皇国へ
その依頼は、掲示板の中でも少し異質だった。
【物資運送任務】
行き先:皇国方面・前線後方拠点
内容:医薬品・補修資材の護送
危険度:低~中(正規街道使用)
皇国――。
レイは、無意識のうちに依頼書を見つめていた。
エルフ王国への補給任務を終えてから、まだ日も浅い。
あのとき感じた戦場の空気、補給基地の混乱、そして勇者の一撃の噂。
それらが、まだ頭の奥に残っている。
「……また、似たような仕事ね」
隣でフィーネが、小さく呟いた。
「エルフの時と同じ。
表向きは安全。でも、“何も起きないとは限らない”」
ブロムも顎を撫でながら言う。
「皇国行き、か。
共和国が直接兵を出さない代わりの、支援ってやつだな」
カイは依頼書を手に取り、細部を素早く確認していた。
「護送対象は問題なし。
人員も、いつも通り。
……でも、依頼の出どころが少し妙だ」
「妙?」
「ギルド経由だけど、発注元がやけに丁寧だ。
注意書きや確認事項が多い」
レイは、そこでようやく違和感を言語化した。
確かに、この依頼は条件が整いすぎている。
危険度は控えめで、報酬も平均的。
それでいて、依頼文だけがやけに細かい。
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
だが、証拠はない。
深読みしすぎだと、自分に言い聞かせた。
「受けよう」
レイは、そう決めた。
理由は単純だった。
今の状況で、物資輸送は確実に意味がある。
戦場に近い場所ほど、後方の支えが必要になる。
それに――
逃げる理由も、断る理由も、どこにもなかった。
*
数日後、一行は皇国へ向かう街道を進んでいた。
道はよく整備され、警備も行き届いている。
戦時下とはいえ、表面上は落ち着いているように見えた。
すれ違うのは、兵士、商人、そして同じような護送隊。
特別に注目されることもない。
それでも、レイは感じていた。
街道に漂う、言葉にしづらい空気。
焦燥感と、どこか張り詰めた気配。
人々は平静を装っているが、戦争が終わったわけではない。
ただ、エルフ王国への任務と比べて、決定的に違う点が一つあった。
あのときは、
「守るために同行している」
という空気が、はっきりとあった。
今回は、少し違う。
守っているというより、
状況を見極められている――
そんな感覚が、かすかに胸に残る。
それでも、やることは変わらない。
物資を守り、
仲間と連携し、
何事もなく目的地まで運ぶ。
英雄になる必要はない。
目立つ必要もない。
ただ、冒険者として、役目を果たすだけだ。
レイは前を向いた。
知らないところで、誰かが何を考えていようと――
今の自分にできるのは、それだけだった。




