13.魔力操作
特訓の場所は、街外れだった。
ラグナールの西門を抜け、使われなくなった旧見張り台の跡地。
石組みは崩れかけているが、人の気配はなく、魔物も寄りつかない。
魔力の練習をするには、都合がよかった。
「まず言っておくわ」
フィーネは、杖を地面に立てかけながら言った。
「あなたに“魔法”を教えるつもりはない」
レイは瞬きをする。
「……違うのか?」
「違うわ。
これは“操作”よ。発動じゃない」
彼女は自分の胸に手を当てる。
「魔力は、意志で生み出すものじゃない。
呼吸みたいなものなの」
「意識すれば乱れるし、力めば流れが止まる」
レイは、言われるまま地面に腰を下ろした。
「じゃあ、何をすればいい?」
「何もしない」
即答だった。
「……?」
「目を閉じて。
剣も、魔物も、考えない」
フィーネの声は、低く、穏やかだった。
「自分の体を“器”だと思って。
中を流れているものを、探すだけ」
半信半疑のまま、レイは目を閉じる。
最初に感じたのは、風の音だった。
次に、遠くの鳥の鳴き声。
そして、自分の呼吸。
(……何も、分からない)
そう思った瞬間だった。
胸の奥で、かすかな違和感が生まれた。
熱でも痛みでもない。
強いて言えば、流れが変わる直前の水面のような感覚。
「……今」
フィーネの声が、すぐ近くで響く。
「今、少し動いた」
レイは、思わず目を開けた。
「何もしてないぞ」
「だからいいの」
彼女は、少しだけ口元を緩めた。
「意図していないのに動く。
それが、あなたの魔力の特徴」
再び目を閉じる。
今度は、焦らないようにした。
胸の奥。
背骨に沿って。
血の巡りと一緒に、何かが“通る”感じ。
(……これか)
意識を向けた瞬間、
ふっと、その感覚が消えた。
「止めたわね」
「……止めた?」
「“掴もう”としたから」
フィーネは、淡々と指摘する。
「魔力は掴むものじゃない。
通すもの」
「流れに逆らえば、詰まるだけ」
何度も試した。
感じて、消えて、また感じて。
成功と呼べるものは、ひとつもない。
それでも――
少しずつ、分かってくる。
(……使おうとすると、逃げる)
(……何もしないと、勝手に動く)
「今日は、ここまで」
フィーネがそう言ったとき、
レイは、はっきりと疲労を感じていた。
剣を振ったわけでも、走ったわけでもない。
それなのに、頭が重い。
「魔力を意識するだけで、体力を使う人もいるわ」
「あなたの場合……たぶん、
“回路”がまだ馴染んでない」
その言葉の意味は、よく分からなかった。
だが、不思議と不安はなかった。
「焦らなくていい」
フィーネは、はっきり言った。
「あなたは、
今まで“使わずに生きてきた”力を、
ようやく感じ始めただけ」
「急げば、壊す」
夕日が、見張り台跡を赤く染めていた。
ラグナールの街が、遠くで静かに息づいている。
レイは、胸の奥に残る、微かな余韻を感じながら思った。




