14.襲撃者
冒険者ギルドの掲示板は、いつも通りだった。
依頼書が何枚も重なり、古い紙の匂いが漂っている。
討伐、護衛、調査、雑用。
どれも見慣れた文言ばかりだ。
レイは、無意識に目を走らせていた。
(……特別なことは、ないな)
そう思った、そのときだった。
一枚だけ、雰囲気の違う依頼書が目に留まる。
【皇国経由・合同調査依頼】
【内容】
先の戦争において散開・逃走したとされる魔王軍残党の確認。
発見時は状況に応じて討伐、もしくは報告。
「……皇国」
思わず、声に出ていた。
隣でブロムが眉をひそめる。
「勇者軍絡みか」
「そうみたいね」
フィーネも、紙面を覗き込む。
内容自体は、調査が主だ。
戦場から遠く離れた共和国内。
前線ではなく、後方の確認作業。
危険度も、低めに設定されている。
「正直、俺たち向けじゃない気もするが……」
カイが首を傾げる。
レイも、同じことを考えていた。
(……身に余る)
勇者軍。
魔王軍。
どちらも、自分たちとは距離のある言葉だ。
だが――。
「これ、聖堂からも後押しが入ってるわね」
フィーネが、依頼書の下部を指す。
補足欄には、簡潔な一文が添えられていた。
――聖堂より、優先的受注を推奨。
レイは、内心で息を吐く。
(……また、か)
露骨ではない。
だが、確実に“選ばれている”。
最終的に、依頼は受注した。
理由は単純だ。
共和国内で、安全性は高い。
調査が主で、戦闘は想定外。
それに――
断る理由も、見つからなかった。
調査は、拍子抜けするほど順調だった。
指定された地域を回り、
痕跡を確認し、
魔物の気配を探る。
だが、残党らしきものは見つからない。
「……何もないな」
カイが周囲を見回す。
「逃げ延びたなら、もっと奥に潜るはずよ」
フィーネの判断も、冷静だった。
結局、目立った成果はなく、
報告事項は「異常なし」。
依頼としては、問題なく終了だった。
帰り道。
街道を外れた、林の中。
夕暮れが迫り、影が長く伸びる。
そのとき――
レイは、足を止めた。
「……待って」
仲間たちも、すぐに察する。
風の音に紛れた、微かな気配。
人だ。
次の瞬間、
黒い影が、木々の間から飛び出した。
速い。
魔物ではない。
剣を持ち、迷いなく距離を詰めてくる。
「散開!」
カイの声。
レイは、反射的に剣を構えた。
だが、相手は一瞬で間合いに入る。
防ぐだけで、精一杯だった。
(……強い)
その瞬間、胸の奥が、かすかに熱を帯びた。
――あの感覚。
意識するな。
掴むな。
通せ。
フィーネの言葉が、脳裏をよぎる。
レイは、剣を振り抜く直前、
力を“乗せよう”とするのをやめた。
代わりに――
流れに、身を任せる。
剣先が、わずかに光を帯びた気がした。
衝突。
衝撃が、相手を弾く。
「……っ!」
襲撃者は体勢を崩し、後退する。
その隙に、カイの矢が地面を裂き、
ブロムの斧が牽制に入った。
フィーネは、杖を構えながら叫ぶ。
「深追いしないで!」
正しい判断だった。
襲撃者は、一瞬こちらを見据え――
そのまま、林の奥へ消えた。
静寂。
レイは、荒い息を整えながら、
自分の手を見下ろした。
(……今のは)
剣を振った感触が、違う。
力任せではない。
だが、確かに届いた。
「……やったわね」
フィーネが、静かに言う。
レイは、何も答えられなかった。
ただ、分かる。
調査は、無事に終わった。
依頼も、完了だ。
だが――
帰り道で出会った“何か”は、
確実に、日常の延長線上にはなかった。
第三章は、




