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冒険者の記録  作者: ぽんかん
4.分かたれる旗の下で
52/70

皇国へ

その依頼は、掲示板の中でも少し異質だった。


【物資運送任務】

行き先:皇国方面・前線後方拠点

内容:医薬品・補修資材の護送

危険度:低~中(正規街道使用)


皇国――。

レイは、無意識のうちに依頼書を見つめていた。


エルフ王国への補給任務を終えてから、まだ日も浅い。

あのとき感じた戦場の空気、補給基地の混乱、そして勇者の一撃の噂。

それらが、まだ頭の奥に残っている。


「……また、似たような仕事ね」


隣でフィーネが、小さく呟いた。


「エルフの時と同じ。

 表向きは安全。でも、“何も起きないとは限らない”」


ブロムも顎を撫でながら言う。


「皇国行き、か。

 共和国が直接兵を出さない代わりの、支援ってやつだな」


カイは依頼書を手に取り、細部を素早く確認していた。


「護送対象は問題なし。

 人員も、いつも通り。

 ……でも、依頼の出どころが少し妙だ」


「妙?」


「ギルド経由だけど、発注元がやけに丁寧だ。

 注意書きや確認事項が多い」


レイは、そこでようやく違和感を言語化した。


確かに、この依頼は条件が整いすぎている。

危険度は控えめで、報酬も平均的。

それでいて、依頼文だけがやけに細かい。


一瞬、そんな考えが頭をよぎる。


だが、証拠はない。

深読みしすぎだと、自分に言い聞かせた。


「受けよう」


レイは、そう決めた。


理由は単純だった。

今の状況で、物資輸送は確実に意味がある。

戦場に近い場所ほど、後方の支えが必要になる。


それに――

逃げる理由も、断る理由も、どこにもなかった。



数日後、一行は皇国へ向かう街道を進んでいた。


道はよく整備され、警備も行き届いている。

戦時下とはいえ、表面上は落ち着いているように見えた。


すれ違うのは、兵士、商人、そして同じような護送隊。

特別に注目されることもない。


それでも、レイは感じていた。


街道に漂う、言葉にしづらい空気。

焦燥感と、どこか張り詰めた気配。

人々は平静を装っているが、戦争が終わったわけではない。


ただ、エルフ王国への任務と比べて、決定的に違う点が一つあった。


あのときは、

「守るために同行している」

という空気が、はっきりとあった。


今回は、少し違う。


守っているというより、

状況を見極められている――

そんな感覚が、かすかに胸に残る。


それでも、やることは変わらない。


物資を守り、

仲間と連携し、

何事もなく目的地まで運ぶ。


英雄になる必要はない。

目立つ必要もない。


ただ、冒険者として、役目を果たすだけだ。


レイは前を向いた。


知らないところで、誰かが何を考えていようと――

今の自分にできるのは、それだけだった。

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