10.ギルドの判断
ギルドの奥にある応接室は、酒場の喧騒から切り離されたように静かだった。
重厚な扉が閉まると、外の音はほとんど届かない。
壁際には書棚、中央には簡素な応接用の卓。
その向こうに、一人の男が座っていた。
「楽にしてくれ」
落ち着いた声だった。
レイは一礼し、向かいの椅子に腰を下ろす。
男は、この街のギルド長ではない。
服装こそ冒険者ギルドのものだが、どこか雰囲気が違った。
「首都ギルド本部より派遣されている、マルクス・フェルナーだ」
簡潔な名乗り。
「今日は尋問でも処罰でもない。
状況確認と、今後の線引きのために話をする」
卓の上に、いくつかの書類が置かれる。
レイは、その中に見覚えのある地名を見つけた。
――西方の寺院。
――封印解除。
――内部反応。
「寺院の調査報告は、正式に本部へ上がっている」
マルクスは淡々と続ける。
「本来、あの寺院は長年にわたって完全沈黙していた。
聖堂側の記録でも、起動例は存在しない」
レイは黙って聞いた。
「だが、君たちが立ち入ったことで内部が反応し、封印が解除された。
この事実は、かなり重い」
視線が、まっすぐにレイを捉える。
「君自身に、特別な操作や意図はあったか?」
「……ありません」
レイは即答した。
「近づいたら、封印が解けた。
それ以上のことは、分かりません」
「だろうな」
マルクスは頷いた。
「聖堂も、同じ認識だ。
“理由は分からないが、結果だけが起きた”」
その言葉には、どこか距離があった。
「最近、似た報告が増えている。
各地の古い遺構で、断続的な反応が観測され始めている」
「全部、聖堂経由ですか?」
レイが問いかける。
マルクスは、曖昧に肩をすくめた。
「結果としては、そうなる。
だが、現時点で断定はできない」
短い沈黙。
「いずれにせよ、この件は地方ギルドの裁量を超えている」
マルクスははっきりと言った。
「君たちを危険人物扱いするつもりはない。
だが、本部としては“観測対象”として扱う」
その言葉は、静かだが重かった。
「処罰でも、栄誉でもない。
単に、流れの中にいるというだけだ」
レイは、背筋を正す。
「……何を、すればいいんでしょうか」
「簡単だ」
マルクスは指を組んだ。
「無理に前へ出るな。
聖堂と距離を保て。
異変を感じたら、必ずギルドを通して報告しろ」
それは命令ではなく、現実的な忠告だった。
「冒険者は英雄じゃない。
生き延びるのが仕事だ」
その言葉は、守備隊長の忠告と重なる。
「君は、今のところ、ただの中級冒険者だ」
マルクスはそう言って、わずかに笑った。
「それ以上でも、それ以下でもない。
……今のところはな」




