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冒険者の記録  作者: ぽんかん
3.つかの間停戦に動く影
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(幕間)探す者

 皇国の中枢では、勇者の動向が静かに共有されていた。


 先の戦い――魔王軍侵攻隊の将軍を撃退した一撃は、確かに戦局を変えた。

 だが同時に、それは勇者自身に重い現実を突きつけた。


 力が、制御できていない。


 一撃の後、勇者は倒れ、長く眠った。

 周囲が称賛するほど、本人の表情は冴えなかったという。


 「このままでは、また同じことになる」


 そう口にしたと、側近は語る。


 皇国の助言もあり、勇者は動き始めた。

 力に見合う“遺物”を探すために。


 古代の武具。

 かつての大戦で使われ、今は各地に散逸した遺物。


 それらを集め、補修し、自身の力を受け止められる装備を整える――

 それが、次の一手だと判断された。


 西方の遺跡。

 辺境の寺院。

 そして、名もなき冒険者が一時手にしていた、古い剣。


 それらは、まだ“噂”の段階だった。

 だが、確実に線で結ばれ始めている。


 勇者は知らない。

 その剣が、どんな場所で、どんな眠りから目覚めたのかを。


 そして――

 誰が、今もその余波の中にいるのかを。


 *


 フィーネは、歩きながら考えていた。


 大森林の調査。

 聖堂経由の依頼。

 そして、寺院で起きた“起動”。


 どれも単独なら、珍しくはない。

 だが、重なり方が妙だった。


(……魔力の流れが、変)


 レイの背中を見る。


 本人は、まったく気づいていない。

 剣を構える所作も、呼吸も、以前と大きくは変わらない。


 けれど――


 戦闘中、ほんの一瞬。

 魔物の動きが鈍る瞬間があった。


 呪文を唱えた覚えはない。

 こちらが干渉する前に、空気が“整った”。


(……気のせい、じゃないわよね)


 フィーネは魔導士だ。

 魔力の“揺れ”には敏感なほうだと自負している。


 それは強い発光でも、明確な詠唱でもなかった。

 例えるなら――


 風が吹く前に、草が揺れる感覚。


 誰かが、意図せず触れてしまったような、微かな干渉。


(でも……本人は、知らない)


 レイの表情は、いつも通りだった。

 少し不器用で、少し慎重で、無理をしない。


 英雄の顔ではない。


 だからこそ、余計に気になる。


 力を自覚しない者が、力に触れ始めている。

 それは、あまりにも危うい。


(……今は、言わないほうがいいわね)


 確証はない。

 下手に伝えれば、無用な不安を与えるだけだ。


 フィーネは、そっと息を吐いた。


 今は、見ている。

 それでいい。


 ただ――

 もし次に“はっきりとした揺れ”を感じたら。


 そのときは、逃げ道を用意しなければならない。


 レイのために。

 そして、自分たちのためにも。

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