのときだった。


「君たちは、共和国から来た冒険者だね?」


落ち着いた声が背後からかかる。

振り返ると、皇国軍の制服を整えた男が立っていた。年齢は四十前後だろうか。派手さはないが、場慣れした雰囲気がある。


「皇国補給部隊中隊長、マティアス・ヴェルナーだ」


そう名乗り、軽く一礼した。


「遠いところまで来てくれて感謝する。君たちの護送がなければ、ここもずいぶん苦しかった」


形式的ではない、素直な礼だった。

レイは一瞬戸惑いながらも、頭を下げる。


「こちらこそ。任務ですから」


マティアスは頷き、続けて言った。


「よければ、少し食事でもどうだろう。兵士食堂だが、話をしながら共和国の様子を聞かせてもらえるとありがたい」


一瞬、沈黙が落ちる。


フィーネがちらりとレイを見る。

断るべきだろう、という視線だった。


「すみません、長居は――」


レイがそう切り出しかけたところで、マティアスは柔らかく手を振った。


「形式ばった話はしない。ほんの軽い食事だ。こちらも、共和国の空気を知りたいだけでね」


周囲を見ると、兵士たちが自然に視線を向けていた。敵意はない。ただ、好奇心と疲労が混じった目だ。


「……少しだけなら」


ブロムが先に折れた。

結局、レイたちは兵士食堂へ案内されることになった。


食堂は簡素だった。

パンと温かいスープ、干し肉。だが、疲れた身体には十分な内容だ。


簡単な自己紹介を交わし、話題は自然と共和国の状況へ移る。


「表向きは落ち着いていますが……不安は広がっています」


レイがそう答えると、マティアスは静かに頷いた。


「どこも同じだな。前線が動けば、後方も揺れる」


しばらく雑談が続いたあと、マティアスがふと視線を向けてきた。


「ところで――君たちは、エルフ王国への補給部隊の護衛をしていたな」


レイは、わずかに眉を動かした。


「……ええ」


「その任務で、下級とはいえ魔人を討った冒険者がいたと聞いている」


視線が、自然とレイに向く。

詮索するような強さではない。ただ、率直な興味を隠さない目だった。


「噂というのは、思ったより早く広まるものだ」


マティアスはそう言って、苦笑する。


「最近は戦線で下級魔人の目撃が増えていてな。対応だけでも、かなり骨が折れる。

それを倒せる者がいるとなれば、どうしても耳に入る」


一拍置いて、付け加える。


「安心してほしい。調べるつもりはない。ただ……人材には、どうしても目が向く」


レイは何も答えず、スープを口に運んだ。


皇国に来たのは、物資を運ぶためだった。

それ以上の意味を考えるつもりはなかった。


だが、噂は静かに、確実に広がっている。


食堂の喧騒の中で、レイはそんなことを思いながら、黙って食事を続けていた。

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