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冒険者の記録  作者: ぽんかん
3.つかの間停戦に動く影
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7.確かな違和感

 勇者の一撃と魔王軍の撤退――

 その余波は、戦場から遠いラグナールにも確実に届いていた。


 冒険者ギルドの掲示板は、いつも以上に埋め尽くされている。

 だが並んでいるのは、討伐ではなく、復旧と後始末の依頼ばかりだった。


 ――崩落した街道の安全確認。

 ――放棄された集落の調査。

 ――魔物に荒らされた農地の整備補助。


「……完全に戦後処理ね」


 フィーネが依頼書を見ながら、静かに言った。


「儲からねぇし、地味だし。嫌がる連中も多いだろうな」

 ブロムが肩をすくめる。


 それでも、レイは一枚の依頼書を手に取った。


【依頼内容】

西方農村地帯にて、戦闘余波による魔物再流入の確認および排除。

併せて、損壊した水路・建屋周辺の安全確保。


「これにしよう」

 短く告げると、仲間たちは特に反対しなかった。


 *


 現地は、思っていた以上に荒れていた。


 畑は踏み荒らされ、水路は土砂で詰まり、

 人の気配が消えた家屋が点在している。


「魔物の数は多くないけど……落ち着いてないわね」

 フィーネが周囲を警戒する。


 予想通り、魔物はすぐに現れた。

 中型が二体、小型が数匹。

 決して楽な相手ではない。


「引きつける!」

 カイが先行し、魔物の注意を引く。


 ブロムが前に出て、盾代わりに受け止める。

 フィーネは詠唱に入ろうと――した、その瞬間だった。


 ――空気が、揺れた。


 魔物の動きが、一瞬だけ鈍る。

 ほんの刹那。だが、確かに。


「……え?」


 フィーネの声と、レイの感覚が重なった。


 レイ自身も、驚いていた。

 剣を振るおうとした、その直前――

 胸の奥から、熱とも違う、奇妙な“流れ”を感じたのだ。


(……今の、何だ?)


 考える間もなく、体が動く。


 踏み込みが、いつもより軽い。

 剣の軌道が、自然と最短を描く。


 一撃。

 魔物の動きが、完全に止まった。


「今だ!」

 ブロムが止めを刺し、戦闘は一気に終息した。


 静寂。


 レイは、自分の手を見つめた。

 震えてはいない。

 だが、確信だけが残っている。


(……偶然じゃない)


 フィーネが、ゆっくりとこちらを見る。

 視線が合った瞬間、彼女は小さく息を呑んだ。


「……レイ。今、何かした?」

「いや……何も」


 嘘ではない。

 だが、完全な真実でもなかった。


 フィーネは一拍置き、静かに言う。


「……魔力が、動いたわ。はっきりと」


 その言葉で、すべてが繋がった。


 寺院での起動。

 胸の水晶。

 説明できなかった違和感の数々。


 レイは、ゆっくりと息を吐いた。


「……やっぱり、か」


 使える、とは言えない。

 制御も、理解もできていない。


 だが――

 確かに、自分の中に“何か”がある。


 それを、仲間も認識した。


「無理に使おうとしないで」

 フィーネは、きっぱりと言った。

「今は、まだ“触れてる”だけよ。それ」


 カイも頷く。

「隠せ。少なくとも、街じゃな」


 ブロムは、短く笑った。

「面倒が増えそうだな」


 誰も、喜びはしなかった。

 だが、誰も否定もしなかった。


 復旧作業を終え、村人から礼を受けた帰り道。

 レイは、胸元に意識を向ける。


 水晶は、静かだった。

 だが――以前とは違う。


(……戻れなくなった、ってことか)


 冒険者として。

 ただの剣士として。


 その境界線は、もう曖昧だ。


 戦争は終わっていない。

 世界は、まだ揺れている。


 そして――

 レイ自身もまた、確実に変わり始めていた。

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