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冒険者の記録  作者: ぽんかん
3.つかの間停戦に動く影
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12.魔力

その日の依頼を終え、街へ戻る途中だった。


夕暮れの街道は人影もまばらで、遠くからラグナールの灯りが見える。

石畳を踏む足音は四人分、一定のリズムを刻んでいるはずだった。


だが――

フィーネだけが、どこか考え込んだ様子で黙っていた。


「……レイ」


名を呼ばれ、レイは歩みを緩める。


「どうした?」


フィーネはすぐには答えず、視線を道の先へ向けたまま、少し間を置いた。


「今日の戦いで……気づいたことがあるの」


レイは、無意識に自分の手を見た。

剣を握る感触は、いつもと変わらない。

だが、確かに――あの瞬間、何かが違った。


「あなた、魔力を使ってた」


断定だった。


カイとブロムが、同時に足を止める。


「……は?」

「魔力って、あの魔法の?」


カイの声に、フィーネは首を振る。


「派手な魔法じゃないわ。

 でも、あのとき……レイの動きに、わずかな“流れ”が乗ってた」


レイは眉をひそめる。


「流れ?」


「ええ。

 剣を振った瞬間、魔力が身体の内側から押し出されてた」


フィーネは、ゆっくりとこちらを向いた。


「自覚は、ないでしょう?」


「……ない」


即答だった。


魔法を使った感覚など、一度もない。

呪文も、詠唱も、知識もない。


「それでも、確かに反応があった」


フィーネの声は、静かだが確信に満ちている。


「だから……ギルドには、報告しない方がいい」


その言葉に、ブロムが眉を上げた。


「報告しねぇのか?

 魔力が使えるなら、評価も上がるだろ」


フィーネは、首を横に振る。


「それは、エルフや魔力適性のある種族の場合よ」


彼女は、言葉を選びながら続けた。


「この世界で、魔力を扱えるかどうかは、基本的に“種族”に依存しているの」


それは、レイにも分かる話だった。


「エルフは魔力操作に適している。

 私たちは、生まれたときから“流れ”を感じ取れる」


「ドワーフは魔力より技術。

 鳥人は感覚と身体能力。

 人族は……平均的で、突出した特性はない」


そこで、フィーネは一度言葉を切る。


「だからこそ、人族が自然に魔力を扱えるのは――かなり例外的なの」


胸の奥が、ひやりとした。


「……でも、デミヒューマンで魔法を使う奴はいるだろ?」


「ええ。いるわ」


フィーネは、すぐに肯定した。


「でも、その人たちは“特別な存在”として扱われる」


「国に登録されるか、魔術師ギルドに所属するか……

 場合によっては、常に管理される立場になる」


レイは、これまでに見てきた光景を思い出していた。

聖堂に囲われた術師。

騎士団の命令で動く魔法使い。


「戦力として価値がある、という意味では好待遇よ」

「でも同時に、自由は制限される」


夕暮れの風が、四人の間を抜けていく。


「あなたが今、

 “人族でありながら、種族由来ではない魔力反応”を示していると知られたら――」


フィーネは、はっきりと言った。


「聖堂か、国か。

 どちらかが、必ず動く」


レイは、無言で拳を握った。


「調査という名目で、身体検査、適性測定、魔力検証」

「最悪の場合、あなたの意思とは関係なく、立場が決まる」


「……だから、報告しないのか」


「ええ」


フィーネは、静かに頷いた。


「制御もできていない力を、

 “価値”として差し出す必要はない」


「少なくとも、あなた自身がどうしたいか決めるまでは」


レイは、深く息を吸った。


「……頼む」


短い言葉だったが、迷いはなかった。


「管理される前に、

 まず自分で知りたい」


フィーネは、小さく頷く。


「それでいいわ」


一歩、距離を詰めて言う。


「これは隠すためじゃない。

 “時間を稼ぐ”ため」


「あなたが、まだ“ただの冒険者”でいられるうちは、

 私が見る」


ラグナールの灯りが、もうすぐそこまで迫っていた。


レイの中で、まだ名もない力は、

静かに――だが確かに、息づいていた。

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