(幕間)探す者
皇国の中枢では、勇者の動向が静かに共有されていた。
先の戦い――魔王軍侵攻隊の将軍を撃退した一撃は、確かに戦局を変えた。
だが同時に、それは勇者自身に重い現実を突きつけた。
力が、制御できていない。
一撃の後、勇者は倒れ、長く眠った。
周囲が称賛するほど、本人の表情は冴えなかったという。
「このままでは、また同じことになる」
そう口にしたと、側近は語る。
皇国の助言もあり、勇者は動き始めた。
力に見合う“遺物”を探すために。
古代の武具。
かつての大戦で使われ、今は各地に散逸した遺物。
それらを集め、補修し、自身の力を受け止められる装備を整える――
それが、次の一手だと判断された。
西方の遺跡。
辺境の寺院。
そして、名もなき冒険者が一時手にしていた、古い剣。
それらは、まだ“噂”の段階だった。
だが、確実に線で結ばれ始めている。
勇者は知らない。
その剣が、どんな場所で、どんな眠りから目覚めたのかを。
そして――
誰が、今もその余波の中にいるのかを。
*
フィーネは、歩きながら考えていた。
大森林の調査。
聖堂経由の依頼。
そして、寺院で起きた“起動”。
どれも単独なら、珍しくはない。
だが、重なり方が妙だった。
(……魔力の流れが、変)
レイの背中を見る。
本人は、まったく気づいていない。
剣を構える所作も、呼吸も、以前と大きくは変わらない。
けれど――
戦闘中、ほんの一瞬。
魔物の動きが鈍る瞬間があった。
呪文を唱えた覚えはない。
こちらが干渉する前に、空気が“整った”。
(……気のせい、じゃないわよね)
フィーネは魔導士だ。
魔力の“揺れ”には敏感なほうだと自負している。
それは強い発光でも、明確な詠唱でもなかった。
例えるなら――
風が吹く前に、草が揺れる感覚。
誰かが、意図せず触れてしまったような、微かな干渉。
(でも……本人は、知らない)
レイの表情は、いつも通りだった。
少し不器用で、少し慎重で、無理をしない。
英雄の顔ではない。
だからこそ、余計に気になる。
力を自覚しない者が、力に触れ始めている。
それは、あまりにも危うい。
(……今は、言わないほうがいいわね)
確証はない。
下手に伝えれば、無用な不安を与えるだけだ。
フィーネは、そっと息を吐いた。
今は、見ている。
それでいい。
ただ――
もし次に“はっきりとした揺れ”を感じたら。
そのときは、逃げ道を用意しなければならない。
レイのために。
そして、自分たちのためにも。




